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36話:浅慮と宣言!

 12月の夜更けに、一国の直系の王子が頭を抱えベンチに沈んでいる、


 私が全部悪いんだけどね! 私の責任だけど!!


 エマは自分の軽薄さにほとほと嫌気がさした。

 前世にはない(男性関係は軽率といわれても否定できない面もあったけれど)この“考えなし”はエマのオリジナルの性格だろう。

 この世界に生まれ変わった時に記憶や人格が“上書き”されるのではなく、“別名で保存”であるだなんて思いもよらなかった。


 「……お前、結構きついこと言うよな?」


 ウィンダムがゆるゆると顔を上げた。


 「王族に……というか親しい間柄でも言わないだろ?」


 「いや、ほんとそれは……」


 出来ることなら土下座謝罪……デイアラには土下座の文化はないので理解されないだろうが、足元にひれ伏したいくらいだ。


 「イビスの妹なのに頭悪すぎやしないか。それで貴族としてやっていけると思ってるのか?」


 ウィンダムの親友であり近侍を兼ねるイビス兄は、その美貌に慢心することなく人の心の機微を敏感に感じ取りとりなす事が殊の外巧い。貴族としても労働者としても理想を実現したかのようだと評価は高いのだ。

 対してエマの思慮深さからはるかに遠い短絡的な性格は、貴族の子女には致命的であった。腹芸ができないまま逢魔殿の如くの社交界をわたることは出来ない。


 その辺は想定済み! 貴族として社交界で生きようとは思ってないし、労働者としても前世の経験でカバーできそうだし。


 どこまでも楽天的なエマだ。


 「うーん、私、社交界デビューの予定はないんですよ。貧乏男爵家の末子なので。貴族であることにこだわりはありません。学園を卒業したらどこかの大学に進学して、モーベンに貢献できるような仕事に就くつもりです」


 跡取りではない貴族の子女は上位爵位家を除いて自活してゆかねばならないのが常である。

 モーベン男爵家はこの現代において稀な子沢山の家庭だ。

 末子のエマからみて一回り年の離れた跡継ぎの長兄は、すでに家庭をもち子供もいる。二人の姉も職を得、モーベンを離れそれぞれの地で生計を立てていた。

 次兄であるイビスはその容姿と社交性でどこの業界でもやっていけることだろう。


 「お前はそんな性格で仕事ができるのか?」


 軽はずみで浅学なままでは使いものにならんだろうに、と赤い髪の不敵な第二王子は悪びれもなくずばりと言い切った。


 斬られたよ!! 痛いところをつかれたよ!!


 デイアラには前世のような一斉就活はないが、こまめにインターンに参加し実力をアピールできないと自分の望む職にはつくことがない。前世以上に能力を証明する必要がある。

 懸念があるとすればそこだった。


 未だ時間ある。何とか成るんじゃないかなっ。


 「じゃあ殿下は将来どうするつもりですか? 今年卒業ですよね? 殿下も嗣子ではないでしょ」


 「俺は……」


 どうするつもりだ。一体。これからどう生きるのが正解なのか。

 

 ウィンダムは心の中で呟いた。

 自分が王位を継ぐ可能性は無い。爵位はあるが領地はない。王室から割り当てられる公務と多くある非営利団体の名誉会長に就きボランティアやチャリティに生きるのか?


 否。


 かつて王宮の中庭で受けたあの絶望。

各方面から賞賛される天才ソーンに対する羨望。そしてあの忸怩たる思いを宮廷にいてはずっと抱えて生きていかなければならない。


 ……自分で折り合いをつける、か。


 自分のことは自分で始末をつけないとならない。この無礼な、けれども本音をぶつけてくる娘に指摘されたとおりだ。

 だからといってあの渇望はすぐに消え去ることはないだろう。心の、意識の奥底にまで降り積もった澱を掬い取るには時間がかかる。どれくらいの時間が必要か、見当もつかない。


 とりあえず……。


 ウィンダムは気まぐれで人好きのする笑みを口元に浮かべた。


 「エマ、今からでもどこか行かないか?」


 「……人の話聞いてました? 殿下、アホの子なのですか」


 「信じられないほど口が悪いな、おい。知った上で言ったんだ。……エマが気に入ったんだよ。もう少し話したいだけだ。どうだ?」


 「どうだ? じゃないです。まったくほんとに、さっきも言いましたよね? 私は気持ちのあてこすりで使われるのは嫌なんです」


 それに一緒に出かけるのならば、自分の相手は派手な赤毛の王子ではない。

 穏やかな幼馴染、テオフィルスだ。テオフィルスがいい。

 エマは力を込め、


 「第一、私にはテオがいるんです。テオ以外と二人で遊びに行くとか考えられません。殿下なんて眼中にないです」



 「ぶっ」


 エマの背後から誰かが噴出す声がした。

 振り返ると建物の陰に佇む人影があった。黒髪と同じ色の外套姿は夜闇にまぎれて目立たないが、人影は長い時間そこにいたようである。

 さほど離れていないにも関わらずエマは全く気づかなかった。

 ゆっくりと街灯の元に現れた姿に、エマは声を上げた。


 「テオ!」


 「エマ、やばいくらい男前だね。最高」


 テオフィルスは柔らかな口調で言う。


 「なかなか戻ってこないから、倒れてるのかと思って迎えに来たんだ」


 テオフィルスはエマを呼び寄せると、顎や胸元に異常が無いのを確認した。エマの頬やうっすらとアザの浮かぶ手首にそっと触れ小さく息を洩らす。


 「体冷えてるよ。着てて」


 自らの着ていたコートを脱ぐと、心配そうな顔をしながらエマの肩にかけた。

 温暖な首都グレンロセスとはいえ12月だ。

 薄手のドレスとケープしか纏っていないエマの体は、当人が気づかないうちに寒さに凍え始めていたようだ。


 「……ね、どのあたりから聞いてた?」


 「ウィンダム殿下が激怒してたあたり?」


 最初からじゃん!!!


 ということは、殿下をなじったこともテオだけ宣言も聞かれてしまったということか。


 やもう既成事実ではあるけど、ね??? これはこれで、めっちゃ恥ずかしいじゃん……。


読んでいただきありがとうございます!

ブクマやPVに支えられてます!ほんとうに嬉しいです。


昨日は久しぶりに風邪を引いてしまいました。

皆様もご自愛くださいね。


次回は明日更新できたらいいなぁと思ってます。

よろしければ、ぜひまたいらしてくださいね。




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