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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の追究〜  作者: スズキ
第四話 「偽りの秀才」 VS秀才/針山智和
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五・秀才の告白



 こんなの卑怯だ! 智和は二宮に見せられた手帳を見て狼狽した。こんなものを用意されて、ここからどうやって言い逃れればいいのだ!


 確かに、これは犯行時に手帳を見つけ出せなかった智和のミスではあるだろう。しかしあの時は、一刻も早く現場から逃げ出さなければならなかったのだ。悠長にそんなものを探している暇など彼にはなかったのである。


「今日、芹澤さんと何か会う予定があったんですか。というよりそもそも君と彼女は、どういった関係なんですか?」


 そう問いかけてくる二宮の視線を智和は受け止められそうになかった。二宮に背を向けて脂汗を流した智和は、同時に頭がきりきりと痛んだ。


 どうしろっていうんだ。正直に言えるわけなんかないだろう!


 すべてを明かしてしまえばそこで終わりだし、このまま黙っていては二宮たちの彼に対する嫌疑は深まる一方だ。いっそのこと、ここから走って逃げ出してしまうという手もあるが、そんな悪あがきをしたところで出口にいる制服警官たちに即座に捕まってしまうことは目に見えていた。


 はっきりいって、手詰まりだった。


「どうしても言わなきゃいけないのか」


「差し支えがなければ」


 ありまくりである。


 だがいっそのこと、ここで全て話してしまうべきなのではないかと智和は思った。警察に犯行を立証される前に自分から罪を認めてしまえば、多少は情状酌量が認められるかもしれない。


「……出来れば、このことは誰にも知られたくなかった。しかしこうなってしまった以上、いつまでも黙っているわけにはいかない」


「話してくださいますか」


「……致しかたあるまい」


 智和は物憂げな顔をして、溜息を吐いた。


「正直に言おう。俺は……」


 次の言葉を絞り出すまでの間、智和は生唾をゴクリと呑んで、指に思い切り力を入れて拳を握り締めた。そして覚悟を決めた彼は、二宮たちに見つめられながらゆっくりと口を開いた。


「俺は、芹澤のことが好きだったんだ」


「……はい?」


 突拍子のない智和の突然の告白に対して、二宮は間の抜けた声を出した。


「実を言うと、ずっと前から俺は芹澤のことが好きだったんだ」


「あのう、ちょっと話が見えてこないんですけど」


「知っての通り、俺と芹澤はクラスでは席が隣同士だ。毎日あいつの横顔を見ているうちに……俺はあいつに惚れちまったんだ」


「はあ」


 二宮たちに困惑されながらも、智和は思いつく限りの台詞をべらべらと口に出した。


 正直に洗いざらい全部告白しろだって? そんなこと出来るわけがないだろう! もし罪が軽くなったところで、今までの生活や苦労は二度と戻ってこないのだ。そんな易々と罪を認めてしまって溜まるか!


 ここまで来た以上、智和はどんな嘘もつく腹づもりだった。


「そして昨日、俺は覚悟を決めて芹澤に告白をしたんだ」


「……それで結果は?」


「それが一晩考えて、明日返事するとあいつはいったんだ。つまり今日だ」


「ということは、手帳に書いてあった例の件とはそのことだったんですか」


「そういう事になるだろうな」


「じゃあさっき僕が教室に行った時、君、どうして帰ろうとしていたんですか」


 これはかなり痛いところを突いてきた。しかし、智和は咄嗟に頭を回転させて二宮に反論をした。


「帰ろうとしていた? 二宮、おまえにはそう見えていたのかもしれないが、あの時俺は芹澤に会うために教室を出てここへ行こうとしていたんだ。思い違いだな」


「だけど手帳にはですね、こう書いてあるんです。もう一度よく見てください」


 二宮は先ほどの手帳を再び開くと、問題のページを智和にみせた。そこにはこう書いてあった。


 “昼放課十二時四十五分、風紀委員室で二宮くんに勉強を教える”

 ”放課後十六時半、職員室にてイトウさんと”

 ”十七時、風紀委員室にて針山くんと例の件について”


「君と芹澤さんがここで会う約束をしていたのは十七時。しかし、僕があなたを呼びに行った時、十七時はとうに過ぎていました。だいたい十五分くらいのオーバーです。どうしてそんな時間に遅れて出ようとしたんですか」


「ああ、それにも理由があるんだ」


 智和はそういいながら、さきほど買収した女子生徒のことを思い出した。


「約束の時間に部屋の前まで来たんだが、部屋の中には先客がいて、芹澤はそいつの相手をしていたんだ。たぶん、そこに書いてあるイトウさんとやらだろうな。それで一回出直そうってことで教室に戻ったんだ」


