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29、病弱の代償・漆黒

「はぁ……、はぁ……はぁ……」


寝汗が凄い悪夢だった。

夢の内容はわからないし、覚えてない。

でも、恐ろしい夢であったのは間違いない。


「起きることができて良かった……」


もしかしたらボクはこのままずっと目が冷めないんじゃないかと不安だった。

ずっと悪夢の世界で生きていかなくちゃいけないのかと、そんなことを夢を見ながら思っていた。


「うっげ……、もう10時前じゃん……」


目覚まし時計を見て驚いた。

休みの日でも8時くらいには嫌でも家族がバタバタする音がして目が覚めるのに2時間も寝過ごすなんて……。


…………あれ?

おかしい、生活音が一切しない。

時を刻む時計の音が嫌に大きい。


お父さん、お母さん、和馬、ネコ助。

休日は誰かしらの足音が鳴り止まない廊下からなんの音もしない。


悪夢の不安が過る。

闇がボクの家を包んだことを思い出し、背中からまた汗が流れる。


「……違うよね?ここ、現実だよね?」


10時の休日は毎日両親が居間でテレビ見てたり、和馬がゲームしてたり、ネコ助が家を徘徊している時間。

ボクは恐る恐る自室の部屋を出る。


「……音がない」


居間に向かう。

誰もいない。


トイレに向かう。

誰もいない。


台所に向かう。

誰もいない。


「ははっ、出掛けたのかな?……出掛けたんだよね?」


涙目になって両親の寝室を開ける。


「お父さん?お母さん……?」


恐る恐る声を出す。

2人が寝ている布団に目を向けると2人ぶんの影がある。


「はぁ……、良かった。ボクと同じで寝過ごしただけか……」


安心して心から安堵する。

良かった、消えちゃったかと思った。


「お父さん!お母さん!もう10時だよ!そろそろ起きないと…………?」


誰これ?

お父さんとお母さんが寝ている布団に知らない人が寝ている。


「…………ぅ」


近付くとその2人は本当にボクの知らない人だった。


誰これ……?


なんでボクのお父さんとお母さんが寝ているところに誰の姿かもわからない『白骨』が置いてあるの……?





「ぅ…………うげぇ……」


口から胃液が流れる。


「げぇ……、があぁぁああ……」


ボクはこの『白骨』の正体に気付いてしまって床に思いっきりものを吐き出してしまう。


なんで……?




どうしてお父さんとお母さんが『白骨』に変わってしまったの……?


頭でまったく理解できないまま涙を流して逃げ出すように両親の寝室を出た。


死臭がボクの鼻に残って気持ち悪い……。


慌てて部屋を抜け出し、住み慣れた家で叫んだ。


「和馬!和馬ぁ!ねぇ、起きて!」


どうしてこんなに叫んでいるのに和馬は出てこないの?

ゲームしてるだけだよね?

イヤホン付けてボクの声が聞こえないだけだよね……?


「和馬!ちょっと!」


ボクは部屋のノックもしないで和馬の部屋を乱暴に開ける。

中は普段の和馬の部屋だ。

マンガ、勉強机、ゲームが視界に入る。

そして和馬が寝ているベッドには人影がある。

ボクは名前を呼びながらベッドに近付く。


「和馬……、起き…………て?」


なんで……?

どうして和馬の部屋にも『白骨』が置かれているの……?

しかも『白骨』が着ている服は昨夜ネコ助ミサイルを命中させた時と同じ服だ……。


「な……んで?」


誰がこんなことしたの……?

ボクが寝ている間に家に強盗が入って口封じしたとか……?


いや、全然家は荒らされてない。

それにナイフで刺されたとかではない。

なんで『白骨』になっているの……?

何をすればこんな死後数年経ったみたいに原型がない姿になるの……?




わからない。

本当にここは現実なの?

まだ夢の世界だよね?


ボクが玄関を歩く。

そこに腐った大きい物が転がっている。

明らかに家に置いた記憶のないもので、不自然で駆け寄った……。


「ネコ助……?」


ネコの死骸が無造作に置かれている。

わからない、わからない、わからない。


なんでボク以外のみんなが魂を抜かれたみたいに死んでいる……?


「…………え?」


魂を抜かれた……?





『エナジードレイン』?






ボクは部屋に戻り、明智さんから受け取っていたギフト板を装着して鏡に自分の姿を映す。

違う、ボクはギフトを克服したはず……。


ギフトの力を出していない!

それを確かめるために恐る恐る自分の姿を確かめる。




「なにこれ……?」


どす黒いギフトの塊がボクを守るように発動されている。

見たことないくらいに肥大したそれは部屋中を黒く染め上げている。

漆黒のそれは触れてはいけない危険な物だと人間の本能が告げる。


「すぅー……、はぁ……」


明智さんに教わったギフトをコントロールすると少しは収まった。

しかし、今まで出来ていた『エナジードレイン』を完全に制御することができない。


「なんで……?じゃあ……ボクがみんなを、殺した……?」


優しくてギフトを覚醒しても変わらずボクを愛してくれた両親。

憎たらしいけど、なんやかんや仲の良かった弟。

ボクがずっと可愛がっていたペット。




ボクが家族全員を殺した犯人……?




現実が直視できなくてボクは自転車で移動する。

10時過ぎになると通行人がたくさんいる。

自転車で切る風は夢なんかじゃない。

夢にしては再現され過ぎている現実の世界。



悪夢だと思っていたこの世界は、本物の世界。



ボクは現実から逃避するように廃墟内に逃げ込んでいた。

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