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8話:距離とそばかす。

 「だからね? メールで待ち合わせたらいいんだよ? テオも5こっちまで来るのも大変でしょ?」


 エマとテオフィルスは並んで歩きながら、いつものカフェへ向かう。テオフィルスに勉強を教えてもらうようになって、カフェだけでなく図書室や自習室も使うようになっていた。

 貧乏学生のエマの止むに止まれぬ事情からだった。


 塵も積もれば山となる……。


 カフェ代も安いといえど回数を重ねるとそこそこの値段になり、わずかなお小遣いからやりくりしていたが厳しくなってきたのだ。


 しかし図書室や自習室を使うということ、それは周りの目に晒されるということだった。

 テオフィルスと二人でいることで他人の好奇心を全身で感じる。

 十人並みで人の視線を受けることが無かったエマは負担に感じ始めていた。イビスが幼少の頃から絶え間なく感じているであろう不愉快さを初めて知った。


 イビス兄さまは偉大。さすがだわ、まねできない。


 今日はなんとなく人の目にさらされたくなかった。


 「俺が行きたくて行ってるんだから、気にしないでいいよ」


 テオフィルスはいい笑顔だ。トゲのない優しい笑顔。モーベンにいる頃から変わらない。


 「同郷って和むんだよ。モーベンの訛り聞くと落ち着くし、ね? エマと話するの楽しいんだ。……それにさ、最近1人でいるとなんかよく人に捕まるんだよね。めっちゃ面倒くさくて」

 

 「えぇ? 面倒?? いっつもすごい楽しそうにしてるじゃん。今日の昼休み、5年の女子に囲まれてなかった? 笑顔で嬉しそうにしてたよね?」


 「あれ見てたの? 俺楽しそうに見えちゃってる? そうかぁ……」


 カフェに着くと、テオフィルスは自然なしぐさでドアを開けてエマをエスコートする。辺境出身の落ちぶれた貧乏男爵家の出とはいえさすがは貴族である。


 「あのねエマ。社交でやってるだけだからね。正直どうでもいい女子とは話すのさえ疲れる」


 「……テオ、そういうこと他で言っちゃだめだよ?」


 「りょーかい」


 気のない返事である。

 カウンターで飲み物を受け取りいつもの窓際の隅の席につくと、エマは明日提出の物理の課題を広げた。こっちも変わらず意味不明だ。

 向かい側に座ったテオフィルスはタブレットを出してなにやら書類の処理をしている。資料を見ながら、キーを打ち込む。


 きれいな指だなぁ。


 幼い頃から農場を手伝ってきた手だ。上級貴族のような傷一つない指ではないけれど、一生懸命に働いてきた美しい指。

 視線に気づいたのか、テオフィルスは顔を上げた。


 「分からない? どこ?」


 「あ……ここ」


 テオフィルスは身を乗り出した。


 相変わらず近い……!


 お互いの額が付きそうな程、近い。

 エマは困惑する。分からないところがある度に毎回こんなに身を乗り出さなくてもよくない?と思うのだが。

 そのお陰でテオフィルスの頬に薄くそばかすがあるのに気づけたのは、まぁ良かった。


 学園で気づいている人なんて私だけなんじゃない?


 エマは自然顔がにやける。


 「ここは力のモーメントの問題だね。公式を当てはめることだけ考えてちゃだめだよ。現実ではどうなるかって想像してどちらに動くか……」


 「そばかす」


 「んん???」


 「テオ、そばかすあるんだね! 最近初めて気づいたんだよ。ほら目の下この辺」


 正面から見据え、頬骨あたりのそばかすに軽く触れてみる。テオはみるみる赤くなった。


 え?やばい! テオかわいい!


 「めっちゃかわいい」


 思わず口走った。

 中身29歳女子のいたずら心は10代の羞恥心を超えた。


 毛穴もほとんどない張りのある10代の肌! なんてつるつる!!


 触ってしまえとばかりに反対側の頬にも手を伸ばす。

 が、そうはうまく行かなかった。テオにがっちり手首をつかまれ、触れる前にガードされてしまう。そのまま力技でテーブルの上におろされた。


 テオフィルスの眉間に皺がよっている。


 「ねぇエマ。やる気無いんなら止めよう。俺もやることあるんだけど?」


 「あ、ごめんなさい。ふざけすぎました。課題むりですだめです、たすけてください」


 視線が痛い。


 「……今回は許すけど次はないよ?」


 テオフィルスは大きく嘆息した。



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