12、十文字タケルはアイスを奢る
山本君がわたしに気になるとか、そんなことはどうでも良くて気になるのは秀頼君の反応です。
どうせまた腋がどうこう始まるんでしょ?
わたしの場合、発展途上の胸でしたっけ……。
胸……。
『いや、あれはやめとけ。プライベートなくなるから。ガチで』
今までおちゃらけてふざけて発言していた秀頼君が素になって、マジレス気味になっていた。
プライベートが無くなるとか失礼ではありますが、ちゃんと止めてくれるんだ……。
好きいいいいいいいいいいい!
秀頼君、大好きいいいいいいいいいい!
愛してるううううううう!
付き合いたいよおおおおおおおおお!
『宮村さん狙いで考えてるけどどう思う明智?』
『いや、あれはやめとけ。優等生だぞ?絶対釣り合い取れないし。付き合ったとしても遠慮ばっかりになるから』
「秀頼さん、マジ仏様!」
『別のクラスの谷川とか案外顔好みだわ。どう明智?』
『いや、あれはやめとけ。口悪いしコミュ障だし。会話してるだけでメンタルやられるから』
「うむ。ウチの相手は秀頼しかできないぞ」
『あのクラスの津軽さんも良くね?明智の意見は?』
『いや、あれはやめとけ。口悪いし、息を吸うように毒吐いてくるから。先にワクチン打っとけ』
「ムカつくわね、あいつ……。まぁ、今回は許す」
『明智君、僕は十文字君の妹さんも好みですねぇ』
『いや、あれはやめとけ。すげーブラコンだから。兄貴どこにでもついて来るから。兄貴と3人デートとかになりそう』
「さすが明智君、100点満点です」
「というか理沙とお前のデートに付いて行くわけねーだろがっ!」
『山下さんは明智?』
『小悪魔フェイス良いよね。つい腋に視線行っちゃうよな!…………ところでなんでさっきからみんなして俺にしか意見聞かないの?』
もう秀頼君の受け答えは完璧ですね。
この場全員に対してマーキングを付けましたね。
わたしだけじゃないというのが不本意ですが、秀頼君はそういう人です。
わたしを護ったという事実で満足です。
「秀頼君!」
「明智君!」
「秀頼!」
「秀頼さん!」
「…………」
なぜか女子の結託力が高まった気がする。
「へっ……、流石あいつだぜ」
十文字君が教室に入っていく。
そして、背中から『よっ!』と声をかけながら、秀頼君の首に腕を回す。
『な、なんだタケル!?びっくりして心臓から口が飛び出るかと思ったじゃねーか!』
『本当にお前最高だわ!…………あと、口から心臓が出るんだよ。心臓から口出る状況ってなんだよ』
『なにが最高なの?』
『アイス奢るぞ!いる?』
『いるいる!ハーゲン!ハーゲン!』
『はいはい。本当に可愛いなお前』
『いや、可愛くはねーよ』
いや……。
秀頼君は可愛いです。
「あんなにはしゃぐ秀頼さんレアですね!」
「さすが兄さん、明智君の色々な表情を引き出すプロね」
秀頼君のハーゲンって騒ぐ姿、最高に可愛い。
「…………いや、可愛くはないよ?」
円だけは納得できないみたいに呟きました。
ーーーーー
「なんだタケル?全員にアイス奢るとか余裕あるな」
「はははっ、気分が良くて散財したくなるだろ」
よほど良いことがあったのか。
タケルは女子5人のぶんのアイスまで奢り、7個で1000円くらい支払った。
なんて懐に余裕のある男なんだ。
「そういえばお前の家、子供を置いて両親共に県外で仕事していているんだっけ?」
「あぁ。年に1回くらいしか顔見たことねーや」
「…………」
いや、本当にギャルゲーの主人公だよ。
ここはゲームの内容が反映される世界。
なんでもありだな。
「寂しくならないか?」
「全然!俺には理沙がいれば寂しくないさ。お前にも妹が居たらわかるよ」
「妹ね……。居るちゃ居るみたいなんだよ」
「え?」
「会ったことないけど、マスターとおばさんが言ってたんだ。顔も知らない子が妹とか変な感じだよな」
前世でも俺は一人っ子だった。
誰か兄弟、姉妹がいるという家族がイメージできない。
「秀頼の妹ということは、俺にとっても妹みたいなもんか」
「誰なんだよお前!?」
このゲームの世界。
シスコン多すぎじゃね?
津軽姉妹なんか完全にシスコンだ。
しかも、最近知り合った遠野達裄さん。
あの人も凄いシスコンでびっくりする。
『最強のシスコン』。
そんな異名があるなら、間違いなくあの人を指す言葉である。