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エピローグ:続く日々を君と。

 二日前から降り続いた雨は朝になるとピタリと止み、初夏のさわやかな青空が広がっていた。

 雨に打たれ緑を深くしていく木々が美しく映える。


 いつもは閑散とした寂しいばかりのモーベン男爵邸に、珍しく人があふれていた。

 

 デイアラでは子が10歳になると盛大に祝うのが慣例である。今日は末娘エマの10歳の誕生日パーティだ。


 丁寧に整えられた芝生に囲まれたマナーハウスの前庭に幾張かのテントが張り巡らされ、色鮮やかな風船が飾られたそこは、まるで移動遊園地が現れたかのように賑やかである。

 大道芸人が見事なジャグリングを披露し子供達の歓声があがった。

 

 招待客へ愛想を振りまきながら、デイアラ随一の名門学校グレンロセス王立学園の制服を着た少年が二人歩いていた。

 男爵家の次男イビスとソーン男爵家嗣子のテオフィルスである。


 「ちょっと頑張りすぎだよね?」


 イビスは出来立てのオードブルの小皿を受け取ると、一口サイズのタルトを口に放り込んだ。ほうれん草と海老の取り合わせがなかなか美味しい。


 「僕のときはこれほどでは無かったのに。親父はエマに甘すぎるよなぁ」


 10歳の誕生日を親は多少無理をしても祝ってやるのだが、モーベン男爵家の経済状況を省みても今日の祝いはかなり力が入っていた。イビスの祝いはもっと質素であったのだ。


 「そうかなぁ? 俺なんて10歳の誕生日祝いなんて出来なかった。イビスは祝ってもらえ……」


 テオフィルスは言葉を止めた。


 「テオ!」


 淡い茶色の髪の少女が走り寄った。空色の瞳と同じ色のシフォンのドレスの裾がひらひらと揺れる。

 テオフィルスは眩しそうに目を細めた。


 「エマ、お誕生日おめでとう」


 「ありがとう! イビス兄さまもおかえりなさい!」


 数ヶ月ぶりに会う幼馴染の姿に嬉しそうに笑う妹を見て、イビスは呆れたようにエマの頬をひっぱった。


 「おい、エマ。なんで真っ先にテオのほうに行くんだ? 家族であるぼくの方にくるんじゃないの?」


 「ちょおお痛いから放して、イビス兄さま! だって私、テオがいいんだもの。イビス兄さまはなんか意地悪だし、不埒で不誠実?そうで、嫌」


 頬をさすりながら、エマは昨日小説で仕入れたばかりの覚えたての単語をイビスに使う。


 「テオはね。いつもすごい優しいし親切だもん。だから大人になったら私の騎士ナイトになって守ってくれると思うの。ね? テオ?」


 この国の女の子が必ず通るという少女向け小説に出てくるあり得ないイケメン騎士に憧れる年頃なのだろう。

 エマは今、騎士道が主題の小説に夢中だった。カッコイイ騎士とお姫様の織り成す恋愛物語は初等学校の女子児童に大人気だ。例外にもれず全巻そろえる嵌りっぷりである。 

 気持ちを汲み取ったテオフィルスは慇懃にエマの前に跪き、


 「うん、いいよ。エマが望むなら騎士になる。どんなことからも守るよ。ずっと側にいる」


 「ちょっと、何やってんの? テオ?」


 面食らったイビスはオードブルの入った小皿を取り落とした。冗談とはいえ、信じやすい妹のことだ。後で面倒くさくなりそうでイビス的には逃れられる面倒は避けたい。


 「エマとモーベン男爵にはいくら返しても返しきれない恩があるんだ。本気でそうしてもいいと思ってるよ」


 「……事情はわかるけどさ。もっと広い世界を知ってもいいんじゃないの?」


 テオフィルスは不満そうなイビスに曖昧に微笑み返すと、


 「それよりもエマ? お腹すいてるんだけど、何か美味しいものないかな?」


 機嫌のよくなったエマはテントを指差した。


 「今日はお父様が取り寄せてくれたファイフのスイーツもあるんだよ。この間テレビでみたのを、お願いして取り寄せてもらったの。なくなる前にいこ?」


 エマはテオフィルスとイビスの手を強引にとると、テントへ走った。




 「エマ。起きて? そろそろ降りる支度しないと。モーベンに着くよ」


 「んん……」


 テオフィルスの聞きなじんだ声が耳元でする。

 高速列車のわずかな振動。

 エマはここが車内だと思い出した。


 グレンロセス王立学園は昨日で1学期が終了し冬季の休暇に入った。それに併せ寮も閉鎖される。

 アイビン兄弟とテオフィルスはモーベンへ帰省することにし、今はその途上であった。

 モーベンは学園のある首都から列車で6時間という遠隔地である。暖房の効いた快適な車内と心地よい揺れでいつの間にか眠り込んでしまったようだ。


 「あれ?? 私どのくらい寝てた?」


 「1時間くらいかな? よく寝てたよ」


 気持ちよさそうだったから起こさなかった、と言いながらテオフィルスはエマの寝癖の着いた髪を撫でた。エマは目が覚めきれない様子でテオフィルスの肩にもたれかかる。


 「夢みてた。10歳の誕生日のこと。テオもわざわざ首都グレンロセスから来てくれてたよね?」


 「うん。モーベン男爵、張り切ってたよね。めちゃくちゃ華やかだった」


 10歳の誕生日の夜、エマは突然前世を思い出した。

 29歳で逝った前世ゆうなの記憶を取り戻し錯乱したエマは、家中を混沌に叩き落した。


 あの時はしんどかったなぁ。10歳の子に他人の記憶を背負わすって酷いよね。


 と今でも思う。

 当初はひどく戸惑った。だが少しずつ馴染んでくると、その記憶のおかげでやってこれた面もあり、無くてはならない存在パートナーとなっている。


 前世がなかったら、きっと今のこの幸せはここになかったもの。


 「あの時、守ってくれるって言ったの覚えてる? 小さな子の戯言にあわせてくれたんだと思うけど、あれ嬉しかった」


 エマはテオフィルスの頬にそっと触れた。


 「ありがとう、テオ。隣にテオがいてくれて嬉しい」


 「……こちらこそ」


 テオフィルスは窓の外を眺めた。

 雪景色が勢いよく流れていく。


 モーベンまでもうすぐだ。


読んでくださいましてありがとうございます!


一応エピローグまでたどり着きました!!

わ~~約10万字です!

9月12日からですから凡そ2ヶ月。

こんなに大量の文章を2ヶ月にわたり書いたことも無く、私自身びっくりしています。


文字を書くことばかりに一生懸命で、ちょっと直したいとこも多くあり、少しずつ訂正していきたいと思ってます。


エピローグを書いておきながらですが、あと数話、閑話を書き足していこうかなと考えています。


よければまた読みにきてくださいね。よろしくお願いします!

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