理不尽な聖女と幼馴染の僕 その2
「あなたの天職は‘聖女の保護者,です。」
神父様の声が頭の中で、再生される。えっ…保護者?聖女の?聖女って誰だっけ?ああ、クレアだった。
あのワガママで、理不尽で、僕をパシリ扱いする、クレア…
僕はとても動揺した。それはもう聖女が誰か頭から飛んでしまう程に動揺した。
「シリウス君、シリウス君!」
「えっ…!は、はい!」
「大丈夫ですか?なんか世界の終わりみたいな顔してましたけど…」
神父様が心配そうに僕に尋ねてきた。いかん、いったん落ち着こうと思い、僕は深呼吸をする。
…よし、まずは天職について神父様に聞いてみよう。
「大丈夫です。神父様、それより僕の天職は一体なんですか?」
「わかりません。このような天職聞いたこともない…私も動揺しています。取り合えず、聖女様に関係するものとはなんとなく分かりますが、詳しくはあなたも王都に行ってそちらの神父に聞いた方がいいでしょう。力になれず、すみません。」
だよねー、そうなるよねーと思い、神父様にお礼を言って講壇から離れた。村の皆も聞いたことのない天職に驚いているようだった。クレアの姿はなかった。
「僕、クレアと一緒に王都に行くよ。神父様も王都に行って聞いた方がいいって言ってたし」
「ああ、クレアと一緒なら大丈夫だろう。王都から騎士団が迎えに来てくれるようだし、一緒に連れて行ってもらうといい。出発は7日後だったはずだ。」
父さんにありがとうと言い、母さんは心配そうに僕を見つめていた。クレアはどこ、と母さんに聞くと先に両親と帰ったらしい。僕も両親と家に帰って、これからの準備をすることにした。
その日の真夜中、僕は疲れてベッドでぐっすり眠っていた。すると、窓の方からガチャガチャと音が聞こえた。気になって窓を見ると、口パクしてるクレアがいた。あ・け・ろと言ってるみたいだ。僕はため息を吐いて窓を開けた。
「よくやったわ。パシリウス。さすが、私の下僕ね。褒めてあげる。」
「なんだよ。クレア。こんな遅い時間にやってきて。僕、眠いんだけど。」
「なに!あんたが寂しがってると思って、わざわざ、あんたのご主人様で、被保護者の超絶カワイイ私が来てあげたのよ。感謝しなさい。」
「あーハイハイ。ありがとーございます。ご主人様。」
クレアが腕を組みながら、鼻息を荒くして捲くし立ててきた。僕は文句言っても仕方ないと思い早々に折れる。このやり取りが王都でも続くと思うと頭が痛くなってくる。早く帰ってもらおうと僕はなんとなく話題を振ってみる。
「そういえば、僕の天職って一体なんだろうね。‘聖女の保護者,って聞いたことないし、何をするのかもいまいちピンと来ないや。クレアはどう思う?」
「はあ!簡単じゃない!あんたは私のパシリってことじゃない。いままでと何も変わらないわ。だからさっき、褒めてあげたじゃない。パシリウス。」
好きでなったわけじゃないわと心で突っ込みを入れ、ハハッ、ソウダネと心にもないことを言ってみる。
クレアは少し眉をひそめたが、まあいいわ、おやすみと窓から出ていった。鍵を閉める直前、小さな声でこれからもずっと一緒よと聞こえた気がするけど、僕は眠気に勝てず、ベットに潜り込んだ。
7日後、王都の騎士団が迎えに来た。数は大体、50人くらいの大所帯だ。
「私は王都騎士団の団長マリウスでございます。お初にお目にかかるクレア様と未確認の天職のシリウス殿。王都まで私共が責任を持って送らせていただきます。どうか、よろしくお願いいたします。」
「ええ、よろしくお願いしますわ。団長様。」「よろしくお願いいたします。」
なんか、いかつい顔の割にいい人そうな団長さんで良かったと思い、僕はほっとした。それから見送りに来ている村の皆に挨拶をして、騎士団の馬車に乗り込み、王都に向かった。
村を出て4日経った。団長さんによると最近、魔物がよく出没しているらしく、安全な道を通るようにしているとの事だった。クレアはお尻が痛いマッサージしてと何度も言ってくるが、さすがに女の子のお尻は触れないので、必死に断固拒否した。その代わりに腰をマッサージさせられた…
さらに2日経ち、王都の近くにある草原に辿り着いた。ここを抜ければ王都はもうすぐみたいだ。ぶつぶつ文句を言うクレアを宥めながら、早く王都に着いてくれと心の中で叫んでいると、ソレは突然やってきた。
大きい地響きがして、僕とクレアは驚き馬車を飛び出した。すると、前方で黒いオーガが1体いた。
この世界には魔物がいる。魔物にもランクがあり、下級・中級・上級・超級・特級・伝説級があり、オーガは上級の魔物で、戦闘系の天職を持っている騎士団50人の方が有利のはずだった。しかし、騎士団がどんどん振り回されているこん棒に蹴散らされていくのが分かった。
見ていられないとばかりにクレアはすっかり怯えている僕にここで待ってなさいと言って、オーガの元へ走った。騎士団に次々と回復をかけていくが、全員には行き届かないようだった。
