17、三島遥香
円との電話相談から一夜。
みんなと教室に着いてから俺はこっそり抜け出す。
隣のクラスでは三島の姿は確認できなかった。
そんなわけで階段でスタンバっていると1つの小さい影を見付ける。
目当ての子であった。
水色の髪色をしたやや小柄な少女。
短い短髪は見た目よりも年齢を若く演出している。
小さい身体に不釣り合いなほど、胸は大きめだ。
ロ●巨乳という体型でメタフィクション世界では語られていた。
「おはようございます」
「ん?お、おはようございます……」
見知らぬ俺から突然の挨拶に彼女は不審な目を向ける。
しかし、どこか疲労感のある顔付きだ。
本当はやりたく無かったが、俺は原作の明智秀頼を演じることにする。
「……」
そのままペコっと頭を下げて俺を横切る。
その間際に俺が彼女へ一言指摘する。
「君からはとても強いギフトの力が感じるな」
「……え?」
「気付いているんだろ?そのギフトは周りから君を崩壊させる。悪魔のギフトだ」
「ぼ……ボクのギフトに気付いているんですか……?」
もしかしたら、この世界でも1度だけタケルとぶつかっているかもしれない。
プロローグで一瞬だけ登場した『ボクっ娘』のヒロイン、それが三島遥香だ。
「当然。なんたってギフトのことはたくさん研究してきたからな。……俺の名前は明智秀頼だ」
「……三島遥香、です」
「三島か。よろしくな」
ゲームで語られた三島遥香目線の明智秀頼との出会いはこんな感じだったはずだ。
よし、とりあえずはギフトで悩んでいるのはビンゴみたいだな。
彼女が少し挙動不審に変わったのもまさに図星を付かれたと確信した。
「本当に明智さんはボクのギフトに気付いているですか?」
「あぁ、君の近くで人が体調を崩しているんだろ」
「えっ!?ほ、本当に……?」
「俺はギフトから身を守る力が強いからな。なんとなく、そんな気配がしていた……」
本当は『ギフトから身を守る力』ではなく、『ギフト耐性』なるわけわからん単語が出てきたシーンである。
しかし、そんな単語は転生してから1度も聞いたことがない。
単に秀頼のでっち上げなのか、秀頼が命名したのか、真実なのかは俺も知らない。
だからこそ、ギフト耐性なるわけわからん言葉は出さないでおいた。
「少し会話しただけなのに、変な汗が出るな……」
「すいません……。ボクのギフトの影響ですよね……」
「これは周りも君も大変だな……」
演技でもなんでもなく、暑くもないのに額から汗が止まらない。
彼女のギフトが俺に向けられている。
彼女のギフトは全然制御できていない。
かなり危険な状態だ。
俺のギフトで例えるなら常時『命令支配』を出しっぱにしている状態だ。
不用意な発言も許されなくなる。
例えば『ジャパン人を殺せ』って言ったら誰の意思も関係なくやっちまうわけだ。
タケルも、常時『アンチギフト』を発動している状態だが、あれは害のないギフトだから誰にも影響がないのだ。
実害があるなら、タケルも三島みたいになっていた可能性は十二分にある。
「君のギフトに名前を付けようか。『エナジードレイン』というところか。元気や体力、魂など色々な力が全部君に持っていかれている」
円と行動したくてもできない理由。
こんなのギフト耐性のない彼女が受けたらひとたまりもないだろう。
これが『病弱の代償』の真相。
病弱だった彼女が元気に学校へ通えている理由は『エナジードレイン』で周りから力を盗んでしまっているからだ。
「ぼ、ボクはどうしたら良いでしょうか……?ボクが元気になるつれ、周りがだんだん体調を崩したりして……。クラスで変に疫病神扱いされて、ちょっと困ってて……」
「ギフトの力を使いこなせるようにしなきゃならないな。そうすれば自ずと疫病神扱いされなくなるさ」
「で、でもボクそんなのできない……。いつ覚醒したのかもわからなくて……。ギフトが発動しているのすらこないだまで気付いてなくて……」
三島は不安な顔を向けてくる。
進学早々と気が滅入ることを言われ続けたのかもしれないな……。
「安心しろ。俺がギフトの使い方をお前に教えてやる」
「明智さん……」
「とりあえず連絡先交換をしよう。スマホは持ってる?」
「は、はい!」
三島とスマホの連絡先を交換した。
よし、ゲームの明智秀頼をなぞるのが不本意な話であるがあいつのヒロインへの距離の詰め方だけはすこぶる上手いからな。
「じゃあ、また会いましょう明智さん」
「よろしくね」
三島がペコリと頭を下げて消えていく。
彼女の姿が見えなくなったのを見届けて、膝が床に着く。
「キッツ……。なんだよ、これ……」
あまりに近距離で話していたからか、少し貧血を起こしていた。
『エナジードレイン』でかなり力を彼女に持っていかれた。
「最悪だ……」
ギフト耐性ってなんだよ……。
本当にきつい……。
原作の明智秀頼さん、ちょっと身体張りすぎじゃねーかな?
マジで彼女のギフトはパンドラの匣だ。
彼女のギフトが完全暴走した際に絵美が触っただけで死ぬのもわかる。
というか多分秀頼も死んでただろう……。
このルートでは、勧善懲悪とばかりにタケルに秀頼が殺害されてしまうのだが……。
「やべっ……、気持ち悪い」
今から動かねぇといけねぇの?
1時間目は数学とかやってらんねぇ……。
サボるか……。
俺は近くの空き教室の机に座り、身体ごと机に倒れる。
あー、机が気持ち良い……。
俺はしばらく机から離れられなくなっていた。
「ジーっ。明智の本性を暴いてやる」
赤い目の少女が遠巻きにその光景を目撃していた。
胸のペンダントがキラッと光を反射していた……。
第7章 プロローグ
第157部分 番外編、プロローグ2
タケルがぶつかったボクっ娘は三島遥香になります。
『アンチギフト』の効果により『エナジードレイン』は発動しませんでした。
普通の人がタケルみたいにぶつかってしまうと、立ちくらみが一瞬起こるくらいの被害があります。
絵美、永遠、円の心境を抱えたままですが、
これより『病弱の代償』編を本格スタートします!