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35話:エマ、我を忘れる?

 「エマ・アイビン!」


 ウィンダムは髪が逆立たんばかりに激昂した。

 閨での睦言で甘えるように言われたことはあった。学園内で心許す親友が冗談交じりに言ってくることもあった。

 だが、明らかに軽蔑し屈辱的な態度をとられたことはない。


 自分はこの国の王の子だ。


 敬われはしても蔑まれる所以は無いのだ。

 この貴族階級において爵位は絶対。王子であり公爵位をもつ自分に抗うことなど許されない。


 「誰に向って、何を言ってるのか分かっているんだろうな!!」


 エマは猛るウィンダムを冷静に受け止めた。

 前世でも人前で怒り狂う男性はいた。経験がある分、さほど恐怖も感じない。


 前世に感謝!15歳の何も知らない女の子のままだったら泣き出しちゃってたかも。


 こうなってしまったら取り繕った態度などもう必要ない。

 他人に敬意をもたないこの人に敬語なんてつかうなんて、そんな努力すら面倒くさかった。


「分かってますよ。デイアラ王国第二王子ウィンダム殿下、あぁリーランド公爵閣下の方がよかったですか? あなたが気持ち悪くてバカだっていってるんです」


 「黙れ。王族に対してその言い草は許されんぞ!!」


 「女性に対して無体なことをしておきながら、えらそうに。王族だからって許されることじゃないですよね? 先に言うことあるんじゃないですか?」


 ウィンダムがエマの胸倉をつかんだ。


 「おい、いい加減にしろよ」

 

 「……それ人としてどうなんですか? 力に訴えるなんて最低」


 エマは表情を一切変えず、


 「とりあえず手はなしてもらえますか?」


 ドレスが痛むので、と驚くほど静かな声で言った。

 沈黙が二人をおおった。

 

 晩餐会のざわめきが聞こえてくる。

 閉会が近いのだろうか。体育館周辺の人の動きが活発になってきていた。

 小さな中庭を幾人かのお仕着せの給仕が通り過ぎた。

 盛装した男女が薄暗い中庭で言い争う姿は、ただの痴話喧嘩だ。だが胸倉を掴みあげ女性を威嚇している特徴的な赤い髪の青年、これが誰かはこの国の国民であれば説明されなくとも分かる。

 きまりの悪そうな顔をし給仕たちは皆、足早に去っていった。

 

 口さがのない使用人たちに第二王子の痴態が広まるのも時間の問題だろう。

 舌打ちをしながら、ウィンダムはドレスから手を放した。


 「……すまん」


 いくら憤怒していても嘲けられても女性に手を出すのは、紳士であることが求められるこの世間においてただの悪手だ。

 ウィンダムは深く息をはきながらベンチに腰を下ろした。


 「いえ、私も言い過ぎました」


 エマも頭を下げると、月明かりをたよりに自分の姿を確認した。

 綺麗に編みこまれた髪もあちこちが乱れ、カレンから借りたドレスにも汚れがついている。


 あぁこのドレス借り物なのに。胸元は皺になっちゃってるし、染みもついてるし……。本当に運の無い日。


 若干の後悔もわいてきた。

 元々“考えなし”な性格ではあるが、王族に対するここまでの大失態、モーベン男爵家にも影響があるのは確実であった。近侍のイビス兄に助力してもらっても完全なリカバリーなどできやしないだろう。

 

 でももう言わなきゃ気がすまない。


 「そもそもがですよ。殿下」


 開き直ったエマはウィンダムのヘーゼルの瞳を見つめた。


 「私のこと知りもしないで、しかも全然どうにも思ってないのに誘ってきましたよね? 面識のない人からそういうことされても、ただ気持ち悪いだけなんですよ? というか、殿下の立場で女の子を適当に誘うのとかナシですよ」


 前世ではパワーハラスメントとか言ってたっけ、前世ゆうなも困ってたなぁ、と思い出しながら滔々と続けた。驚くほど滑らかに言葉がでる。


 「力関係的に断れるわけ無いじゃないですか。マジでクズです」


 その言い様にウィンダムは呆気にとられ声も出なかった。


 クズ?? 


 貴族でなくとも富裕層の多いグレンロセスの生徒でこんな口調の生徒なぞいない。いや、労働者階級なら当てはまる生徒もいるだろうが、ウィンダムの周囲にはいなかった。

 畏まりなど皆無。微塵も無い。


 俺、ボロクソに言われてないか……。


 眼前の王族なぞ気にする様もなくエマは語り続ける。

 

 「他の女の人が相手をしたのは、殿下の背景に圧された人も多いはずですよ。あ、殿下がイケメンだってこともありますけど」


 「イケメン??」


 知らない単語が出てきた。


 「イケメンってなんだ??」


 根っからのお坊ちゃまか、と呆れながら、容姿や所作の良い男子のことだとエマは説明した。


 そもそも何にも興味のない私にちょっかいかけてきたのは、テオに対するあてつけだよね。


 ウィンダムは王子でありながら、捻くれた思いを抱えているのだろう。劣等感が何から生まれたのかはエマにはわからなかったが、テオフィルスに対して屈折した思いがあるのは確かだ。

 だからといって、エマをサウンドバックにしていいはずはない。サンドバッグ


 「自分の劣等感コンプレックスを他人に当り散らしちゃだめですよ。自分の劣等感コンプレックスは自分でしか解消できないんです。結局は自分で乗り越えるしかないんです。人を巻き込まないでください」


 「……」

 

 ウィンダムは深くうなだれ表情は見えなかった。


 やばい……。言い過ぎた気がする。あ、うん。あくまで前向きに……うん、前向きに……。


 発言した後にあまりの自身の無礼さに背筋が凍ったが、今は考えるのをよそうとエマは自らを納得させたのだった。


読んでいただきありがとうございます!

ブクマもたくさん!!本当に嬉しいです。


書いていると長くなったり、足らなかったりと未熟だなぁと身に染みます。

日々精進ですね!


次回の更新は明日のこの時間が目標です。

ストックなしでやってるので、がんばりますw

よろしければまた来て下さいね!


追伸→風邪をひいてしまいました。本日の更新はお休みします。

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