21話 朝のHR
「うぉぉぉぉぉお!!なんだあの美少女!?」
「顔面ッ!!圧倒的顔面ッッ!!」
「僕‥‥このクラスで良かった……」
「お、俺は弦巻さん派だからな!!」
「ていうか一!!お前その娘とどういう関係だよ!!」
「男子マジでうるさいから!!」
「やば‥‥スタイル良すぎでしょ……」
突如として現れた転校生に対して各自様々な反応を示す生徒達。
男子の中には興奮のあまり立ち上がってしまう者までいた。
女子はそんな男子達を冷めた目で見ながらも陽華のあまりの美しさに目を奪われている。
そして一部の男連中のように表に出したりはしないが、やはり年頃の乙女らしく 陽一との関係についてはどうしても気になってしまうようで、気にしない素振りをしながらも内心では興味津々といった様子の者がかなりの数見受けられた。
「み、みなさん落ち着いてくださいぃ‥‥」
静香は暴動でも起こったのかと思われそうなほど熱狂している生徒達を涙目になりながらも鎮めようとする。
しかし″可愛い転校生″という存在は静香の思っていた以上に男子生徒達にとっては大きいものであったらしく、その興奮はちょっとやそっとのことで簡単に冷めたりはしない。
そして 当の本人である陽華はそんな教室内の混沌とした状況を見渡して呆れたように首を振る。
「やれやれ‥‥ずいぶんと騒がしいクラスだね、栗山先生が困っているじゃないか」
「原因お前だけどな!?………ハッ!!」
転校初日からぶっ飛んだ自分の言動を棚の上の上辺りまで上げた陽華の発言で 無意識下のツッコミが発動したことにより正気を取り戻した陽一は、改めて目の前にいる陽華に向き直る。
「て、転校生ってお前だったのか‥‥」
「そうだよ、びっくりした?」
「いやびっくりしたっつーか‥‥なんでまた急に転校なんか」
「もうっ‥‥それ私の口から言わせる気なのかな? 陽一って結構ニブチンさんなんだね」
陽一の鼻の先にピッと指を指していたずらっぽく微笑む陽華。
″気になっている異性と距離を縮めるために転校する″という常軌を逸した発想を持たない陽一としては本当に理由が分からなかったのだが、ここは昨日までいた病室ではない。
教室の状況を確認し 二人で楽しくお喋りしている場合ではないと判断した陽一は、いろいろ聞くのは後にして とにかく場を治める方向で動くことにした。
「ま、まぁそれはいいとして‥‥とりあえず自己紹介くらいはしてくれ、先生泣きそうになってるから」
「そうだね、私としたことが つい我を忘れてしまったみたいだ」
「我を忘れたというか我が強すぎるんだと思うぞ」
「ふふっ、陽一って冗談言ったりもするんだね」
「割と本気だよ」
陽一の提言を受けた陽華はクラスの全員から強烈な視線を注がれる中、非常に堂々とした足取りで教卓へ向かう。
すぐ側を陽華が通りすぎた男子生徒は、その現実味のない美貌に 自分の意思とは関係なしに目が釘付けになってしまう。
「すみません栗山先生、少しはしゃいでしまいました」
「だだっ、大丈夫です‥‥では、まずは黒板にご自身のお名前をお願いします‥‥」
「わかりました」
静香からの指示を受けた陽華は白いチョークで黒板に名前を書いていく。
チョークで綺麗な文字を書くというのは案外難しいことなのだが、事も無げに見事な達筆で名前を書いていく姿に 静香は思わず感心する。
そんな静香をよそに名前を書き終えた陽華は、振り返りって その場で自己紹介を始めた。
「初めまして、梓浜聖女学院から転校してきました 一式陽華です。今日からよろしくお願いします」
ほとんどが初対面の衆人環視の中だというのに緊張した様子を微塵も伺わせない陽華の振る舞いに、男女問わず見惚れてしまう。
さらに梓浜聖女学院といえばこの辺りでも有名なお嬢様学校であり、男子生徒達のテンションは否応なしに上がる。
しかし陽華は一転して悲しげな表情を浮かべながら、申し訳無さそうな声で事情を告げる。
「実は急な転校で私自身かなり疲れていて‥‥しばらくはそっとしておいてもらえると嬉しいです」
そう言われてしまえば意気揚々と質問しようとしていた生徒達もさすがに自重せざるを得ない。
「はい! 栗山先生、自己紹介終わりました!!」
(((あれ‥‥元気じゃね‥‥?)))
どれだけ元気なように見えても本人が疲れていると言えばそれは疲れていることになるのである。
決して陽一以外のその他大勢への対応が面倒だとかそういう理由ではない。
華麗に質問タイムキャンセルをした陽華に対して、今度は静香が席の指定をする。
「そ、それでは一式さんの席ですが、あちらの空いている席になります‥‥」
そう言いながら教室の右前方の空席を指差した静香にしっかりと頷いて、陽華は教室の左後方へと歩いて行く。
「あれぇ‥‥?」
力なく首を傾げる静香に構うことなく 窓際の最後尾の陽一の席までたどり着いた陽華は 陽一、ではなくその隣に座る女生徒に話しかけた。
「実は私、目がとっても良いんだ」
「は、はぁ……」
唐突な謎のカミングアウトに困惑を隠せない女生徒。
陽華は気にせず話を続ける。
「だから前の席だと授業中目が疲れてしまうかもしれない‥‥」
「そ、それは大変ですね」
「そこで君に頼みがあるんだけど‥‥どうか席を替わってはくれないかな‥‥?」
「えぇ!? き、急にそんなこと言われても困りますよぉ!!」
陽一の隣の彼女としても窓に近く 教卓から離れているこの席は気に入っているらしく、良い反応は得られない。
しかしそんなことで諦める陽華ではない。
「どうしても‥‥だめかな‥‥?」
「うぅ‥‥でもぉ‥‥」
「あとでたっぷり謝礼も出すよ?」
「お金ッ!?替わりますッ!!私、席替わりますッッ!!」
息を吐くように買収を持ちかける陽華に対して、息を吸うようにそれを受け入れる女生徒。
今ここに、二人の利害が一致したWin-Winの関係が生まれたのだった。
見事に自分の居場所を勝ち取った陽華はさっそく席に着く。
そして隣の席の陽一を見て驚いた顔をする。
「わおっ、陽一じゃないか! 隣の席なんて奇遇だね‥‥!!」
「むちゃくちゃだよこいつ」
なぜ至近距離で一部始終を見ていた陽一に小芝居を打つ必要があるのか。
そしてそれを抜きにしても聞きたいことが山ほどある陽一は、このホームルームが終わったら質問攻めにすることを固く誓った。
陽一の隣の席だった兼為 聡子ちゃんは家計を支える為にバイトを掛け持ちしています。四人姉妹の長女。良い子。
やっとホームルームが終わりました。
多分次かその次くらいに大きく展開が進み……ます。
というかそこまで進ませたい‥‥。
水曜日に更新です。




