10、佐々木絵美は即答する
「はぁ……、どっと疲れた……」
「お疲れ様です!秀頼君」
タケルの家からの帰り道。
俺は絵美と並んで帰宅していた。
なんというか、何百回としてきたことに思える光景だ。
本当はメイド喫茶に行っていたのに、なんで俺は毎回色々なことに巻き込まれてしまうんだろ……。
「そういえば山本の話知ってる?」
「山本君?別に仲良くないし、全然知りませんが……」
「別校の彼女できたんだってよ。羨ましいよなー、あいつ」
類は友を呼ぶとはいうが、俺の周りは顔がとにかく可愛い子が多いのに恋愛云々の話がないのは、俺に恋人がいないから自然とそういう人が集まるんだろうな。
負け犬の集いみたいでなんか嫌だな……。
「……秀頼君は、彼女欲しい?」
「まぁ、当然欲しいよ」
「そっか、欲しいんだ……」
ただ、色々考える。
俺の中に巣食う明智秀頼。
まだまだ終わらない原作の世界。
世界が俺を殺しにきている。
この調子で生きて卒業できるビジョンがまだ見えなかった……。
「絵美は彼氏欲しい?」
「当然欲しいですよ!」
「そっか」
年頃だよなぁ……。
俺も前世の高校生時代は色々格好付けたものだ。
ラノベ主人公に憧れて、周りに実力を隠して舐めプで剣道を地でしていたという痛い思い出があるしな……。
「ただ、誰でも良いわけじゃありません。心からずっと好きな人と結ばれなくちゃ意味ないんです」
「心からずっと好きな人……」
来栖さんとの恋愛をまだ引きずっているわけではない。
無理なものは無理。
それは、もう当然だろう。
でも『心からずっと好きな人』なんて言われたら彼女を思い出してしまう。
……けど、絵美が心からずっと好きな人がいるわけだよな。
タケルとは隠してはいるけど。
……気にくわねぇ。
俺の方がずっとずっと長くて多く絵美と接してきた自信があるのに、俺に矢印が向かないのはちょっとイラっとする。
普段は主人公だからと諦めているのに、たまには理不尽なことに嫉妬する小さい器の俺にうんざりする。
なんで、世界って上手くまわらないのかねぇ……。
「ふふっ、ずっとずっとアピールしてるのに気付かないんですよ」
「そ、そうか……。大変だな」
「手を貸してください」
「ん」
右手を差し出す。
すると絵美が俺と恋人繋ぎをしてくる。
「2人っきりの時はこんなこととか!次、腕借りますよ」
腕を組んでくる。
絵美の小さい胸の感触が伝わってドキドキしてくる。
「こういうことしてるんですよ!気付かないの酷くないですか!?」
「マジか!?お前そんなことしてるのか!?酷いなそいつ!?」
俺は心を隠す。
俺の醜い心を必死に見ない様にする。
多分、その醜い心を直視したら、タケルに当たるから。
だから、俺はわざと心を鈍感にする。
「好きだよ」
「っ……」
絵美が耳元で囁く。
いくらガキの頃から知ってる仲とはいえ、不意打ちでドキドキしてくる。
「にやにや」
「それ、やめろっての!」
「露骨にこういうことしてるのに気付かないんですよ!」
「マジか!やべーなそいつ!?」
毎日ずっと会っているのに、絵美も成長が早いって……。
本当、娘みたいで可愛いよなみんな……。
「お前、そいつのどういうとこ好きなの?」
「全部好き」
「即答かよ」
「はい!」
躊躇わないで言ったなー。
「普段はすごぉぉく格好悪いんです。シスコンだし、だらしないし、子供みたいだし、鈍感だし」
「うん」
「でも、たまに格好良くなるんですよ。初対面で1人でいたわたしと遊んでくれた時はお兄さんみたいだな、なんて思って
友達の家庭環境なんか普通の人は首突っ込むわけないでしょ?そんなことにも全力で立ち向かって友達を助けて
襲われた時も身体で庇って自分が傷付いてもでもわたしを守ってくれて」
「うん」
「ふふん。ノロケちゃった」
絵美はそうやってスッキリした顔で笑う。
その顔を見て、…………どんなギャルゲーのヒロインより可愛いと思った。
「でも、普段は格好悪いならマイナスじゃない?」
「ぜーんぜん。常に格好良いならわたし耐えられないもん。それに常に格好良いなんて目が肥えちゃう!
たまに格好良いくらいがギャップがあって素敵でしょ!」
「ははっ、なんだよそれ」
「わたしの理想はそんなに高くないもーん」
そう言って俺に体重を乗っけてくる絵美。
「この恋だけは、誰にも負けたくない。渡したくない」
「絵美……」
そうやって普段なんでも笑う絵美とは違う憂いに満ちた表情だった。
あぁ、すっげ。
これがギャップがあるってことか。
……破壊力がやばい。
「可愛いなーお前!」
「あう……」
絵美の頭をくしゃくしゃ撫でた。
ツインテールが揺れて可愛い。
「わたし……、可愛いですか?」
「ああ!可愛い!絵美は可愛い自覚持てっての。あと、その顔!絶対好きな人にしかしちゃいけないやつだからな!」
俺と絵美の自宅へたどり着く。
ちょっと絵美の恋愛相談で、ここまでガチな奴ははじめてされた。
「じゃあ、またな絵美!」
「はい、また明日ですね」
いや、家があって助かったというくらいに今日の絵美は可愛いくてもう直視できなかった。
タケルに向けられる顔を俺に向けるのが、辛くて痛かった……。
「はい。こんな顔……、好きな人にしか向けられませんよ」
少女の呟きは誰の耳にも届かなかった……。