5話 どうも、メインヒロインです。
確かに未だにヒロインが登場していないのはマズいと思い、急いで投稿。
ブラウザバックしないでください(土下座)
「一件落着……とはいかねぇよなぁ……」
あの事故の後、陽一は救急車で病院に運ばれた。
精密検査の結果は全身の打撲、そして足の骨折など散々であったが"まぁ命があるだけマシか"と結構ライトに割り切っている陽一であった。
大変だったのはむしろ家族の方だ。
息子が車にはねられたと電話を受けた陽一の父親は多忙な仕事の合間を縫って病院に駆けつけ、母方の祖父母も日本でもトップクラスの設備を用意してくれた。
父方の祖父母は遠方に住んでいるため直接は見舞いに来れなかったものの、電話の向こうでは心底心配している様子が伺えた。
(じいちゃん達…こっちが心配になるくらい動揺してたな…)
陽一の足の骨折は命に関わるようなものではないがちょっとした手術が必要とのこと。
今は父親が入院生活に必要な日用品を家に取りに行っている。
「茜は…無事だといいんだが」
考えるのはやはり一緒にいた茜のことだ。
陽一は確かに茜を事故から救い出した。
しかし自分が事故に遭いそうになり、その上自分を助けるために元恋人が大怪我をした、という事実は助け出された当人にとって重くのしかかる。
「あいつ割と責任感強かったからな……あ、いやでも俺のことは自分勝手に振って………はぁ」
勝手に思い出して勝手に自爆する陽一。
茜のことを思い出すとどうしても、自分を振ってそのすぐあとに嫌っていたはずの男とくっついたというイメージが強く顔を出す。
「やめだやめ、あいつにはもう彼氏がいるんだから心のケアは今の彼氏がやるべきだよな!」
これ以上茜に関することを考えると更に落ち込みそうだったので、思考を強引にシャットダウンして何か暇を潰せるものがないか探す。
(やべぇ……なんもすることがねぇ……)
しかし事故に遭ってからそのまま病院に運ばれた陽一の周りには、娯楽と言えるものがない。
頼みの綱のスマホは充電が切れてしまっており、父親が家に取りに行っている充電器待ちだ。
現在は午前8:00
まだ日は高く、窓際に近い陽一のベッドには暖かい日の光が指す。
耳を澄ませば鳥のさえずりが聞こえる。
外に目を移せば大きな入道雲を浮かべた夏の青空が広がっており、白い病棟と相まってまるで別世界に入り込んだような感覚に陥る。
「…………いい天気だな……」
思えばこんなにまったりとした時間を過ごすのは久しぶりかもしれない。
最近は何かと、主に悪い方面で心が揺れ動く事が多かった。
心休まる時間というものを取れていなかった気がする。
(まぁ、たまにはこういう時間の過ごし方もいいよね)
陽一は前向きに考えることにした。
元来、日本人は季節によって変わる豊かな風景から様々なことを感じ取ることに長けていると言われており、やることが無いから暇だのなんだのと抜かすのは日本人としてまだまだ三流だということの証明である。むしろ一日中同じ景色を眺めることにより日本人として心の奥深さをもつのが風情のある過ごし方であり……
「……飽きた」
どれだけ良い風景でも一時間も眺めればさすがに飽きが来るというものだ。
一人の時間には慣れている陽一だが、こうもやることがないとさすがに辟易としてしまうのであった。
『超VIPルーム…ここかな』
そんな声が聞こえて来たのは、退屈すぎて窓から見える木に付いている葉っぱの数を数え始めた時だった。
病室のドアの向こうから聞こえる、落ち着いていてどこか気品の漂う声。
この病室には陽一しかおらず、父親も
「そこに入院予定の患者さんはしばらくいないらしいからゆっくりできるな」
と言っていたのでもしかすると陽一のお見舞いかもしれない。
『お金持ちそうな病室ですね、お嬢様』
『まったく…お嬢様はやめろと言うのに』
どうやら本当にお嬢様らしいが、記憶を探ってみても知り合いにこのような話し方をするお嬢様は思い当たらない。
(ていうかお嬢様って本当にいるんだなぁ)
そんなことを考えていると病室のドアが開く。
