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27、明智秀頼は失敗する

「……」

「……」


5分くらい抱き合い、お互い顔が真っ赤になり、気まずくなって黙りこくっていた。

円相手なら今まで遠慮なくズバズバ言い合えたぶん、来栖さんに対する距離感がわからない。


なんかしてないと気まずくてプリンを食べて、紅茶を飲んで緊張をほぐす。


こういうプリンを前世でも作ってたんだろうな……。


「……」


そう考えると知らなかった来栖さん像がまた浮かび上がる。

あー、ダメだ!

緊張が未だ止まらない。

スマホだ!

スマホを見て気分を変えるしかないとスマホを取り出し、インスタのアプリを開く。


スタチャのインスタに行くと、今日はリーフチャイルドとお茶してトラブルに巻き込まれたよ、みたいな書き込みを見付ける。

スタチャとリーフチャイルドが仲良くツーショットで写った写真も掲載されていた。


あー、今日のスターチャイルドもリーフチャイルドも本当に素敵だ!

いいねを押しておく。


ゴールデンウィークは星子とは全然会えない連休だったが、彼女は多忙なので仕方ない。

インスタやTwitterで絡む程度がせいぜいだ。

どんな兄妹だよ、と今更ながらに突っ込みそうになる。


「明智君の中で星子ちゃんってどんな感じなの?」

「うわっ!?」


いつの間にか円が近付いていて、スマホを後ろからスマホ画面を見ていた。

と、突然来るんだから心臓に悪い。


「い、妹だよ!妹!」

「まぁ、そりゃあそうなんだけどさなんか複雑じゃない?」

「え?」

「いや、私も和っていう妹がいるわけだけど、元の自分に妹が居ないからたまに他人に見える時があるよね?みたいな」

「あぁ、なるほどね。それでいうなら俺なんか星子が妹と知って2年程度だからね。妹だけど、妹とはあんまり見てねーよ」


名前すら知らない両親も合わさり、家族という繋がりがない人生である。

それに円と和は距離感が近くて羨ましい限りだ。


「じゃあ1人の女として見てると?」

「そうだね。異性の女の子であり、憧れのアイドルといっても過言ではない」

「ふーん」

「?」


円が気に食わなそうな目を向ける。

妹の価値感に引いている感じだが、それは仕方ない。

しかも、星子が俺を兄として慕ってくれて可愛いんだよな。


「これが異性の女の子とかずるくない……?」

「円?」


スタチャを複雑そうな目で見ているのであった。

それから、なんで円がギャルゲーの『悲しみの連鎖を断ち切り』をプレイしたのか?といった会話をする。

今まで過去の不干渉を決めていた相手からその内容を聞かされるのはすごく新鮮だった。

それから他愛ない話を続けて1時間はあっという間に過ぎる。

話と区切りとばかりに1分くらい会話が途切れ、俺は今日絶対にするべきだった話を切り出す。


「なぁ、これから大事な話がある」

「そ、そうだ!明智君が良かったらなんだけど私たち付き合……え!?大事な話」

「あ、ごめん……」


そして、次の話題へ移ろうとすると同時に口を開いてしまう。

それが原因で円を謝らせてしまい申し訳ない。

しかし、これも早く伝えるべきであろう。

その話題を挙げる。


「実はエニアに目を付けられてしまった」

「……え?エニア?」

「エニア。ウチの部活の概念さん」

「あ、やっぱり概念さんってエニアだったんだ。原作のラスボスの人だよね?」

「あぁ……。既にエニアから明智秀頼が危険人物としてマークされてしまった」

「えぇ!?あ、明智君どうするの!?」


どうもこうもない。

やはりラスボス、嗅覚が強すぎる。


「円は非ギフト所持者でもありエニアは眼中にない筈だ。エニアには円が前世持ちとは知られていない。だから、円が俺と同じ境遇なのを知られたくない」


もしかしたら排除するなどの強行突破をされたら円には防ぎようがない。

俺ならいくらでも障害をはね除けられるが、円には無理だ。


「わ、わかった!だ……大丈夫よ!絵美や永遠らに紛れていれば私だって一般人よ!」

「な、なら良いんだが……」


どうなるかまだまだわからない。

エニアの去り際から嫌な予感がずっと離れなかった。


「しかし、エニアが次に打ってくる手を考えなくてはならない」

「打ってくる手?」


俺が今日のために準備したノートを円に渡す。

十文字理沙、三島遥香などの初代ヒロインからファイナルシーズンのヒロインまで全員の名前が記入されたものを用意した。


「あー!懐かしい!こんな子居たわね!赤坂乙葉って十文字君の従妹の子か。理知歩愛紗は確かエニアの弱点みたいな人よね。あー!茜とかも懐かしい」


円が「居た居た!」と盛り上がっている。

やっぱり来栖さんと同じだからか、感情表現が豊かな子だ。


「もし俺がエニアだった場合をシミュレーションしてみた。そうすると打つべき対策はファイナルシーズンのヒロイン理知歩愛紗。彼女を守るべきかもしれない」

「理知歩愛紗?そんなヒロイン居ないわよ」

「…………は?今ちょうど愛紗の話題になってたじゃねーかよ。彼女がエニア討伐におけるキーパーソンって話してるし、4月に理知歩愛紗が同じ学年に居るのを確認したじゃねーか!」

「理知歩愛紗?そんな人、ギフトアカデミーに在籍していたかしら?」

「は……?な、何言ってるんだ?」

「ん?」


俺は背筋が凍るような感覚に陥る。

ギフトアカデミーに入学し、同学年のヒロインだけは円と把握した。

当然、理知歩愛紗の存在もこないだまでヒロインだと円も認識していた。

彼女は絶対守るべきだと円も賛同していた。

ついさっき円の口から『理知歩愛紗』の名前が出たのをはっきりと聞いている……。


しかし、エニアと出会った今日に都合良くエニア討伐の最重要人物の理知歩愛紗の存在が円の中から消えている。

彼女が存在しないとエニア討伐は不可能である大事なキャラクターなので今年中にはコンタクトを取るべきヒロインであったと円と打ち合わせしたのに……。

俺は慌てて円に渡したノートを手に取る。















何ぃ! ノートを書き換えただと!?


先ほどまでノートに記載されていた『理知歩愛紗』の文字が抹消している。

おそらく円の記憶どころか、この世界から『理知歩愛紗』の存在そのものをこの瞬間に消滅させられた……。

エニアに対策を打たれてしまった……。

絶対にエニアが裏で暗躍してやがる……。

彼女の存在を記憶しているのは既に俺とエニアしかこの世界に居ないのだろう。


理知歩愛紗の身になにかが起きたのは明白だ……。

俺は思った以上にやらかしてしまったらしい。


「明智君?明智君!?顔が真っ青よ!?」


失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した……。

俺は原作の展開を詰んでしまったという恐怖が襲ってきた。

とんでもない事態を引き起こしてしまったかもしれない……。





それからは、円から「明智君の体調が悪そうだし今日は解散しましょう」と提案されてしまった。

本当はまだまだ円と話したいことがあったのだけれど、どうしてこんなことになったんだ……?

温い風を浴びながら俺は自宅へと引き返していった。

秀頼君は今世一のしくじりをやらかしました。

その詳細は次回語ります。





次回、エニアの暗躍。

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