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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の追究〜  作者: スズキ
第一話 「警部の計画」 VSエリート刑事/霧崎洋介
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八・誘拐の方法



 二宮に止められた渡は困った顔をして、洋介のほうをみた。


「どうします?」


 渡に訊かれた洋介は肩肘をソファーの背に乗せ、足を組んだ。


「まあいい、ちょっとした参考程度に聞いてみようじゃないか。それで? 二宮君は何が気になるというんだ」


「はい、それを話す前に霧崎警部にひとつ質問したいことがあるんです」


 二宮は洋介の目の前で人差し指をピンと立てた。


「質問?」


「ええ。まず今夜、どうしてあなたは大川さんを車で送ることになったのでしょうか? あの人、随分前からマイカーを持っていて、自分で車を使って駅ビルまで向かうことができたはずなのに」


「なんだ、聞いていなかったのか? 今朝、大川が出勤する前に、あいつの車のタイヤに穴を開けられたらしくてな」


「初耳です。今初めて聞きました」


「とりあえず、それで車を使うことができなくなったから俺が送ることになったんだ。他に質問は?」


「いえ、それで結構です。そうですか、だとすると尚更おかしいなあ」


「なあ二宮君、君はいったい何がおかしいというんだ? そんな勿体ぶらずに教えてくれたっていいじゃないか」


「もう少し待ってください。今回、大川さんを誘拐した犯人は藤野さんの携帯を通じて警察に脅迫電話をかけました。ふつう人を誘拐したらですよ、人質の家族を脅迫するはずです。しかし犯人はわざわざ大川さんの職場である警察を脅迫した。例えばですよ、ある会社の社長を誘拐して、その会社を脅迫してお金を強請ゆすり取るなんて話だったらまだ納得がいきます」


「まあ、実際にそういう事件は過去にも起こっているな」


「ええ。ですが大川さんは会社の社長ではありません。優秀かどうかはさておき、警察組織に所属する人間です。警部、そんな人の職場を相手取って脅迫をする理由はなんだと思いますか?」


 質問はひとつ、といっておきながらまた質問をしてきた二宮に洋介は困惑した。ただ、そんな疑問が周囲の人間から出てくるだろうと想定していた洋介は、あらかじめ用意しておいた意見をいった。


「そうだな、その誘拐犯は警察に何かの恨みを持っているか、もしくは『自分は警察なんかよりずっと優秀だ。そうだ、ためしにあの連中に少しちょっかいをかけてみよう』と思い上がっている馬鹿のどちらかだろうな」


「僕も警部と概ね同じ考えです。しかし、だとするとある疑問が出てきます」


「ある疑問?」


 テーブルの横に立ったまま静かに話を聞いていた渡がいった。


「おふたりに聞きます。この誘拐事件、計画されて行われたものだと思いますか?」


「そりゃそうでしょう。無計画に誘拐事件なんて、できるはずがないですから」


「堂本の言う通りだ。加えて誘拐犯にとって相手は警察だ。相当綿密に計画は練らなきゃいけないだろう」


「その通りです。だからこそおかしいんです」


「判らないな。つまり君は何がいいたい?」


 なかなか話の本題に入ろうとしない二宮に、洋介は苛立った。


「いいですか。そもそも大川さんは今夜、色々な出来事の積み重ねがあってあの誘拐された路地裏にいたんです。まず前々から予約していたケーキバイキングに僕と行くという予定がありました。そこへは自分の車で行こうとするものの当日の朝、何者かにタイヤに穴を開けられて車が使えなくなってしまいました。しかしそんな困っているところを上司が助けの手を差し伸べて送ってくれることになりました。そして車で送ってくれた上司は大川さんを路地裏で車から降ろした。そしてあの誘拐事件が起こった。

 さて問題です。最初からこれらの偶然すべてを計画に組み込んだ上で、誘拐犯は警察官大川千尋を誘拐したのでしょうか?」


「……あっ」


 渡が声をあげた。


「そうか、誘拐犯は大川先輩があの場所に現れることなんて知ってるはずなかった」


「堂本刑事のいう通りです。よろしいですか、誘拐犯は警察を脅迫するこの計画を実行するうえで、警察官である大川さんを誘拐するのは必然でした。しかし、あの時あの場所で大川さんを誘拐するという計画をして、実行するなんて未来予知でもできない限り不可能なんです。警部、あなたはこの疑問についてどうお考えでしょうか」


 洋介は二宮の話を冷静な面持ちで静かに聞いていた。「そうだな」というと彼は組んでいた足をもとに戻して、両肘を膝の上に乗せて両手のてのひらを合わせた。


「確かに奇妙な話だ。しかしこうは考えられないか? 誘拐犯が大川を誘拐したのは偶然の結果だったと」


「どういうことでしょう」


「まず犯人が誰かを誘拐し、その人物を人質にして警察を脅迫する。これは別に人質が警察官でなくとも成立する話だ。ごく普通のOLでも、学校帰りの女子高生でも構わない。そういった人物を誘拐して、誘拐した人物の携帯を拝借して警察に脅迫の電話をかければいい。そういった過程で不幸にも警察官の大川は誘拐犯の毒牙にかかってしまったというわけだ。これで筋は通るんじゃないか?」


「なるほど、確かに一理あります。さすがエリート刑事だ」


「馬鹿にしないでくれ、素人にいわれなくてもこれくらい判る」


「しかし問題があります」


「なんだと?」


 ここに来て洋介は眉をぴくりと動かし、僅かながらに動揺を露わにした。


「思い出してください。誘拐犯は大川さんの携帯を使い、同僚の藤野さんに通話アプリを介して電話をかけました。こういった手順を踏むことで犯人はどこから電話をかけているのか、こちらに判らないようにした。これはさきほど警部が教えてくれたことですが、これで合っていますよね」


「ああ、その通りだ」


「問題はここからです。警察組織に所属する人間にこういった通話アプリで電話をかけるには、人質の家族、知り合い、もしくは同僚のうちの誰かが警察官でなければなりません。警部のいった誘拐する人物が誰でもいいという推理は、これに当てはめることができないというわけです」


 目の前で自らの推論をつらつらと滑らかに語る二宮に洋介は舌を巻いた。さすが、難事件をいくつも解決したということはある。


 洋介は二宮にぱちぱちと拍手した。


「見事だ、二宮君。確かにそれは気になる問題だ」


「お判り頂けましたか」


「ああ。だが二宮君。今我々がやるべきことはなんだと思う? 誘拐犯を捕まえるために全力を挙げることだ。君のいう誘拐犯がどうやって大川を誘拐したのかという疑問は、犯人を逮捕してから問い詰めればいい。そしてそれは我々警察官の仕事だ。素人の出る幕はないよ」


「……それでは、僕はもうお役御免というわけですね?」


「そうだ。さて、意見を聞き終えたことだし、君には家に帰って貰わなきゃいけないな。当然だが、公式の発表があるまでこのことをあまり外で広めたりしないでくれよ。堂本、彼のためにタクシーを呼んでくれ」


 洋介は再び渡にいった。しかしその時、フロアの奥から藤野愛美が息を切らしながら洋介たちのいるテーブルの方へと駆け寄ってきた。


「大変です」


「どうした」


「誘拐犯から次の指示が来ました」




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