7話 side 夏目茜
今日、今年初のセミの鳴き声を聞くことが出来ました!!
最後にセミ取りをしたのなんてもうずっと昔の話ですが、今度息抜きとしてやってみても良いかもしれません。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう……」
暗い部屋…ベッドの上で毛布に包まって私は呟く。
「よーくん…」
想うのは、私の彼氏である陽一君のこと。
いつも私のことを一番に考えてくれる。
とっても優しくて強くてかっこいい、私の王子様。
一年とちょっと前、高校に進学したばかりの私は精神的に不安定な状態だった。
中学の時にお父さんが死んじゃって、その後にもいろいろと嫌なことがあって…
軽く人間不信になりかけていた。
クラスの男の子が、担任の先生が、目に映る全ての男の人がすごく怖かった。
周りに男の人が居るのが怖くて怖くて、同級生の女の子とも上手く話せなくて、昼休みは誰も居ない屋上でずっと泣いてた。
そんなときだった、私が陽君と出会ったのは。
泣いてる私にハンカチを差し出してくれた。
顔を見上げて男の人だと分かったときは少し怖がってしまったのを今も覚えてる。
でも目があったときに見えた陽君の目の奥はなんだか寂しそうで、なのに雰囲気はお母さんみたいな安心感があった。
だからかな、私は初対面の陽君に悩みを全部打ち明けてしまった。
初対面で泣いてる女の重たい悩みを打ち明けられるなんて、今考えるといい迷惑だったと思う。
けど陽君は最後まで静かに聞いてくれて、私が話し終わったら今度は自分のことを教えてくれた。
自分も片親だということ、一人だけでいいから心の底から信じられる友達を作った方がいいということ。
聞けば、陽君にはお父さんがいるけど仕事が忙しくて全然一緒にはいられないらしい。
一緒に住んではいるけど、ご飯はほとんど一人で食べるのだと言っていた。
私はお父さんが死んじゃったのが悲しくて
陽君は一人じゃないのに独りで居るのが寂しくて
私達はお互いの悲しみや寂しさを埋めるかのように惹かれ合っていった。
それからも陽君はいろいろと相談に乗ってくれて、私はそんな陽君にいつも甘えてしまった。
そうやって目で追っている内に、いつの間にか私は陽君のことが好きになっていた。
ううん、きっと一目見た時から好きになってたんだと思う。
その気持ちがどんどん大きくなって、隠しきれなくなっただけ。
だから私は猛アプローチをかけた。
どんな手を使ってでも陽君のそばに居座り続けた。
そんな努力が実って2年生に上がる少し前、私は陽君から告白を受けた。
『茜……好きだっ!俺と付き合ってくれ!!』
今まで誰に告白されても心なんか少しも動かなかったけど、陽君からの「付き合ってくれ」という言葉は涙が出るほど嬉しかった。
本当に幸せだった……。
私とこの人は赤い糸で結ばれてるんだって本気で思った。
すぐにでも陽君と家族ぐるみの付き合いになりたくて、付き合ったその日にお母さんに紹介した。
お母さんには夕飯の時とかにずっと陽君の話をしてたから、陽君と付き合えたことを報告したときは「ついにやったわね」って感じでニヤニヤしてて、それが少しだけこそばゆかった。
陽君も最初は緊張してたけど、夕飯の支度を手伝ってるうちにほぐれてきたのか、ご飯を食べ終わるころにはお母さんとも仲良くなっていた。
それからも陽君には何回かうちでご飯を食べてもらって、少しずつ私から離れにくくした。
陽君の家にはお父さんだけがいて、私の家にはお母さんだけがいるって事で、一度お母さんが冗談で陽君に息子にならないかって聞いていた。
けど、それをすると私と陽君は兄妹になってしまうので正直やめてほしい。
あ、でも陽君がお兄ちゃんっていうのも良いかも……。
2週間前、私から陽君を振って一度は離れ離れになってしまったけどあの時は私もすごく辛かった……。
でも噂で陽君も落ち込んでるって聞いたときは、不謹慎かもしれないけど嬉しくなってしまった。
だって陽君も私と離れるのが辛かったのだ。
やっぱり私たちは離れていても繋がってたんだって分かる。
「ね、よーくん?」
カチッ
『そうだな、俺も』『すき』『だよ』
「私もぉ…!」
今回のことだってそうだ。
陽君は文字通り、命を懸けて私のことを助けてくれた。
もう私は彼女じゃなかったのに……。
陽君は私を守って大怪我をしてしまった。
それはすごくすごく辛い。
けど「俺が絶対にお前のことを守り抜く!」っていう強い愛を感じたの。
「まだ私のこと好きだよね?」
カチッ
『やっぱり俺』『茜のこと』『すき』『だわ〜』
「嬉しい……!!」
あの事故から救ってもらって分かったの…
陽君と一緒ならきっとどんな壁だって乗り越えられる。
どんな時でも守ってくれる。
だから私は全てを打ち明けることにした。
陽君はしばらく入院することになったらしい。
今は入院したてでいろいろと忙しいかもしれないから、落ち着いたら……そう、明後日くらいにはお見舞いに行って、そこで全部話そう。
私たちがどうして離れ離れにならなきゃいけなかったのか……
なんであんな人と付き合い始めたのか……
ちゃんと説明すれば陽君ならきっと許してくれる、分かってくれる。
陽君だって、私が戻ってくるのを待っているはずなんだ。
寂しい思いさせてごめんね、すぐあなたの隣に戻るから。
「でもその前に陽君の声聞きたいなぁ……電話しちゃお」
「あかね〜!さっきあんたの彼氏っていう男の子が来てたけど、なんかキモかったから追い返しといたわよ〜!茜の彼氏は陽一君なのに何訳の分かんないこと言ってんのかしらねぇ…」
「お母さんありがとう!」
やっぱりお母さんは頼りになる。
私と陽君が笑い合って過ごせる日々は、もうすぐそこまで来てる。
「お前とイッチーの馴れ初めなんかどうでもいいんだよー!」
「左衛門三郎との肉体関係はあったんですか?」
「さっさと理由を答えてください!!」
「陽一君の気持ちを考えたことはないんですか!?」
「なんなんですかこの娘!!(憤慨)」
落ち着いて下さいお客様!物を投げないでくだブヘッ
次話は明日の6/11(金)に投稿予定です。
 




