8話 怖いしダルいし鬱陶しい
うわーー!タイトルで誤字やらかしてました…。
お恥ずかしい……。
4話のタイトルの「合う」を「遭う」に修正しました。
ご指摘ありがとうございます!!
陽華の質問攻めやスキンシップをなんとか耐えきった陽一は、ふと何気なくスマホに目を落とす。
先ほど父親が病室に来て、陽華に驚き、陽一に充電器を含む荷物を渡し、忙しそうに帰っていった。
長く居れなくてすまなそうな顔をしていたのだが、陽一も父親の仕事の忙しさはその身をもって理解しているので、さほど気にしていない。
話は戻るがスマホである。
父親が待ってきてくれた充電器で、見事に復活を果たしたスマホ。
しかしその画面に表示されたものを見て、陽一は思わずといった風に短い悲鳴を漏らしてしまう。
「ひぇっ……」
今の陽一の顔を一言で表現するなら『ドン引き』である。
「……?どうかしたのかい?」
そんな陽一の反応を耳ざとく聞きつけた陽華が、読んでいた本を閉じて尋ねる。
相変わらず尋常ではないほど耳のいい陽華に驚嘆しつつも、陽一は努めて平静を保って誤魔化そうとする。
「い、いや!ちょっと知り合いからの心配の連絡が多くてな、びっくりしただけだ」
「そっか、それならいいんだ」
そう言って陽華は再び読書に戻った。
「あはは……」
嘘は、言っていない。
確かに学校ではだいたい奏と一緒に行動している陽一だが、奏以外の友達がいないわけでもない。
正確には″友達″というより″友人″といった距離感ではあるが、大怪我をして学校を休めば心配の連絡をくれるくらいのクラスメイトはいる。
陽一が引いたのは、当然その事ではない。
心配の連絡をくれる友人たちの中に1つだけ、新着メッセージ数の桁が違う連絡先があったことだ。
夏目茜:新着メッセージ129
『不在着信』8:00
『不在着信』8:05
『不在着信』8:10
『不在着信』8:15
『陽君大丈夫…?心配だよ…』8:16
『不在着信』8:20
『不在着信』8:25
『少し話せないかな…?』8:25
『不在着信』8:30
『不在着信』8:35
・
・
・
・
・
唖然とした表情でトーク画面を眺める陽一。
勢いよくスクロールしても中々終わりを見せない『不在着信』の山。
(5分に1回って間隔短すぎだろ……何考えてんだコイツ……)
付き合っていた頃ならば、動揺しすぎだと笑って許せただろう。
むしろ自分が怪我をしたことに対して、これだけ心配してくれているということに喜びさえ覚えたかもしれない。
しかし今の陽一からしてみれば、ハッキリ言って迷惑以外の何物でもない。
(なにを今更……)
それが陽一の正直な気持ちであった。
(俺との関係に飽きて左衛門三郎と付き合い始めたけど、助けてくれたからまた構ってあげますよってか?)
陽一の推測には若干の被害妄想が入っている部分があるということも否めないが、そう考えてしまう陽一を責めることは誰にも出来ないだろう。
あちらがどう思っていようが、事実として彼は深く傷ついたのだから。
(もうお前のことなんかなんとも思ってねーよ)
陽一は心の底からふつふつと湧き上がってくる苛立ちのままに返信を打った。
『何回電話してんだよ、普通に非常識だし迷惑』
『ていうかお前、新しい彼氏がいるんだったら元カレに連絡すんなよ』
『怪我も軽い打撲で済んだし見舞いとかも別にいいから』
トラックにふっ飛ばされて軽い打撲で済んだは絶対ウソだろお前、というツッコミはさておき。
恋人同士だったときは絶対にしなかった、突き放すような素っ気ない言葉で返信をする陽一。
意外だと感じたのは、"元"とはいえ彼女であった茜にこれだけキツめの言葉を使ったのに「ちょっと言い過ぎたかな…」という罪悪感がこれっぽっちも湧かなかったことだ。
ずっと振り回されっぱなしだった茜に一言言ってやれて、少しだけ心がスカッとした気すらする。
もはや陽一の中での茜の認識は「元カノ」ですらなく、「自分勝手な迷惑女」にまで成り下がりつつあるのだろう。
ぺら…………ぺら…………