「なるほど、そういうことだったんですか」


「これで納得してくれたか」


「はい」


 二宮は微笑みを浮かべながらそういった。


「それは良かった」


 やれやれ、一時はどうなるかと思ったが、なんとか窮地は切り抜けられたようだ。


 安堵の笑みを浮かべると同時に、智和はあることを閃いた。


「なあ二宮、こっちからもひとつ訊いていいか」


「何でしょう」


「さっきの手帳、どうやら芹澤とおまえは昼放課に会っていたみたいだな」


「ええ」


「それで勉強を教わっていたと」


「それがどうかしたんですか」


「どうして芹澤なんだ。あいつじゃなくっても、お前には他にも勉強を教えてくれそうなやつは大勢いるだろう」


「あの、どうしてそんな怒っているんですか」


「俺は嫉妬深い性格なんだ。あいつに近寄る男がいたら、気になってしまうのは仕方ないだろう」


「……このご時世、あんまりそういうのは褒められたもんじゃないと思いますけどね」


「いいから、どうして芹澤を選んだのか説明しろっ! そもそもお前と芹澤はどういう関係なんだ、言えっ!」


 完璧な演技だ、と智和は心の中で自画自賛した。ここまでやれば、この一連の大嘘にかなりの説得力を持たせられるはずだ。彼の迫力に、二宮は多少なりとも困惑しているようだった。


「そんなことをいわれても、元は針山君が悪いんですよ」


「俺が? どういうことだ」


「朝、僕が君に英語を教えて欲しいって頼んだのに、針山君、君、断ったでしょう。だからあのあとたまたま近くを通りかかった芹澤さんに代わりに勉強を教えてくれって頼んだんです。あの人帰国子女だから、英語の成績いいし」


「なるほど。だが芹澤が引き受けた以上、おまえとあいつとは前から何か関係があったはずだ。まさか初対面の相手に勉強を教えるなんてこと、ないだろうからな。二宮、おまえ、芹澤とはどういう関係だったんだ」


「そんな、関係なんてものじゃないですよ。あの人風紀委員でしょう。僕、あの人によく髪型を注意されるんです」


 そういって二宮は自分の頭髪を指さした。その髪は、校則の規定を遥かに超えた伸びっぷりを誇っていた。


「それでけっこう前からあの人とは知り合いだったんです」


「……許せん」


「はい?」


「どうして校則を平気で破っているお前が、校則の番人である芹澤に勉強を教えてもらえたんだっ!」


「そりゃまあ、校則と勉強はまた違う話ですから」


「俺は納得いかない。納得できてたまるかっ!」


「だったら最初から、君が僕に勉強を教えてくれれば良かったじゃないですか。あんなにテストの答案用紙見せて欲しいっていったのに……」


「判った。この際そんなもんいくらでも見せてやるっ」


 智和は机の上に置いていた自分の鞄を手に取ると、そこからプリント類の入っているファイルを出して、そのなかに挟んであったテストの答案用紙を二宮に押し付けた。


「さあ、見たいだけ存分に見ろ!」


「別に今更良いんだけど……まあいいや、見せてもらいます」


 二宮は智和から一枚の紙を受け取ると、それをしげしげと眺めながら席に座った。


「うわあ、百点満点中九十七点! 朝言ってた話は本当だったんだ」


「……だろう」


 滅多に褒められることのない智和は、少し得意げになりながら言葉を漏らした。


「ただ、芹澤さんは百点満点でしたけどね」


 それを聞いて智和の気分は一気に沈み、今は亡き芹澤への嫉妬心が湧いた。


「いや、だけど大したものですよ。僕なんか、一生かかってもこんな点数取れない」


 二宮がへらへら笑いながら答案用紙を眺めているのを見ながら、智和は演技を続けた。


「……しかし二宮、俺は無念でたまらないよ」


「ええっと、無念って何ですか」


「決まっているだろう。芹澤が死んでしまったことだ。告白の返事を聞くことなく死んでしまうなんて……いい返事にしろ、駄目な返事にしろ、直接あいつの口から聞きたかった。無念だ」


 くそっ、と悪態をつきながら智和は壁を拳でどんと叩いた。こんな大嘘がつけるのも、芹澤が死んでくれたおかげだ。彼女亡きいま、誰も智和が嘘をついていると証明できる人間はいない。まさしく、死人に口無しといえるだろう。


 だが渾身の演技を繰り広げていた智和に対して、二宮は淡白な返事をした。


「ああ、それならたぶん心配ないですよ」


「心配ない? それってどういう……」


 そこまで言ったとき、智和に再び嫌な予感が走った。


 まさか、もしかして……智和は二宮がこれから告げるであろう事実に耳を塞ぎたくなった。


「それがですね。芹澤さん、奇跡的に一命を取り留めまして。今は病院で手術を受けているみたいです」



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