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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の追究〜  作者: スズキ
第一話 「警部の計画」 VSエリート刑事/霧崎洋介
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七・誘拐犯の行方



 大川千尋警部補誘拐の報は瞬く間に警察署全体に広がり、捜査一課では大塚郷家警視の指揮のもと、捜査本部が立てられた。


 早速開かれた捜査会議で郷家警視は、部下たちに向かってこういった。


「いいか、これは誘拐犯の警察組織に対する挑戦以外の何物でもない。たとえ誘拐されたのが大川であろうと、何が何でも救い出し、犯人を捕らえるんだ。判ったな!」


 部下たちは一斉に「はいっ」と答えると、バラバラに別れて各々の任務に就いた。


 洋介や渡たちが会議室を出ていったん部署に戻ると、そこでは二宮がソファーに座って先ほどのバウムクーヘンの残りを食べていた。


「ああ、お戻りになられましたか」


 洋介と渡が二宮の向かいのソファーに腰かけると、二宮は飲んでいたコーヒーのカップをテーブルの上に置いた。


「それでどうでした、捜査会議のほうは?」


 二宮がそう訊くと、渡のほうから話し始めた。


「そうですね、まず犯人が大川先輩を誘拐した場所はちょうどあの駅ビルの路地裏付近とみて間違いないようです」


「とするとつまり、大川さんは霧崎警部に送ってもらって、車から下りてからすぐ誘拐されたということですね?」


「そういう見立てで間違ってないと思います」


 渡と二宮の会話を聞いて、洋介は「俺のせいだ」と呟いた。


「俺がもっと人通りの多い場所で車を停めてれば、こんなことにはならなかった。いや、そもそもすぐ近くで大川が誘拐されていることに気づいていれば……」


 暗い顔をして話す洋介を、隣に座る渡がフォローした。


「いえ、警部のせいじゃありません。責任を感じることなんかないですよ」


「堂本刑事のいう通りです。仮にも警察官だというのに、簡単に誘拐されてしまうような大川さんが悪いんです」


 二宮はコーヒーを飲みながら千尋を辛辣に批判した。


「しかし妙ですねえ。あの人、県警の柔道選手権大会で優勝したって聞きましたけど。それだけ強かったら、たとえ相手が男だとしても誘拐犯のひとりくらい簡単に撃退できそうなものですが」


「二宮くん、それ、誰から聞きました?」


「大川さん本人ですけど」


 渡と洋介は顔を見合わせると、困ったような顔をした。


「それ嘘ですよ。大川先輩、予選一回戦で敗退しましたから」


「……あの人、そんなこと言ってませんでしたけど」


「おまけに五本中三敗のストレート負け。優勝には程遠いな。君に見栄を張ったんだろう」


「僕、あの人から写真で優勝のトロフィーを見せてもらいましたけど」


「ああ、それはたぶん『がんばったで賞』の景品だな」


「まったく、あの人は……」


 二宮は苦々しい顔をして、カップのなかのコーヒーを飲んだ。


「屈辱です。あの人のくだらない嘘が見抜けないなんて……まあそれは置いておいて、誘拐犯があの路地裏からどこへ向かったか、足取りは摑めるのでしょうか」


「いや、それが問題で」


 渡が言いづらそうに口を濁した。


「大川先輩が誘拐されたと思われるあの路地裏には、防犯カメラが設置されていなかったんです。当然、誘拐犯としては誘拐している現場を誰かに見られるわけにはいけませんから、監視カメラが設置されていないあの場所での犯行に及んだのでしょうけれど」


「そうですか。しかし犯人は大川さんを誘拐してあの場から連れ出すのに、彼女を車に乗せていったと考えられますよね。まさかおんぶして連れ去るなんて真似をするわけがありませんし。車の追跡システムとか使えないんでしょうか」


「Nシステムのことですね。監視カメラで車のナンバープレートを読み取って、追跡するシステムです」


「そうです。たとえ誘拐の現場を見ることができなかったとしても、あの時間に近くを通っていた車を追跡すれば……」


「いや、それは難しい」


 洋介が話の流れを堰き止めるようにいった。


「いま実際に科研で調べているところなんだが、いくらあの路地裏の交通量が少ないとはいえ、あの時間帯にあの付近を走行していた車両は一台二台なんて片手で数えられる数字ではないんだ。一台一台追っていたらキリがない」


「ううん、なかなかうまく話は運ばないものですねえ。それなら、藤野さんにかかってきたあの電話の発信元は辿れないんですか? 電話会社に問い合わせて、どこどこから携帯の電波が飛んできた、みたいなことが判れば大川さんと誘拐犯の居場所が摑めると思うのですが」


「それが易々と判れば苦労はしない。その点に関しても誘拐犯は実にうまくやってる」


「どういうことでしょう」


「いいか、まずあの電話は大川の携帯から、無料の通話アプリを介してかけられたことは確かだ。二宮君も知っていると思うが、ああいったアプリを使うには登録したIDを使ってログインしなければならない。ここまでは理解できるね?」


「ええ。続けてください」


「先ほどそのアプリの運営会社に問い合わせをしてみたんだが、大川のIDでログインしている端末は大川の所持している携帯だけ。最初にいった通りここまでは辿れたわけだ」


「なら話は簡単でしょう。たとえ誘拐犯が携帯のGPSを切っていたとしても、その携帯の電波がどこから飛んできたのかを電話会社に問い合わせればいいじゃないですか」


「そこが問題なんだ。今回の場合、携帯電話用のインターネット回線からアプリ用のサーバーを経由して通信している。これだと発信元のIPアドレスまで知ることはできても、それだけで発信者の所在地まで正確に辿ることができない。知ることができるのはせいぜいどの都道府県にいるかくらいだな」


「ううん。よく判りませんが、要は誘拐犯と大川さんがどこにいるか判らないということですね?」


「つまりはそういうことだ」


 二宮は口に片手を当てて、「難しいんだなあ」と小さくいった。


「さてと二宮君、君にはそろそろ帰ってもらわなきゃならないな」


 洋介がそういうと、二宮はきょとんとした顔をした。


「帰るって、どうしてでしょうか」


「そうですよ警部。せっかくなんですから、彼にも協力してもらうとか……」


「堂本、おまえは大きな勘違いをしているみたいだな。二宮君、君もだ」


 洋介は渡と二宮に向かって、メガネのレンズの奥から冷たい視線を向けた。


「二宮君、たしかに君はこれまでいくつもの事件を解決してきたのかもしれないし、それに関しては私も感謝している」


「ありがとうございます」


「だが君はあくまで捜査に協力してくれた一般市民であって、捜査権を持つ警察官ではない。それに今回は誘拐事件だ。君の余計な意見が仇になって、大川の命が危険に曝される可能性だってあるわけだ。さっきの電話だって、もし君が犯人の怒りに触れるような発言をしていたとしたら、大川はもう既に死んでいたのかもしれない。いいか、そんなことが起こったとしたら、我々はどう責任を取ればいいというんだ? 君が責任を負えるというのか?」


「警部、いい過ぎですよっ」


 口調が熱っぽくなる洋介を渡が止めた。


「……すまない、流石にいい過ぎた。だが二宮君、私がいっている意味は判るね?」


「まあ、おおよそは」


「判ったならそれでいい。では夜も遅いし、タクシーを呼ぼう。堂本、携帯でタクシー会社に連絡してくれ」


「了解です。電話で署の前まで来てくれるように頼んできます」


「いえ、ちょっと待ってください」


 ソファーから立ち上がった渡を、二宮が言葉で制した。


「少し気になることがあるんです」



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