25、明智秀頼は執着がない
明るく笑う円は床に置いたお盆を取り、運び、円の部屋にあった小さいテーブルに置いていく。
紅茶のカップが2つ、プリンが2つ。
……あ、そもそも和のぶん準備してねーわ。
「さ、明智君もこっち来てお話ししましょう」
「う、うん……」
円に誘われてギクシャクと動く。
テーブルに着くと、円がプリンを持ち上げる。
「このプリン私が昨夜に作ったプリンなの!食べて食べて!」
「い、いただきます」
皿にプリンが乗っていて、生クリームでデコレーションした可愛らしい形をしている。
喫茶店やファミレスに置いていそうな凝ったプリンである。
添えられたスプーンでプリンを掬い、口に運ぶ。
市販品とは違う卵の味が効いたプリンと甘さ控えめな生クリームが絶妙に混ざり口に広がる。
「あっ!めっちゃ旨い!」
「でしょ!」
「プリンの口触りが市販品と違う感じして良いね!」
「当然よ!私、前世でもお菓子作り得意だったんだから!」
「そうなんだ!」
円の意外な特技を聞かされて感心した。
家庭的なこと、全部ダメなイメージがあったから。
「プロ級ってやつか?」
「プロ級だなんてそんな……。あと意味は理解できるけど急に『プロ』なんて言葉が出て驚いたよ明智君」
「そ、そうなんだ……。じゃあ横文字NGだね」
「ガンガン使って良いよ!」
「えぇ!?」
「それに私が驚いたのは横文字じゃなくて、プロって明智君が褒めてくれたことに対してだよ」
耳打ちしたささやかれる声。
円の吐息が耳に当たり、小恥ずかしい気持ちになる。
なんかテレる。
円も、プリンも、空気も、部屋も甘いなぁ!
紅茶を飲むも紅茶も甘い。
なんか思考もピンクに染まり掛けていてダメだった……。
「あ、明智君に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
そういうと少し頬を染めらせモジモジする円。
俺の顔を見て、すぐに目を反らす。
本当に最近の円はよくわからない。
「わ、私と明智君はぜ……前世持ちという過去があるわけよね?」
「あぁ、まあな」
「お互い不干渉決め込んでいたけど……、明かしてみない!?」
「……なんで?」
なんだろう、この円からは下心を感じる。
なんか俺の不利益になりそう……。
「わ……わわわわわ、私と明智君の絆を深めるためにねっ!」
「すっげー動揺してんじゃん!?なんか下心あるだろ!?」
「な、ないわよ!うん、ない!」
スタヴァ姉ちゃんから騙されそうになったのもあり、女性への警戒心を高めている。
概念さんの差し金の可能性もある。
用心をするしかないのだ。
「円から不干渉って決めたじゃん?なんなの、今更?」
「う……。こんなことなら最初からバラしておけば……」
「ゴミクズって呼んでたよね?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「怒ってはないが、無かった過去にはしねーからな」
本当に怒っているわけではないが、態度も二転三転されるのも困りものだ。
長年付き合ったこともあり、円とは前世を知らないからこそ遠慮なくズバズバ言える関係になっていて、それが好きだった。
「それにさ、……俺もうあんまり前世に対する執着がないんだ……」
「え!?く、詳しく!」
「詳しくって……。別に大した話じゃねーけど……」
こないだ、俺の夢に来栖さんが登場してさ。
会話してみたらお互いもう別の道を歩いているんだって痛感して……。
交われないのを知った……。
もしかしたらこのゲームをクリアしたらまた豊臣光秀に戻れるかもなんて考えたこともあったけど無理そうだ。
来栖さんも亡くなったみたいで、別の世界で生きているみたいで吹っ切れざるを得ないんだ。
いつまでも、来栖さんの恋愛を引きずらない。
そう決めて、心に封印した。
本当に、あの夢が全てを俺に諦めさせてくれたよ。
「円にあんまりこんな話したくねーけど……。こないださ夢に前世で好きだった女の子が夢に出たんだよ」
「はぁ……。は?え?な、なんで!?」
「なんでって……。それは知らんけど……」
あくまで夢の話だ。
「その子とさ夢でいっぱい話しまくったんだ」
「ふーん。……え?私そんなの知らないんだけど」
「そりゃあ知らんでしょ……。その子、俺が死んだ1年後に亡くなったんだって」
「うん、死んだよ」
「いや、円の話じゃないよ!?……で、彼女ゲームの世界で転生生活を送っているみたいなんだよね」
「してるけど!本当にゲームの世界に転生してる!ちょっと待って?なんで当たってんの?」
「だから君は関係ないって。俺の夢に前世で好きな女の子が現れたって話だからね!?」
なんで来栖さんの話してんのに円が当事者みたいな反応をしているのか理解に苦しむ。
あんまり前世の恋心に干渉しないで欲しい。
次回、言っちゃえよ円!