39、津軽円は機嫌が良い
「う……」
俺か目を覚ますと自分の部屋に居た。
確か、三島とヨルと廃墟で別れて……。
家に着いた瞬間ぶっ倒れたんだったか……。
「おはよっ、明智君」
「くる…………円?」
ついさっきまで来栖さんが夢に出ていた。
その時と同じ言葉で声を掛けてきたからまた来栖さんが来たかと思った。
しかし、星飾りのカチューシャ、手首のシュシュ、緑色のキレイな髪の容姿の女が横に座っていた。
どう見ても津軽円であった。
「あれ?俺いつベッドで寝てたんだ?」
「えっと……、明智君が倒れた後に叔父さんがベッドに入れてくれたとか聞いたけど……」
「叔父さんが……?」
そういえば今日は日曜日か……。
叔父さんの休日だったか。
あの人に変な借りが出来ちゃったみたいだ……。
「…………あれ?なんで円は制服着てるの?」
「あんた1日眠り続けてたのよ。もう月曜日よ」
「え……?」
2日間ずっと『エナジードレイン』を浴び続けた結果、こんなに意識を失っていたとは……。
やっぱりギフトは規格外過ぎる力だ。
「マジか……。学校サボっちゃったか……」
「学校サボりより、自分の身体を心配しなさい」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、……なんか今日の円、優しくない?」
円の毒舌が全然飛んで来ない。
『学校サボってクズね』くらいのジャブは身構えていただけに『本当にこの人円?』と疑ってしまう。
「……そんなに普段の私ってキツイ……?」
「自分の胸に聞いてみたら?」
「えっ!?胸っ!?セクハラ!?」
「えっ!?」
何その反応……?
俺が最低発言したみたいじゃん……。
「なんか君、……ポンコツになってない?」
「な、なってないわよ!ふ、普段通りの津軽円よ」
「そうか?なら良いんだが……」
来栖さんの夢を見た直後に毒舌円を期待していたらポンコツ円になっていて焦る。
というかなんでちょっと来栖さんみたいなポンコツになってんのこの人……?
「ごめんなさい……。『エナジードレイン』で無理をさせちゃったみたいで……」
「まどか……」
「私が三島遥香を助けたいって言ったのに、全部明智君に丸投げして……。ごめんなさい……」
円が泣きながら頭を下げる。
本当に彼女はどうしたのかさっぱりわからない。
けど……、別に怒ってもなんでもない……。
「気にしてねーよ。というか俺だからこれで済んでいるけど円とか普通の人があんなことしてたら死んでてもおかしくねぇよ。それでも気になるってんなら今度なんか飯奢ってくれるとかで良いよ」
「奢る。なんでも奢る。むしろ一生奢り続ける」
「一生は重い」
「あぅ……」
なんかやりにくいな……。
毒舌してくれたら俺も強く出れるのに。
「ね、ねぇ……、明智君」
「ん?」
「その……。前に和と初対面だった時に手品していたって和から聞いてたけど、明智君覚えてる?」
「はじめて円の家に遊びに行った時だよな、覚えてる」
「はじめて……」
「なんで顔赤くなるの?」
「だ、だってはじめて私の家にとか言うから……」
照れたように赤くなる円。
これ、もしかしてまだ夢の中?
また都合の良い円の夢?
「その、和に見せた手品を私にも見せて欲しい」
「…………え?」
円から突然手品を振られるのが予想外過ぎた。
しかも、和に手品見せた時に『てじなーにゃ』をしてからガチ説教をされたのがトラウマになっている。
意味がわからなかったけど、円の眼は真剣であった。
引き出しからトランプを取ってもらい、カードをシャッフルしながら和に見せた手品はなんだったか考える。
はじめて手品を見せる相手には柄が変わるやつを見せることが多いから、多分それで良いはずだ。
「カードを引いて」
「うん……」
重い空気の中、手品を披露していく。
「ほら、こうすると……じゃーん」
「…………柄が違う」
「うん……」
こんなに反応が悪い手品ある……?
円の表情が全く読めない……。
なんなの!?
嫌がらせ!?
怖いよこの人……。
「てじなーにゃ」
「…………」
……なぜ滑るとわかってやってしまうのか。
円の目は冷ややかなものだった。
空気が重くて、起きてしまったことを後悔する……。
円が部屋を出て行くまで寝た振りをしてた方が良かったかもしれない……。
自分を対象にして【気絶しろ】とギフトを使いたいところだが、残念ながら『命令支配』は俺には効かないというデメリットがある。
原作秀頼が言う様に俺のギフトなまだまだ未完成なギフトなんだよなぁ……。
「もう1回見せて」
「あー……。俺1人に対して同じ手品見せない主義だから。新鮮味とかワクワク感失うでしょ。だから終わり」
「っ……」
というか違う手品ももうやりたくない……。
円の前で手品なんか2度とするもんかという思いが強くなる。
「円……?」
「っ……!?えっ!?」
「さっきよりもっと顔が赤いぞ?」
「…………」
茹でタコみたいに真っ赤の頬の円。
なんか照れているのかはわからないけど、本当に意味がわからない。
今日の円は本当にどうしちゃったんだ?
「ふ、ふふっ。ちょっと嬉しいことがあってね」
「嬉しいこと?」
「うん!……そっか、この気持ちは間違いでもなんでもなかったんだね。うん。大好き」
「ん?」
「さよなら、明智君。今日はちょっと落ち着きたいから帰るわね」
いつにもなく機嫌が良い円。
彼女とは付き合いが長いが、こんなに機嫌が良い円を見るのは本当にはじめてだ。
「そ、その……」
「うん」
「私も君のこと、ずっと忘れてなかったよ」
それだけ言って部屋から消えて行く。
普段から考えが読めない奴が、より考えが読めなくて俺は混乱していた。
円怖い……。
機嫌が良い円は円じゃねーよ……。
しばらくあいつとは距離を置こうかと本気で思った出来事であった……。
明日の2話更新で200話達成になります。
その記念ということで、明日は原作時系列の番外編を連載します。
内容の予告
鳥籠の少女編バッドエンド。