8、津軽円は置いて行かれたくない
永遠ちゃんの色気、咲夜の可愛さに負けそうになり、昼食であるミートソースの味が全然しなくて参った……。
次はタケルのプレゼントを決める店決めになっていて、歩いているところだった。
「秀頼さん、美味しかったですね」
「そ、そうだね」
「私、秀頼さんの表情が変わる姿見て、とても可愛いなって思って。そういうところ好きだなぁ」
「え……?す、す、す!?」
「顔が赤くて可愛い。そういうとこ好き」
「っ……!?」
妖艶な笑みを浮かべて、鼻をツンと叩いてくる。
永遠ちゃんが俺をからかってくる。
俺の憧れの永遠ちゃんってこんなに大胆なヒロインだったのか……。
童貞を勘違いさせる系ヒロインとして『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズで圧倒的人気を誇る永遠ちゃんを本気で好きになりそうで困る。
「ストップです、永遠さん」
「あう……。ずっと私のターンですぅ……」
「あるわけないじゃないですか」
理沙が永遠ちゃんの暴走を止めた。
2年間同じクラスを経験した2人は遠慮がない。
俺の鼓動で死ぬんじゃないかという恥ずかしさと、ちょっと残念という気持ちがせめぎ合う。
「秀頼さあぁぁぁん!」
「ごめんね、明智君。永遠さんに話があるの」
「私はありませぇぇん!」
理沙から遠くへ連れて行かれた……。
なんだったんだろう……?
「お、お、お兄ちゃんは少し自覚が足りないと思います」
「自覚?」
「ですです!お兄ちゃんは……自分が格好良いという自覚がないです」
「可愛い」
「ふぇ?」
星子が可愛い……。
兄貴を格好良いと言って励ましてくれる素敵な妹過ぎる。
実際血は繋がっているらしいが、豊臣光秀として生きた17年と明智秀頼として星子と出会わなかった14年。
つまり実質30年以上一人っ子だった俺に星子を『妹として見ろ』というのが不可能なのだ。
全然異性として見れてしまう。
突然妹でしたとか言われても、わかってはいても、100パーセントの納得は不可能だ。
「星子……。俺……君が妹で幸せだ」
「あ、ありがとうございます!」
「なんか……、色々好き」
「すっ……!?」
星子も大好きだし、スタチャも大好きだ。
こんなに自慢できる妹、世界で俺だけじゃないかな……。
「せーちゃん。退場の時間です」
「え?」
「ゴミクズ先輩!ではっ!」
「あああああぁぁぁぁ、お兄ちゃぁぁぁん!」
和に連れて行かれる星子。
さっきから理沙といい流行ってるのかあれ……?
「はははっ、面白いよねみんな」
「明智君……」
1人になっていた円と会話する。
絵美と咲夜。
理沙と永遠ちゃん。
和と星子。
このペアになっているので、自然と円と余り者で会話することになる。
「円に言っておく」
「え?」
周りからは聞こえないように小さい声で円に話す。
「俺の中にこの身体の持ち主が居る可能性が浮上した」
「は?つまり、それって……」
「明智秀頼だ。……あいつ本人が俺の中で生きている」
「う、嘘?……そんなまさか……」
「俺に何かあった場合はお前に頼む……」
「……何もしないわよ私は」
「ははっ、お前はそういう奴だよな」
円は俺の顔を注視している。
俺は目を反らさずに、その視線を受け止める。
「なんで私が明智君の頼みを聞かなくちゃいけないのよ。メリットもないし意味わかんない」
「じゃあメリットがあれば良いのか?」
「当然ね」
「現金な女だなぁ」
円も俺に似てリアリストだからな。
メタフィクションの世界を知っているからこそ、リアリストなのだろうけど。
「じゃあ『円の言うことをなんでも聞く』。これにしよう」
「え……?」
円が俺の顔を見てきた。
突然泣きそうな目で俺を見てきて、俺また何か彼女の地雷を踏んだのか不安になる。
「やめて……。そんなこと言わないで」
「ど、どうしたんだよ円?顔が真っ青だぞ?」
俺の服の袖を握ってくる円。
まるで、何かトラウマでも踏んでしまったみたいだ……。
「し、死なないで」
「はぁ?し、死ぬ気はねーけど……」
「もう……、私……置いて行かれるのは……嫌なの……」
「置いて行かねーよ」
「明智君……」
「何に円が怖がってるのかわかんねーけど、1人にはしねーよ。な、一緒にこんなゲームクリアしてやろうぜ」
同じ『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズを完全クリアした仲だ。
前世持ちという2人の秘密を共有してきた円だ。
気に食わない女だけど、それなりに仲間意識も彼女には芽生えてんだ。
非常に不本意な話ではあるが。
「……とみ君……」
「なんか言った?」
「私……、もうあなたがどんな人だったのかわからなくなってきてる……」
「円……?」
円が頭を抱えて小声でぶつぶつと呟いている。
その突然の変化に、みんなの視線も円に集中していた。
「明智君と被るの……。やめて……、私に優しい言葉を掛けないで……。もうやめて……」
「どうしたんだよ円!?なぁ、おい!?」
「置いて行かないで……。1人にしないで……」
「お前が望むなら置いて行かないし、1人にしない。だから、変なとこで泣くなよ」
「姉者、体調悪いなら今日は帰りましょう」
和が円に駆け寄ると「うん……」と頷く。
それから星子と咲夜も一緒に円に付き添う。
「また会いましょうお兄ちゃん」と星子は頭を下げて4人で俺たちから離れて行く。
「秀頼さん、円は何かしたんですか……?」
「わ、わからない……」
円の泣き顔がずっと頭に残っている。
ただ……、なんとなく俺の知り合いの子と重なった気がした。
「あの……、兄さんのプレゼント選びはどうしましょうか……?」
「あ、あぁ……。人数少なくなったけどせっかくだし選んで行こう」
この後のことは、もう良く覚えてない。
どうして円はあんな態度を取ったのか、頭から離れない。
円と来栖さんが重なるなんてあり得ないのに、どうしてか同じに見えてしまう。
ヤバい……、来栖さんと円がドンドン似てきて来栖さんのことを思い出せなくなってきてる……。
違う、あんながさつで口が悪い女を来栖さんと重なるなんて失礼も良いところだろ……。
俺の気持ちはそんな程度なのか……?
親友のプレゼント選びだというのに、心はずっと上の空で終わった……。