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気まぐれな七夕と幼女  作者: たもたも
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大学生の特権

「うわ、ひっろーい!」


 天斗が扉を開くと同時に笹葉の声が一限の教室である大広間に響いた。先客がいなかったため天斗からのお咎めはない。

 

 その教室は、長机が段差上にいくつも並んだ、大学定番の造りになっている。天斗は迷う事なく最前列中央に座った。この教室で講義を受ける際の天斗の定位置だ。チラリと壁の時計を確認すると、授業開始にはまだ十分ほどの時間があった。


「くれぐれも授業中に駄々をこねるなよ」

「分かりました。シー、ですね」


 笹葉は人差し指を唇の前に持っていき、「静かに」のポーズをとる。


 「そうだ、シー、だ。他の人の迷惑になるからな」


 九時手前、一限目の物理講師がやってきた。白衣を着た老齢の男性講師で、少々知識に偏りがあるものの、分かりやすい講義で学生から一定の人気がある。天斗はいつも通り授業を聞き、黙々とノートを取った。笹葉は天斗の筆箱の中身をいじっている。


 結局、授業時間である九十分の間、笹葉は一度も天斗に迷惑をかけることはなかった。大学ノートに謎の似顔絵らしきものを描いて一人で静かにはしゃいでいた。唯一話しかけてきたのは、かなり後ろのほうに座っていた不真面目集団が喋っていたことに対して「何であの人たちは喋ってるんですか?」ということだけだった。


 二人は教室を後にして、一階ロビーのソファに座った。


「二限目はどこの教室なんですか?」

「次の授業は三限目だな。二限目は休み時間」

「さぼるんですか!?」

「違う違う。大学生は好きなように自分で時間割が作れるんだ」


 天斗はスマホに保存してある時間割表を笹葉に見せた。それを開く際、沙織からの怒涛のメールがチラリと見えたが、面倒くさそうなので見なかったことにしておこう。


「そーいや、笹葉はアレルギーとか持ってるのか?」

「あれるぎーは無いと思います」

「そうか」


 その時、天斗は肩を掴まれて、朝聞いた声が背後から聞こえてきた。


「見つけたわ!」

「おー、神楽か」


 声の主である沙織はハアハアと息を整える。動きやすそうなスニーカーに抹茶色の膝丈フレアスカート、無地の黒Tシャツ姿で、隣には大きなカバンが置かれていた。


「『おー、神楽か』じゃないわよ! どれだけ私がメールを送ったか分かってるの!?」

「五六回だな」

「分かってるなら返信しなさいよ!」


 沙織は天斗の両肩を掴んで大きく前後に揺らした。天斗は抵抗することすら面倒くさそうにされるがままだ。


「とりあえず、なんか用があるなら場所を変えようぜ。人の目が痛い」

「んっ……そうね」


 沙織は周囲の奇異の視線を感じ、一旦怒りを鎮めた。外が暑かったのか、天斗への怒りのせいなのか、汗が伝う沙織の顔は朱に染まっていた。


「着いてきなさい。異論は認めないわ」


 重たそうなカバンを持ってスタスタと出口に歩く沙織。天斗は全くもってついていく気が起きなかったが、無視する方が後々めんどくさくなりそうだったので、渋々沙織の後ろをついて行った。

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