そして入ってきた人物を見た瞬間、そこから目が離せなくなった。
(め、女神…)
現れたのは陽一と同年代であろう少女。
身長は女性にしては高め、160cmほどだろうか。
長く伸びた髪は日本人形を思わせるような美しい黒、
蛍光灯の光が反射して天使の輪ができているので"女神"というより"天使"といった方がいいかもしれない。
神が自ら考えたのではないかと思うほど整った顔立ちは凛々しく、微笑みは余裕を感じさせる。
目は切れ長でキリリとしており、その瞳で見つめられれば嘘などつけそうもない。
「「……」」
両者の目が合う。
陽一はそのあまりの美しさに目を見開くが、なぜか向こうも目を見開いている。
自分の病室に人がいた事に驚いているのだろうか。
お互いそのまま動かない。
「えっ!嘘!?なんでここに患者さんが!?」
そんな中、最初に静寂を破ったのは後から入室してきた従者と思わしき若い女性だった。
陽一がここに居ることにかなり驚いているようだ。
慌てた内心を表すように、手があわあわと忙しなく動いている。
自分よりも動揺している人を見て、少し落ち着いた陽一は質問に答える。
「いや……ここが自分の病室なんで」
病室へ向かう際は看護師さんに案内してもらい自分でも部屋番号を確かめたため、ここが自分の病室だと自信を持って言える。
「ほ、本当に…?病室を間違えているとかではなく…?」
「はい…確認しました」
「ッスゥーー……マジかぁ…」
女性は手を額に当て、天を仰ぐ。
どうやらなにかしらの手違いがあったらしい。
そうこうしている間も陽一のことを凝視していた美少女だったが、ハッとしたように慌てて声を出す。
「せ、先客が居たとは…ノックもせずに失礼した」
「ああ、いえ…お気になさらず」
(ま、まじで美人だな…)
落ち着いて冷静に観察することで改めてそう思う。
テレビで観るアイドルや芸能人ですら霞むような美少女に突然話しかけられ、返答に緊張が混じる。
(ていうかなんでこんなに見てくるんだ…!?)
しかもなぜか自分のことをガン見してくる。
そのことに困惑する陽一だったが、うーんうーんと唸っていた従者の女性が閃いたとばかりに手を叩く。
「わ、私!すぐに病室を変えてもらえるか聞いてきますね!!」
しかし、そう言って今にも走りだそうとする彼女を主人である少女が止める。
「その必要はない」
「えっ……で、ですが」
「その必要はない、分かったかい?」
少女はゆっくりと確かめるように言う。
静かに、けれどその言葉には有無を言わさぬ迫力があった。
少女の顔に浮かぶのは微笑み。
その目は決して反論を許してはくれない。
全身から冷や汗が吹き出る。
まるでここだけ重量が2倍になったかのような感覚に陥るほどの圧力。
「し、失礼しましたッ!!では私は職務の方に戻りますね!」
女性はそう言い残し、その場から逃げるように去って行く。
(す、すげー圧だ…)
美人の凄む顔は怖いと聞いたことのある陽一だったが実際に目の当たりにして、それは真実だと確信する。
「あのー……」
「お騒がせした……これから同室となるのだからあまり悪い印象は残したくない、握手でもどうかな」
先程とは違った穏やかで美しい笑みを浮かべつつ、少女は手を差し出してくる。
「は、はぁ……」
まぁ童貞でもあるまいし、女性との握手くらいで動揺するような無様は晒さない。
(うおぉぉぉお!!手ぇめっちゃ柔らけぇぇえ!!てか笑顔可愛すぎるだろ!!)
そういえば童貞だった。
少女の手は少しだけ冷んやりとしており、その細く綺麗な指は否が応にも女性らしさを感じさせる。
内心ではバチクソに緊張しているが、目の前の少女に悟られないようにクールに振る舞う陽一。
こんな異次元の美少女と出会えるなら入院も悪くないと思えた。
そしてなによりも、祭りが始まる前の不思議な高揚感とでも言うのだろうか……。
恋とは違う、だが確かな胸の高鳴りを抑えきれない陽一なのであった。
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