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11、佐々木絵美の末路C

【原作SIDE】

「俺は絵美のことが大好きだ」


秀頼君が、わたしに笑いかけます。


「絵美が俺の中で1番特別な人間だ」


端から聞いたらロマンチックに聞こえる言葉。




しかし、わたしにとってそんな言葉は聞くに絶えない雑音です。


「秀頼の勇ましいところ好きよ」

「あぁ、山下が俺の中で1番さ。お前の胸が1番手の平にぴったりなんだわ」

「もう、秀頼ったら」

「目瞑れよ」

「うん……」


秀頼君は誰にでも1番と呟きます。

同じ学校の人、違う学校の人、働いている人。

たくさんの女の人とベッドで寝ています。


「他の女には偽りの言葉を掛けてるだけだぜ。絵美が本当の意味で1番に好きだ」

「……はい」

「ははっ!良いねぇ、絵美ちゃんも嫉妬するんだねぇ!ほら、横になれ。今日もお楽しみタイムで行くか!」


嫉妬なんかしていません。

ただ、1番とはどういうものなのかわからないから聞いてみただけ。

わたしが1番で、他の人には偽りの言葉だと秀頼君は言います。


でも、秀頼君は女性の中で1番わたしに酷いことを強要して、ゲラゲラと笑います。

豚のように鼻息を荒くして笑い、わたしを家畜のように扱う毎日です。





「ふふっ、絵美ったら毎日朝に帰ってきて。たまには家族の時間も大事にして欲しいわ」


お母さんは、秀頼君の本性も知らず『お熱くて羨ましい』と笑います。

他の人から見れば、わたしと秀頼君の関係は羨ましく見えるのでしょうか。


「絵美と明智君の関係は羨ましいじゃないの。ずっと子供の時からべったりだしね!」

「そうでしょうか?」

「うんうん。私には兄さんしか男の影ないのよ?」


理沙ちゃんもべったりで羨ましいと言います。


「秀頼と長い付き合いで仲良いよなぁ。秀頼から結構求められてるだろ」

「そうとも言えますが……」

「じゃあ良い付き合いしてるわけだ」


十文字君は良い付き合いと褒めます。


「かー!私の絵美をずっと独り占めとかあのチンピラはズル過ぎよ!チートよチート」


円ちゃんはチートと言います。

みんながみんな、わたしと秀頼君の仲を受け止めるのです。

良い仲だと祝福するのです。



ーーそれはまるで、わたしだけが『あべこべの世界』を生きているようで気持ち悪かった。



「はっははははは!絵美は可愛いなぁ!あぁ、本当に好みじゃねーのに、なんでこんなにお前が愛しいんだろうなぁ……」


秀頼君に抱き付かれ、頭を撫でられる。

狂ったように毎日嗤う。


「俺の人生、ギフトと絵美を早々に手に入れたのがラッキーだったなぁ。なぁ、俺の童貞も君に授けたし、俺の秘密をなんでも知ってるし、本当に特別な女だ」

「……はい。ありがとうございます」

「うーん、もっと感情が籠ってると嬉しいんだけど。やっぱりギフトの力がまだまだ弱いよな。いつか俺は『アンチギフト』の力を打ち破るまでギフトの力を進化させる。俺のギフトはこんな雑魚能力じゃ終わらせねぇ……」


秀頼君は自分のギフトの能力では満足がいかず、とにかくギフトの勉強を熱心にしています。

わたしはそんなことに一切興味はありません。


秀頼君はわたしを特別だと言います。

でも、わたしは別に彼を特別だなんて思っていません。

もし、彼を特別だと思う感情があるなら……。


特別に軽蔑する人間です。





ギフト所持者が集められるギフトアカデミーにおいて、秀頼君には良い実験場です。

そもそもギフトによる暴走で死ぬ生徒や行方不明になる生徒も珍しくないので、基本的に秀頼君の悪事はギフトを使っていけばまずバレません。


学校に通った初日に上松さんというクラスメートを殺害したように、気に入らない生徒は秀頼君のギフトを進化されるための実験に過ぎません。


何年か前の、宮村永遠の両親殺害事件も、刹那的な快楽を満たす身勝手な動機が大半を占めますが、3人に連続的にギフトを使用したことによるギフトの連鎖行為の実験台にもなっていました。