「怯むな!陣形を整えて、一気に仕掛けるぞ!」
団長さんも騎士団の士気が下がらないないよう、大声で指示を出しながらオーガに斬りかかって行った。
「貴様が今回の聖女か?」
丸太のような指でクレアを指差し、オーガが喋った。その場にいる全員が目を見開いた。オーガは喋るような知能の高い魔物ではなく、力に特化した魔物のはずだったからだ。
「そうよ!私が聖女よ!あんた、見た目の割に賢いじゃない。驚いたわ。」
「はっはっはっ!今回の聖女は、中々気が強いと見える。それにまだ女神の神託を受けて日が浅いというのに、もう回復が使えるとは、少しばかり驚いた。魔王様から今回の聖女は早く消せとのご指示にも納得できたぞ。」
「貴様、魔王の配下か!我々騎士団の誇りにかけて、倒してくれる!」
団長が騎士たちに指示を出し魔法や剣でオーガを攻めていくが、特に効いている様子もなく、次々に蹂躙されていった。団長や他の騎士たちもボロボロになっていく。
「クレア様、お逃げください。私たちで時間を稼ぎます。」
「駄目よ。見捨てられないわ。私は聖女よ。こんな筋肉ダルマに背を向けたくないわ。」
団長がしかしと言った瞬間、棍棒で吹き飛ばされていった。
「さて、聖女よ。ここで命を差し出せば、他のカス共は見逃してやってもいいが、どうする?」
「言ったでしょ。見捨てないって。」
「愚かな聖女だ。死ね。」
オーガは額に青筋を浮かべ、でかい棍棒を握り直し、大きく振りかぶった。やばい。僕は震える足を叩いてクレアの元に全力で走った。
ー涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
ー息も苦しい。
ー心臓がちぎれそうだ。
ーめちゃくちゃこわい。
ー何もできないかもしれない。
それでも、僕は、あいつを絶対に、見捨てられない。
あの理不尽で、いつも自分勝手で、超絶カワイイ幼馴染を僕は見捨てない!
「シリウス、助けなさい!」
クレアが僕に気づき、泣きながら叫んだ。
「当たり前だ!僕は‘聖女の保護者,だ!」
オーガの棍棒がクレアに振り下ろされるその瞬間、声が、聞こえた。
ー被保護者のオーダー、保護者、承認。
ー状況確認。把握。過去の勇者のデータを保護者にロードします。
僕は体が羽のように軽くなったのを感じた。
…可笑しい。確かに我は、聖女に止めを刺した。べそかきながら、走ってきた虫けらもまとめて叩き潰したはずだった。しかし、何故、奴らは、まだ生きているのだ!虫けらはいつの間にか聖女を抱え、我の棍棒に潰されない場所まで移動していたのだ。ありえぬ…
「…危なかった。間に合って良かったよ。」
「ありがと、パシリウス。ところでその右手に持っている剣は何?」
「分かんないけど、変な声が聞こえて、いつの間にかこの剣が右手にあったんだ。体が羽みたいに軽くなってすごい速さで動けたんだよ。」
「…ふーん。助かったわ。さすが、私の下僕ね。」
「いままでで、一番の無茶ぶりだったよ。死ぬかと思った。」
聖女と虫けらが何かはなしているが、どうでもいい。虫けらの雰囲気も変わっているし、奴の剣から異様な圧を感じる。早めに処分せねば、嫌な予感がする。下がっててと虫けらが聖女に言った。
「まずは、お前から死ね。虫けら。」
我は渾身の力で棍棒を虫けらに振るった。
さっきから体に力が溢れてくる。棍棒を振り下ろそうとするオーガの動きも止まって見える。そういえば、あの声はこの剣の事なんて言ったっけ…そうだ、思い出した。僕は、左手を腰に伸ばし、空気を掴んだ。すると、鞘が現れ、剣を鞘にしまう。
ー風の聖剣、風月瞬刀。
「‘風鈴,」
僕は迫ってきたオーガの棍棒ごと奴の体を切り刻んだ。遅れて、チンと音が鳴り、剣を鞘に戻す。オーガは目がこぼれんばかりに見開いて、叫ぶ間もなく体がバラバラに崩れ落ちてしまった。
終わった。安心した僕は、意識が途切れた。
目が覚めると、ベットの上だった。体のあちこちが痛い。どうやらここは王都の教会らしい。シスターが目を覚ました僕を見ると、慌てて神父様を呼んでくると部屋を飛び出してしまった。クレアが僕の手を握って、すやすやと眠っていた。看病してくれたのかな、寝ている顔は可愛いんだけどなと思い、見つめていると目を覚ました。
「パシリウス、目が覚めるのが遅い!下僕がいなくて、とっても不便だったんだから!謝りなさい!」
「はい、はい。ごめんなさい。」
「よろしい。まったく、次からはもっと早く目を覚ましなさい。下僕がずっと寝てるなんてあり得ないんだから。」
クレアはどこか安心したように、微笑みながら言った。目元がまだ、僅かに腫れている。きっとこれからも僕はクレアに巻き込まれて、大変な目に合うだろう。それでも構わないと思っている自分がいた。
何故なら、僕はいつも理不尽で、ワガママで、パシリ扱いする‘聖女の保護者,になってしまったのだから。




