表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

38話:愛のある人生は異世界で。

 「モーベンにいた頃のテオも今のテオも、未来のテオも。どんなテオも絶対に好き。……どんな人よりもテオだけが好き」


 心臓が壊れるかと思うほど緊張が襲う。エマは自分の声が震えているのが分かった。


 あぁ何言ってるのかわかんなくなってきた……。


 支離滅裂だ。

 混乱に混乱を重ねるときっとこんな感じなんだろう、と心の片隅で突っ込む。


 だけど想いは伝えた。うん、これでいい。これでいいよね?前世のユウナ


 気持ちを伝えられず終わる人生は繰り返さない。想っていても言葉に出さないと伝わらないこともある。十歳で覚醒した時から、エマは前世の優奈と共生しながらそう決めたのだ。

 大好きな人を失うことの無いように。


 テオフィルスはエマの決意を込めた告白に対して、わずかに頷いただけだった。

 答えが欲しいわけではなかったが……ここ数週間のテオフィルスの態度と言葉から鈍いエマでも理解できるほどの愛情は感じていた……何かしらのリアクションは欲しい。


 すごく頑張ったんだけどな。何か言ってくれてもよくない???


 「テオ?」


 エマは肩に伏せていたままの顔を動かした。

 テオフィルスはエマの背中にそっと添えていた腕の一方をエマの後頭部に回し、


 「もう少し……」


 かすれた声でささやく。


 「もう少しこのまま」


 それだけ言うと他は何も言わず少し苦しいくらいの強い力で抱きしめた。


 ちらほらと家路に急ぐ生徒や来賓たちが通り過ぎていった。

 後夜祭は終わり、夜は更けていく。


 二人の周りだけは時が止まったかのようだった。


 エマは体を包み込む居心地のいいテオフィルスの香りに身を浸した。

 この人は前世の男達のように裏切ったりはしないだろう。変わらぬまま想ってくれると何の証明もできないがなぜかそう確信した。きっとお互いが望む限り一生変わらないだろう、と。


 充分だ。

 答えは充分もらった。

 これ以上はもういらない。


 「テオ? 晩餐会終わったみたいだよ。そろそろ寮に帰ろ?」


 「……そうだね」


 ほんとはこのままどこかへ行きたいけどね、とテオフィルスは名残惜しそうにエマを開放した。


 一瞬。

 風が吹き、流れてきた雲が満月を過ぎたばかりの眩い月を遮った。光が遮られ、わずかな街灯だけの薄暗さが辺りを蓋う。


 テオフィルスがそっとエマに顔を寄せた。エマの視界のすべてをテオフィルスが占める。

 そしてゆっくりと唇を重ねた。

 やさしくて穏やかな、そんな触れ合いだった。


 再び月が雲間から現れると二人は、互いに顔を見合わせ恥ずかしさをごまかすように微笑んだ。


 「行こう。エマ」


 テオフィルスは左手を差し出した。エマは手をとると、テオフィルスの手ごとコートのポケットに強引につっこむ。


 「寒いしね?」といつかの台詞を口にして、エマは寮に向けて歩き出した。


 寮まではゆっくり歩いて15分。

 もうこの凍えるような寒さも、チラチラ寄せられる下卑た視線も、石畳を歩くには不向きなヒールも、すべて気にならない。

 隣に居てくれる大切な人と一緒なのだから。



 エマは思う。

 

 前世ゆうなの人生は不幸であったのか?


 いや決してそうではなかっただろうと。むしろ幸せだったのではないか。

 因習としての身分制度の残るデイアラでは、文明が発達した現代においても捉えられ動けない人が少なくない。

 束縛の連鎖から抜け出すには、教育と時流を読みきることが出来る“強運”しかないが、両方を備えることができるのはほんの一握りだ。大部分が変わらぬ人生にただ嘆くだけだった。

 エマもテオフィルスもモーベンにいたならば、それと同じ人生だっただろう。幸運にもこの学園に在籍することができ、将来を切り開く力を得ることが出来たのだ。


 前世では確たる力が無くとも、人生の岐路では誰に強制されたわけでもなく自分の手で選ぶことができた。高等教育を受ける術はいくらでもあり、多くの選択肢から選び取る自由があった。


 実際、優奈も自分で決めていた。

 

 大学への進学も就職も……悔やんでも悔やみきれない恋愛も。


 優奈の最期は望むものではなかったが、それまでの人生を決定したのは自分自身だった。

 現世のデイアラでは考えられないことだ。それがどれだけ幸せなことだったか。


 だからこそ後悔しない人生を送りたかったのかもしれない。


 暴走する車に撥ね飛ばされ死に行く瞬間に、自分を大事に思ってくれる人に思われたいと望んだ。愛してくれる人に愛されたい。誰よりも大切にしてほしい。


 ささやかな、けれど人としての源流の願い。


 前世の叶わなかった願望をこの世界エルディシアに生まれ変わってエマに繋げた。他者に不運を嘆き転嫁することなく、自らの次世に託して。


 そして現世いまかなえられようとしていた。

 愛のある人生はここにあるのだ。


読んでいただきありがとうございます!


甘い文章って難しいですね。

うなりながら考えましたがどうでしょうか???

ちょっと訂正いれるかもしれません(汗


何とか終わりも見えてきました。

もう少しだけ続けようと思っています。

よろしければお付き合いくださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