4話 事故に遭う男子高校生主婦
ちょ、ちょっと待って下さい!
今アクセス解析ってやつを見てきたんですけど思った以上に見つけてくださる方が多くて…!!
本当にありがとうございます!!
これを報告したいがために今日は2話投稿です(無計画)
「そういやそろそろ冷蔵庫の中身補充しとかねぇとな…」
住宅街から漂ってくる夕飯の匂いで陽一は冷蔵庫の中身が少なくなってきていたのを思い出す。
ちょうどここから少し先にスーパーがあるのでそこで買い物をすることにした。
「えーと、今日の晩飯は…カレーでいっか」
陽一は父親と二人暮らしである。
だが父親はいつも仕事で忙しくしており、朝は陽一が起きる前に家を出て夜は陽一が寝た後に帰ってくるほどだ。
「おっ、これ安いな」
そんな家庭環境なので当然だがご飯は一人で食べることになる。
父親からかなり多めの食事代は渡されているが毎回外食というわけにもいかないので、食事は自分で用意するようにしている。
自炊を始めた最初の頃は好きなものを好きなだけ食べていたのだが、ネットなどで料理を学ぶ内に栄養バランスにも気を使い始めるようになった。
おかげで学校の調理実習では180cm近い男が眼光を鋭くしながらテキパキとよどみなく料理をしていくという奇妙な光景が見られる。
「よし、これくらいでいいか」
買い物カゴに入れた商品をレジまで持っていく。
夕暮れ時のスーパーで夕飯の買い出し中の奥様方に混じって食材を買い込む男子高校生というのは少しだけ人目を集める。
「レジ袋はご利用なされますか?」
「あ、エコバッグあります」
主婦力の高い陽一は当然のようにエコバッグを持ち歩いている。
周りの奥様方から「へぇ…やるじゃない?」という視線を感じるがいつものことなので陽一は気にせず食材をカゴからエコバッグに移していく。
しかしその中にはなぜか野菜が見当たらない。
「栄養バランスの話はどうしたんだよ〜!」というヤジが飛んできそうだが、これにはちゃんとした理由がある。
「よしっ、次はあそこだな」
そう言って陽一が向かったのは行きつけの八百屋。
スーパーよりも安い上にたまにサービスもしてくれるのだ。
「今日も安いよー!夕飯の材料に…あら!陽一ちゃんじゃない!!」
「うーす、なんかオススメないすか?」
「今日は人参が安いわよぉ!」
「お、いいっすね」
顔なじみの店主と軽く挨拶を交わしつつ野菜を手に取っていく。
「そういえば陽一ちゃん、花織は学校ではどう?」
「んー……なんか2週間くらい前からすげー元気になってませんか?」
「あ!学校でもそうなの?家でもそうなのよ、なにか良いことでもあったのかしら」
「テニス部でも結構頑張ってるらしいですよ」
「あらぁ……部活を頑張るのは良いことなんだけどちゃんと勉強もしてるのかしら…」
「成績は、まぁ……今後の努力次第っすかね」
「大丈夫なのかしらそれ……」
「赤点取ったら部停くらうんでテストはなんとか乗り越えると思いますよ……これでお願いします」
野菜をレジに持っていき会計する。
やはりスーパーで買うよりも安い。
「たくさん買ったわね、はいこれおつり」
「冷蔵庫の野菜室がもう空だったもんで、ありがとうございます」
「相変わらずちゃんとしてるわねぇ……また来てねー」
ネギが飛び出た袋を抱えるその様子は完全に主婦である。
きっといい嫁になることだろう。
「これで買い物はばっちしだな」
あとは帰るだけ、なのだが
「…っ……嘘だろ…」
陽一の足が止まる。
「なんで…このタイミングで…」
その視線の先には隣り合って歩く夏目茜と左衛門三郎葛斗の姿があった。
デート帰りなのだろうか微妙な距離感で隣り合って歩く姿は、制服姿も相まって初々しいカップルといった印象を受ける。
やっと立ち直って前を向いたところだったのに、こんな最悪な場面に出くわしてしまった自分の不運を呪いたくなる。
自分勝手なのは向こうなのにどうしてこんなにみじめな思いをしなければならないのか。
「…………クソだわ」
それは陽一の心の底からでた本音だった。
そのまましばらく様子を見ていると、どうやらここで二人の帰路は別々になるらしく左衛門三郎は去っていき、茜が一人残った。
(腹立つな……一回ガツンと言ったろ)
心の中のデビル陽一がそう囁く。
(人の不幸には2種類ある……1つは自分の不幸、もう1つは他人の幸せだ!)
どこかで聞いたことのあるようなことを言っているが、心の中のエンジェル陽一も賛成らしい。
満場一致で元カノにお小言を言うことになった器小さめの陽一は着実に歩を進めていく。
そしてついに、かつて恋人同士であった二人が並び立つ。
歩行者信号が青に変わるまでおよそ15秒。
陽一は覚悟を決めて茜に話しかける。
「よ、よう……久しぶりだな」
急に肩を叩かれたことで茜が振り返る。
そしてその視界に陽一を捉えた瞬間、みるみる内に顔色が悪くなっていく。
「え……うそ……陽君……っ!?」
(お、結構動揺してるか……?)
ファーストパンチが良い感じに決まったことで調子に乗る小市民陽一。
(よし、このタイミングであれも聞いておこう)
その調子のままに追撃を仕掛けようと、今度は思い切って左衛門三郎関連の話題を出す。
「……なぁ、最近左衛門三郎と付き合ったって」
「来ないでっ!」
「は……?え……」
そして顔面ストレートをもろにくらう。
想像の5倍ほど強い拒絶に一瞬思考がフリーズする。
というかもう泣きそうになっている。
人間、慣れないことを急にしようとすると痛い目に遭うものである。
固まった陽一を見て自分が何を言ったのかに気づいた茜が慌てて脳内で言い訳を探す。
「あっ、ちが、嫌とかじゃなくて……!」
「……」
しかし茜の必死の本心じゃないよアピールも虚しく、陽一の心は既に萎えきっていた。
一発KO負けである。
(どんだけ俺のこと嫌いなんだよ……)
陽一は茜のあんまりな態度に苛立ちさえ覚える。
咄嗟の反応で拒絶の言葉が出てくるほどに好感度が低いとは思わなかったのだ。
もはや自分と付き合ってくれたのは何かの罰ゲームだったのではないかと思ってしまうほど。
そしてそれを否定できるだけの材料を陽一はもっていなかった。
夕飯の材料はたくさん手に持っているのだが。
「わ、私もう行くね?」
信号が青に変わった途端、茜はその場から逃げるように小走りで横断歩道を進んでいく。
陽一はそんな茜の後ろ姿に耐えきれずに思わず目を背ける。
そこで見てしまった。
赤信号を無視して突っ込んでくるトラック。
気を失っているのだろうか、運転手が進路を変える様子はない。
車は減速する気配すら見せずにどんどんと進んでいく。
そして不運にもその車線上にいたのは、一人とび出た茜だった。
「危ないッ!!」
気づいた時にはもう体は動いていた。
周りの全てがスローモーションに感じる。
どうにかして茜を突き飛ばす。
突き飛ばした先で頭を打ったりしなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
その時の茜がどんな顔をしていたのか、陽一からは見えなかった。
(あー……親父、じいちゃん、ばあちゃん、あとついでに奏……ごめん)
ゆっくりと移りゆく景色の中で、そんなことを思った。
(あ、最後にスマホの検索履歴とか消しときたいん)
襲いくる途轍もなく強い衝撃。
耳をつんざく悲鳴。
陽一の意識はそこで途切れた。




