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2、津軽円に起きているイレギュラー

「おー、待ってたぞ理沙」

「兄さん……、律儀に待たなくても良いのに」


待っていないならいないで、めっちゃ怒ってひねくれて半日以上機嫌悪くなるブラコンなのを俺は知っている。

体験版範囲の学園ラブコメパートにそんな描写があった。


「秀頼くーん、やっぱりわたし秀頼君が居ないクラスでやっていけないよー」

「どうしたんだ急に?脈絡のない女だな……」

「絵美さんは、どう考えてもあれを引きずってますね……」

「あれってなんだ?」


俺がクラスに居ないとしても、ここまで打ちのめされた態度の絵美ははじめてだ。

事情を知っている理沙は、よしよしと絵美の頭を撫でて慰めていた。


「絵美さんが隣の席の女に挨拶したんだけど、実はその人、兄さんか明智さんの知り合いっぽいらしくてなぜか絵美さんがボロクソに言われまくったの」


なにそれ、意味がわからない。

俺ではない以上、無自覚ラブコメ主人公タケルの仕業に違いない。


「オイオイ、怖いな!タケルの女やべーじゃん」

「はぁ!?俺の知り合いにそんなやべー奴いるわけないだろ!?どうせ、秀頼が過去に泣かせた女だろう」

「いるわけねーだろそんな奴!お前結構人気あるんだからな?」

「お前だって影でひっそりとモテたりしてるんだぞ!?」

「喧嘩しないのっ!」


理沙がタケルを、絵美が俺を制止させる。


「そ、そんなひっそりモテてるとか……、あんまり盛るなよ」

「俺が結構人気あるとか、出任せ言うなよ……」

「嬉しそうね、あなた達……」

「真面目な喧嘩1つできないのもどうかと……」


ひ、ひっそりモテるか……。

後で誰にモテているのか聞いてみたいな。


「それで名前は?」

「津軽さん。津軽円っていう人」

「いや、知らねーな」


「本当?」と理沙に聞かれても「マジマジ」と答えていた。

前のクラスメートでもないし、そりゃあ知らんよな。


「じゃあ秀頼君は?」

「面識はないな……」


知ってはいるけど。

当然、原作キャラではあるけど彼女は非常に立ち位置が特殊なタイプ。


ヒロインである理沙ではなく、サブキャラである絵美に近い。

『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズ全体を通して1番警戒の必要のないキャラである。


一般人だし、背景に黒い影もない。

秀頼からの悪事の被害者にもならない。

どんな悲惨なルートでも被害0の1番安全ポジションの美味しい立ち位置。


彼女は日常を象徴するキャラクターである。

体験版詐欺では目立つ位置だが、シリアスな個別ルートでは背景役。

賑やかし要員なのが、津軽円という女キャラクターである。


鬱ゲーと見られがちな『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズだが、体験版はかなり王道でワチャワチャした学園ラブコメなのである。

この明暗のギャップがクセになると、もっぱらの評判である。


そして、バッドエンドを迎えた時に『お役立て情報のモブ軽さん』という、雰囲気ぶち壊しシリアスブレイカーな津軽主人公のミニコーナーが始まる。


絵美や理沙とも仲良く、若干レズが混ざっているサービス要員。


ほっといても問題ないキャラだ。


……が、そんなキャラが絵美にボロクソを言ってくるキャラとは思えない。

なんか、原作と剥離してる気がする。


「それで、彼女に具体的に何言われたの?」

「弱みを握らせたくないとか」

「兄さんの弱点探しに巻き込まないで欲しいとか」

「背景にいる秀頼君が怖いとか」

「げんさく?に巻き込むなとか」


「俺の弱点探しってなんだよ」と言いながら、ちんぷんかんぷんな顔をする3人。


「ラリってるんじゃねーか?」

「兄さんもそう思うよね」

「近寄らない方が良いかも」


3人で進行しているが、俺の脳内の情報はパンクしていた。

げんさく?に巻き込むって、『原作に巻き込む』ってことだろ。


「……」


俺の知らないイレギュラーが完全に、津軽円という女の身に起きているようだ。

え、やだ怖い。


「……秀頼君、何か知ってるの?」

「知らないけど、まぁその津軽さんって人に何が起きてるかは想像できたよ」

「え?何それ?」

「被害妄想でしょ、付き合うだけ損よ。そんな相手はね」


よくもまぁべらべらとしゃべってくれたもんだ。

背景キャラだからノーマークだったが、はっきり言って1番の危険人物に津軽円がトップにぶっちぎったのは間違いない。


「かえろ、かえろ」


さて、干渉するべきか。

ほっとくべきか。

悩み事が1つ増えたもんだ。


「『被害妄想』、『付き合うだけ損』、ずいぶんとまぁ都合の良い言葉ばかり並べたものね」

「うわっ、びっくりした!?」


音もなく、影もなく、脈絡なく俺の背後に女子生徒がいた。

星飾りのカチューシャを付けて、手首にシュシュ、長い髪を結わずにそのまま手入れされているキレイな髪だ。

しかし、ギャルゲーにありがちな奇抜な緑色髪という容姿の女である。

緑髪は不人気ヒロインだとあれほど……、いや別にヒロインですらないからこれで良いのか。


俺はやや茶色っぽい髪色、絵美は栗色、タケルと理沙は黒髪と今までの原作キャラは割りと現実味のある色だったぶん派手に見える。

それを言ったら、今後白髪とかピンクとか色々なヒロインが登場するんだけどね。


「緑とか派手な髪色してんな」

「え?普通じゃない?」

「……」


理沙から見て緑色でも普通の髪色らしい。

つまりこの世界の住民は、俺の元居た価値観は通用しないことになる。

その辺ガバガバなので、この世界がゲームだなって気がする。


「つ、津軽さんだ……」


ひょこっと絵美は俺の後ろに隠れた。

よっぽど怖い目にあったらしいな……。

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