11、十文字タケルは説教をする
タケルがずんずんと階段を登る。
歩き方に、むっつりと口を閉じた態度に10年くらいの付き合いの中で1番頭に来ているのがわかる。
普段バカやってる人ってキレると怖いんだよね……。
あるある。
「秀頼……、なんだあいつは?」
階段から離れてヨルが見えなくなり、タケルは俺に質問した。
タケルと公式カップリングになりやすいヨル・ヒルですとは言えなかった……。
「し、知らねぇ……。名前をヨル・ヒルとは名乗ってたけど……。初対面だし……」
「本当に初対面なんだな?」
「間違いねーよ」
変な荒波を立てるのも嫌だし、とりあえず明智秀頼の立場としての言葉を出しておく。
すると、タケルは階段で立ち止まったので、俺も足を止める。
「俺は彼女にも怒ってるけど、秀頼にも怒ってるんだ」
「え?」
唐突に俺へ怒りの矛先が向いてタケルの顔を向く。
タケルが真っ直ぐに俺を見ていた。
「なんでお前はあんなにボロカスに言われてんのに言い返さない……。悪人だのギフトの欲に溺れたクズとか言い掛かりを付けられてなんで何も言わねーんだよ」
「ご、ごめん……」
「お前が否定しねーと本当にそんな奴なんじゃねーかって思うだろ!?」
「違う!俺はそんなことしない……。お、俺はただ……、争いとかになって欲しくなくて……」
「だからってお前が悪者になるのは筋違いも良いところだろ!?悪者被るのと優しさは全然違うんだよ!違うって否定しろよ!そんなの知らねぇって強く言ってやれよ!」
「…………」
瞬間、俺の脳内に懐かしい言葉が届く。
『なんで豊臣君が悪者を引き受けるの!?肩のケガは部長からされたんでしょ!?なんでそれを誰にも言わないの!』
『……吉田たちの、努力や練習とか全部無駄になるんだぞ?俺が……黙ってるだけで……丸く収まるんだ……』
『そんなの優しさでもなんでもないよ……』
『別にケガしたのは治らない……。もう、どうでも良い……』
来栖さんの親友だった吉田の言葉とタケルの言葉が重なった……。
あぁ、俺また同じことを説教されてるんだ……。
「……ごめん。また同じミスするとこだった。次からそうする」
「そうだよバァカ!童貞のお前が『女を食い物にしてたり犯したりとかしてるゲス野郎』なわけねーだろ」
「ここで童貞弄るのは違うだろ!?お前も童貞だろ!?」
「お?調子戻ったみてーじゃん。ほら、理沙とか佐々木とか谷川とか待ってるから教室行くぞっ!」
タケルが背中を優しく叩いてくる。
それに導かれるように俺は階段を登っていく。
不穏な原作の始まり。
本当に最悪続きの学園生活だけど、俺も負けねーようにしないとな。
ヨルの立場なら秀頼を非難するのはずっとわかってたじゃねーか。
でも、俺は確かに明智秀頼とは違うんだ。
そう思うと、俺はタケルに救われた。
「……どうなってやがる。なんでタケルが明智を悪人と認めない?……明智が童貞なわけないだろ……。何が起こってる……?……だってあいつは、ギフト所持者至上最低のクズでゲスな野郎だろ……?なんだ、この世界は……?」
赤い少女の呟きは広い階段の中で虚しく消えていた……。
ヨルがざまあされたみたいになってる……。
メインヒロインなのに……。
狂犬ポンコツ枠になりそう……。