静かな病室には、紙を捲る音だけが響いている。
心配の連絡をくれた友人に対して一通り返信をしたあと、陽一は再び暇になってしまった。
スマホは電源を切ってカバンの中に突っ込んでいる。
なんだか茜に繋がるツールのような気がして、今はあまり触りたいとは思えなかった。
そんなこんなで暇になってしまった陽一だったが、それを見かねた陽華が本を貸してくれたのだ。
陽一は、読書と言えばもっぱらライトノベルしか読まないようなタイプなので、ちゃんと楽しめるのかどうか不安を抱いていたのだが、陽華から借りた本をいざ開いてみるとブックカバーに隠された中身はごりっごりのライトノベルであった。
少しずつ陽華のことを理解しつつある陽一は、もはや何も言うまいと、黙々とそれを読み進めていた。
(結構面白かったなこれ)
陽一が一巻を読み終え、次の巻を借りるため陽華に声を掛けようとしたその時、読んでいたライトノベルをパタンと閉じた陽華がいきなり陽一の方を向いて真剣に語りだした。
「陽一君…私達はそろそろ次のステップへ進むべき時期なんじゃないかな」
「どうした急に」
何を言っているのか分からないのは毎度のことなので陽一は先を促す。
「いやね?まだちょーっとだけ、陽一君との間に距離を感じるなと思ってね」
あれだけの圧で迫って来て、どの口がそれを言うのか。
「そうか……?俺はかなり一式さんとの距離は縮まったと思うけどなぁ」
陽一がそう言った瞬間、突然ビシッと指を指す陽華。
急に指を指されたことで陽一は少し驚く。
「それだよ、それ!その一式さんって呼び方!」
「え、なに?苗字で呼ばれるのは嫌だったか?」
その言葉を聞いた陽華は、いかにも芝居がかった身振りで自分の意見を主張、もとい押し通そうとする。
「だって……私達はもう長い付き合いじゃないか!!そんな他人行儀な呼び方は……寂しいよ」
一般人がやるとクサい演技だと言われかねないが、陽華がやると一流の劇団が演じる劇の一幕のようにも見えてくるから、顔が良いというのはなんともお得である。
しかしそのセリフにはツッコミどころしかない。
「俺達が会ったの今日の朝じゃね?」
一日一緒にいたことを"長い付き合い"だと言うのならこの世のあちこちで長い付き合いの人々が爆増してしまうだろう。
「友情に、時間は関係ないと思わないかい…?」
的確なツッコミを入れられて、すぐさま意見を変えてくる陽華。
これが現代人に求められる柔軟な思考というやつである。
「言ってること変わってるぞ」
現代人の柔軟な思考が通用しなかった陽華は、もう堪忍してシンプルにゴリ押しで攻めることにした。
「…………………だめかい?」
陽華はそう言うと、悲しそうに目を伏せる。
そしてチラッチラッと陽一のことを見つめる。
潤んだ大きな瞳をフル活用した必殺の上目遣い。
艶のある黒髪の間から覗くその眼差しは、健全な男性ならば心臓の奥のほうが痛くなってしまうほどの破壊力をもっていた。
乙女の最終奥義である。
こんなお願いの仕方をされて断るのは、男が廃るというものだ。
「分かったよ……よ、陽華……さん?」
「"さん"は要らない気がしないかい?そう思うよね?」
「………陽華」
陽華の圧に負けた陽一は、照れを押し殺しながらその名前を呼ぶ。
「ふふっ、うんっ!改めてよろしく頼むよ陽一!!」
そう言って満面の笑みを浮かべる陽華。
その笑顔には、控え目に言って芸術的な美しさが宿しっていた。
(こいつ、本当に黙ってれば可愛いんだよな…まぁ喋ってても可愛いけど)
数日前まで、この世の終わりかのようなテンションだった陽一は、たったの一日で陽華の魅力に落ちかけていた。
side一式陽華がストーリーの都合上あと数話だけ先になりそうなので、ちょっとだけ補足を入れておきます。
陽華の性格は簡単に言ってしまうと、テ〇フォーマーズのジョ〇フ・G・ニュー〇ンみたいな感じです。
一つのことに執着し始めたら怖いタイプです。
この辺はおいおい書いていきます…!
次話は明日の6/12(土)投稿予定です!