悪事に関しては頭がキレまくります。







「今回のはかなりヤバいギフトじゃねーか……」


秀頼君が流れた汗を拭いながら、疲れたように言いました。

わたしも正直、彼女には触れてはいけないと直感するレベルです。


「なるほどな。『病弱の代償』として発現したギフトということであの能力か……。やはり人の感情や環境によってギフトが発現するという俺の説は正しいようだな」


教科書にすら載ってない理論を秀頼君は努力で見付けだしていきます。


「俺がクソ叔父に『命令してやりたい』って意思から能力を覚醒させたんだ。必ず、何かの感情がギフト覚醒のトリガーになるはずだ。……じゃあタケルは?『アンチギフト』は何が原因で発現した?タケルは何の感情をトリガーに『アンチギフト』なんか宿った?本人も自覚してないのにどうやって『アンチギフト』を身に付けた……。クソっ、イライラする……」


女と寝ない日は部屋に籠り、ギフトの研究や考察をしている秀頼君。

完全に彼はギフトの力に飲み込まれた人間であった。











それから数日……。




「絵美、彼女に触れろ」

「…………い、嫌です」

「あ?」


秀頼君が『病弱の代償』と呼んだ彼女に触れろと命令する。

しかし、無理だ。

こんなの触れない。


「こ、今回だけはやめましょう!わたしたちの手に負えるギフトじゃありません!お願いです、今回だけはやめましょう……」


彼女はそのギフト能力で家族全員を殺害してしまった。

近くに立っているだけなのに気を失ってしまいそうだ。

無理だ、わたしも殺される……。

殺される、やめましょう……。

心臓がバクバク鳴る。


このバカ男、触れてはいけないパンドラの匣を開けやがった……。

こんなギフトの暴走、わたしと秀頼君なんかでどうにかなるわけない。


十文字君だ。

ギフトの効かない彼が居ないともう手に負えない案件だ。

あの無能が彼女に近付いたせいで秀頼君の目に彼女が止まってしまった。

なんでわたしの周りはバカな男しかいないんだっ!

しかも当の無能はこの場にいないっ!

なんでパンドラの匣を見付けた本人がこの場に居ないんだっ!


『命令支配』より、わたしは『病弱の代償』と呼ばれた彼女のギフトの方がよっぽど怖い……。


「お願いです、秀頼君……。わたし、死にたくないです……。ギフトの研究なんてやめましょう!……怖いです。彼女が怖いです。まだ引き返せます……。見て見ぬ振りして逃げましょう……」

「…………」

「秀頼君!秀頼君のために言ってるんです!あなたの身の危険も案じているんですっ!」

「はぁ……。そうだな……」


秀頼君は諦めたため息を出す。

通じた!

わたしの訴えが通じたんだ。

彼女はもうダメです。

近寄ることすらやめましょう!


「じゃあお前要らね」

「……え?」

「裏切り者は要らないって常日頃言ってるだろ」

「裏切ってません!裏切ってなんか……!彼女に触りたくないって言っただけです!」

「そう?じゃあ裏切ってないって証明しようぜ。【彼女に触れろ】」

「え……?」


わたしの手が動く。

嫌だ。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!

触りたくない、触りたくない、触りたくない!


わたしは止まらない身体を動かし、『病弱の代償』と呼ばれた彼女に触れる。




そのまま、わけがわからないまま……。

わたしは死んだ。













ーーーーー




「ん……?」


また変な夢を見た。

秀頼君の夢だったかな?


秀頼君のことを考え過ぎて秀頼君の夢を見ちゃうのかな……?


なんだろ?

夢では秀頼君に好きとか特別って言われたのに、なんでこんなに不快な気持ちでいっぱいなんだろ?


夢では何回も秀頼君とキスをして、秀頼君に求められている気がするのに、ムカムカの気持ちが止まらないんだろ……?


大好きな秀頼君なのに、わたし……。

なんでこんなに、嫌いって思う自分がいるんだろ……?


「わたし……、どうなってるの……?」


この夢はなんなの……?

本当に夢なの……?


「好き……。秀頼君……、大好き……」


自分の気持ちがわからなくて、わたしは知らない内に涙を流していた。

この涙で、不快な気持ちを流すつもりでわたしはずっとずっと泣き続けた……。

いつも『佐々木絵美の末路』シリーズは章のラストにするので、今回はあえて冒頭に持ってきました。


『病弱の代償』編、スタートです。

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