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34話:その瞳の先にあるのは……。

 「手を離して!」


 エマは強い口調で言った。


 あぁもう何なのこの人!


 嫌がる異性に何かをするのは前世でも現世でもハラスメントだ。


 「私は行きません。ほんとやめ……」


 ウィンダムはエマの手首をより固く握った。手首に痛みが走る。


 「お前、逆らうの?」


 「逆らうとかそういうのではないです。意思も確認せず無理やり強引にってのはどうなの? ってことですよ!」


 エマはウィンダムの手を振り払った。


 また触られた。気持ち悪い……。


 テオフィルスを想う自分の気持ちが定まった以上、他の異性に触れられたくはない。ましてや“自分をみていない”男など、避けて通るべき存在である。

 エマは手首をさすった。その辺の女性より力もあり鍛えてはいるものの、やはり男性の力は強い。

 月明かりとわずかな街灯のみの明るさからは分からないが、アザができているかもしれない。


 ホント最悪。


 ただただ涼みに出ただけなのに、なぜこんなことに巻き込まれなきゃならないのだろう?


 「確認の必要などあるのか? デイアラの王子がたかだか男爵家の娘を誘っているというんだ。断る選択肢などないだろうが」


 ウィンダムは苛立ちを隠さず、より荒々しく傲慢に言い放った。

 ウィンダムはデイアラ王国の現王の息子という立場を盾に自由に生きてきた。本人の認識はどうであろうが、賢君で名高い“グレアム4世”の次男の希望が、階級社会において優先され多々の配慮がなされるのは当然のことだ。


 恋愛も然り。

 望みとは叶うものなのである。


 ただ。


 理不尽な我がまますら差し許される事はおかしな事だった。

 エマは王族というものは皆そうなのだろうと思っていたが、晩餐会の席で王太子を目にし確信した。

 

 ウィンダムの尋常ならざる魅力カリスマ


 これは王族が備えているのではなく、ウィンダム個人の天性のものだ。そこに存在するだけで許されるほど惹き付ける。

 テオフィルスが言う“姉妹”たち……関係を持った数々の女性も、王子という立場だけでなくウィンダムの持つ魅力に打たれた面もあるのかもしれない。


 それにすら気づかないなんて……。


 「もうマジでバカなの……」


 思わず口をついて出た。

 目の前のこの国で一番血統の良い人間は、自らの立場が“普通”ではないことに気づいていないのか。


 どうしてこんなやつの相手しなくちゃなんないのよ。


 王家と男爵家。貴族階級的縛りがあるのは分かっていた。だが体の奥底から生まれ出る嫌悪感はどうしようもない。

 前世ゆうなが全力を挙げて否定してくる。


 「モーベン家は男爵家です。階級的にお断りすることは出来ないというのはわかっております。ですが、私は殿下のご希望に添うことは出来ません。お許しください」


 エマは膝を曲げ、軽く頭を下げる。

 ウィンダムは表情の無い顔でエマを見下した。

 淡い茶色の髪を丁寧に編み込み作ったシニヨンの根元に、青い花と艶やかな“黒い”リボンが飾られている。

 立待の月の光に照らされ黒いリボンが鮮やかに浮かび上がった。


 黒……ソーンの色か。


 ウィンダムはじりじりとした妬心がわきあがってくるのを感じた。


 「俺を断るのか。エマ。俺の誘いを?」


 こう口説こうとして余地無く拒否されるのは、エマが初めてである。

 老若問わず、パートナーがいる女性でも誘えば乗って来るのが常であった。ウィンダムにとって女性を口説くことは、ランチのメニューを決めるよりも他愛も無いことだったのだ。

 そこまでしても揺るぐことのない想いを抱かせる相手とは……。


 あの男だ。


 他と比べようも無い傑出した学問の才を持ち、尚且つ姉グエンドリンを通じて王家や社交界上層部にまで名が通るテオフィルス・ソーン。


 自身ウィンダムが渇望して止まない全てを持つ男。


 体の奥底が軋む。

 ウィンダムはエマの顎をつかみ、無理やり上を向かせた。


 「それほどまでにソーンが大事か?エマ?」


 「痛いっ! 殿下お放しく……」


 「ソーンは」


 ウィンダムは額が付くくらいに顔を寄せ、


 「お前が傷つけばどう思うだろうな?」


 と言うとつかんでいたエマの顎を乱暴に離した。エマは思わず後ろへよろめき、そのまま芝生の上に倒れこんだ。

 エマに注がれるヘーゼルの瞳は月下で神々しさを感じるほど美しかった。


 ……なんてきれいなのあの瞳。


 エマは身を起こしながら、思う。


 ウィンダム殿下が見ているのはテオだ。


 あの自分に向けられた空虚な冷たい瞳が真に見つめていた先はテオフィルスだったのだ。

 エマはそんな瞳をしていた人を知っていた。


 前世ゆうなの好きだった人。明るくて大好きだった人。決して……愛してくれなかった人。自分のコンプレックスのはけ口に前世を使い去っていった人。


 現世でも誰かの八つ当たり要員にされるの? 冗談じゃない。


 エマは唇をかみ締めた。ふつふつと怒りがこみ上げてくる。立ち上がり、ドレスについた汚れを払った。


 「ほんと気持ち悪い人だと思っていたけど、それにくわえてバカな人だったなんて。がっかりです」


 強固な意志をこめて赤毛の王子をにらみつけた。


いつも読んでいただき&ブックマークもありがとうございます!

めちゃくちゃ嬉しいです。


今回は甘い場面が全くありませんでした。

わー、無ければ無いで甘やかしが欲しいw


次回更新は明後日の月曜日を考えています。

よろしければまた読みにきてくださいませ!


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