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18話 side夏目茜













「あの女ッ!あの女ッ!私と陽君のことなんか何も知らないくせにッッ!!」


 私は衝動のままに枕をぼすぼすと叩いていた。

 怒り、焦り、不安、いろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざって自分でも言い表すことの出来なくなったこの気持ちをぶつける。

 でもずっとそんなことをしていると、すぐに疲れてしまって少しだけ頭が冷えてくる。

 そして今度はじわりと涙が出てくる。


「うぅ……」


 さっきまで叩いていた枕に顔を埋めて声を押し殺して泣く。

 こういうときは止めようと思えば思うほど止まらないから待つしかない。

 目をつむるとあの女に言われたことが思い浮かんでくる。



『君は『陽一の為』と言って、自分のしたことを『陽一のせい』にしたいだけなんだろう?』

『理由も言わずに離れていったクセに『あれは貴方の為だったの、仕方なかったの』なんて言い訳でノコノコと戻ってくるわけだ、君って本当に卑怯だね』



「違うもん……ぐすっ……本当に陽君の為にやったことだもん……」


 陽君を振ったのは、陽君を守る為だ。


 私は運が悪い。

 ううん 悪いなんてものじゃない、これはもはや呪いと言ってもいいかもしれない。

 初めてこのことに気付いたのは 陽君にアプローチをし始めて1ヶ月ほど経ったときだった。

 その頃から 陽君は少しずつ危ない目に遭い始めた。

 一緒に下校してたら毎日のように野球部やサッカー部からボールが陽君目掛けて飛んでくる。

 階段を上ってたら上の方から足を滑らせた人が落ちてくる。

 最初は陽君が不幸体質なのかと思っていた。

 私はそれでも陽君が好きだったし、その頃はまだ降りかかる災難は小さなものばかりのばかりだったからあまり気にしてはいなかった。

 でも陽君と付き合ってからそれは段々と酷くなっていって、遂には命の危険があることまで起こり始めた。

 そしてある時、陽君とその親友の松川君が話しているのを聞いてしまった。


「陽一ってド○えもんに出会わなかった世界線の○び太君くらい運ないよね」

「さすがにそこまでは……いや、あるか?」

「前からこんな運悪かったっけ?」

「そんなことないぞ、多分去年の夏くらいからだと思う」


 ″去年の夏″、それは私が陽君に近づき始めた時期だった。


 それから私はいろいろなことを試してみた。

 あえて他の人に近づいてみたり、陽君と距離を取ってみたりして原因を探った。

 そしてその検証で分かったのは、陽君が不幸体質なのではなく私が不幸を呼び寄せている、ということだった。

 私との仲が深まれば深まるほど、その傾向は顕著になっていく。

 このままでは陽君が死んでしまう。

 私が、殺してしまう。

 それが怖くなって自分から陽君を遠ざけた。

 その日は一晩中泣いた。

 どうしてこんなにも大好きな人と一緒にいることすら出来ないのか。

 辛かった、死んでしまいたくもなった。

 

 でもその前に、どうせなら私と陽君を引き裂いた忌々しいこの体質をとことん利用してやろうと思った。

 ターゲットは前々から何かと陽君と私の仲を邪魔してくるあの男だ。

 本当に、本当にいつも目障りな存在だった。

 デートにわざわざ着いてきて邪魔された時など、手にナイフを持ってたら襲いかかっていたかもしれない。

 

 私の体質を利用するには、まずその人と近しい関係になる必要がある。

 だからどうやって近づこうか考えてたら、なんと向こうから告白してきた。

 恐らく、私が陽君を振ったことを知ったのだろう。

 好都合だ。

 私はその告白を受けることにした。

 頭の中には、この男を痛い目に遭わせ、あわよくば殺してやろうという考えしかなかった。

 それから 事態は私の思い描いていた通りに進んでいった。

 階段から転げ落ちたり、ぬかるみに足をとられて全身泥だらけになったり、出掛けた先であの男が痛い目に遭う様は何よりも滑稽で痛快だった。

 このまま上手くいけば事故に遭わせて殺すのも夢じゃないかもしれない。

 

 そんなことを考えていた時だった、陽君が私を庇って事故に遭ったのは。

 

 陽君に無駄な心配をさせたくなくて振った理由は言わなかったけど、命を懸けて守ってくれた陽君に対して何も説明しないのは不誠実だと思った。

 そして何より 助けてくれたことが嬉しかった。

 陽君と一緒ならもしかしたら乗り越えられるかもしれない。

 そう思った。

 だけど今の電話で、私はとんでもない思い違いをしていたことに気づかされた。

 


『あっはっはっ、君がそれを言うんだ?陽一を捨てて他の男に乗り換えた君が』



 私はそんなことしてない……つもりだ。

 でも他の人から見るとそういう風に写ってしまう。

 言われて初めてそのことを理解した。

 何より一番辛いのは陽君にもそう思われてるかもしれないということだ。


「私……ひぐっ……お尻の軽いビッチだと思われてるのかなぁ……?」


 陽君に嫌われていると想像しただけで、胸を針で突き刺されたような痛みが走る。

 初めから素直に頼って相談していればこんな苦しい思いをせずにすんだのかもしれない。

 

 二人の初めてのデートで行った遊園地、そこで撮ってもらったツーショットを眺める。

 陽君は少し照れながら、私は満面の笑みで、二人で手を繋ぎながら観覧車を背にしてピースをしている。

 

「うぅ……ぐすっ……」


 陽君と過ごした日々はいつだって昨日のことのように思い出せる。

 そのどれもがキラキラしていて、今の私には眩しすぎて涙が出てしまう。


 陽君に会うのが恐い。

 お前なんか嫌いだ、と口に出して言われたらその場で泣いてしまうかもしれない。

 でもこのままじっとして何もせずに、陽君の心からだんだん私が消えていく方がもっと恐い。


 だからどんなことになっても ちゃんと会って私の口から説明しなくちゃいけない。

 たとえそれが、私と陽君の関係を完全に終わらせることになるかもしれなくても。












「うぅ……それはやっぱりイヤだぁ……ぐすっ……」






先日「別の人の彼女になったよ」という曲を聴いたんですが、あれマジやばいですよ。

サビが切なすぎて……。

聴いたことないよ~っていう人は是非聴いてみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「xxxHOLiC」のひまわりちゃんを思い出しましたね… やってることは違いますが…
[良い点] 可哀想ではあるが…ラブホに入ってしまったらもう無理だろ [一言] この手の話では毎回思うが、なんでその不幸体質かもしれないという事情を話そうとしないんだろう。
[一言] さすがにラブホでオープンマイホールしてたくせに まるっとおぼえてない?忘れてる??封じ込めてる??? して乗り換えてないとかおほざき遊ばすなんて どういうことなんですかと逆に問い詰めたいわ
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