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32話:おなじ目線で。

 グレンロセス王立学園で一番広い体育館に、晩餐会用の完璧なテーブルセッティングが施されているテーブルが秩序よく並んでいた。

 平素であるなら生徒達がスポーツをする場に、お仕着せの燕尾服に白手袋の給仕達が忙しく立ち回る。

 華やかなドレス姿の女子生徒やタキシードの男子生徒が品よくざわめく様は、王宮といっても遜色ない。

 ここが一学園の体育館など誰が想像できるだろうか。


 グレンロセス王立学園文化祭、後夜祭“晩餐会”が始まろうとしていた。


 エマたちが会場に着くと、学園の生徒の九割が席に着き来賓の到着を待ち歓談をしている最中であった。

ちらちらと好奇の目で見られながら、案内役に連れられ割り振られた席に向う。


 この晩餐会には外遊中グランドツアーの国王夫妻の代わりに王太子夫婦と王女、上位爵位保持者、学界・政財界の大物が招待されている(そして招待客の殆どが卒業生である)。

 彼らとは文化祭実行委員と生徒会執行部のメンバーが同席し接待をかねた歓談、一般の生徒はそれぞれ決められた席で食事を行うのだ。


 わかる。わかるけども!


 エマは居心地悪そうに身を縮こませる。

 

 この席、私には分不相応だよ……。


 周りを見回しても公爵・侯爵家、労働者階級でも大富豪の子女といった雲の上の階級の生徒たちしかいない。

 エマたち四人は一般生徒用の席のなかで一番賓客に近いテーブルを割り当てられていた。一般席ではあるが隣は賓客と委員会幹部の座る席である。


 なんでこんな席に!!


 ヴァーノン家出身のカレンやティーグ侯爵家嗣子のキースは慣れたもので、隣や後ろの生徒との社交をそつなくこなしているが、この社交界せかいに疎いエマにはハードルが高すぎる。


 辺境男爵家ごときがこんなところにいちゃ……イビス兄さま??!!


 目と鼻の先に盛装し眩しすぎるイビスがキラキラした光を撒き散らしつつ談笑していた。


 いやいや、イビス兄さまは実行委員長だし。上座なのは納得だけど。私は場違いじゃ……。


 助けを求めるように、テオフィルスを見た。


 「ヴァーノン家とティーグ侯爵家の跡取りを末席においとくわけにも行かないんだよ。大人の事情だね。俺とエマはおまけだよ?」


 心中を推しはかったのか、テオフィルスは優しく笑う。

 これはウソだろう。

 おそらく王族や富裕層にまで名の通ったテオフィルスを一般生徒の扱いにすることを教師陣が許容できず、妥協としてこの席に座らすということで落ち着いたのが真相というところだろう。


 テオも遠い人なんだなぁ。私なんか相手もされない、もしかしたらこうしていれないくらい遠いとこにいるのかも……。


 「大丈夫だよ、エマ。俺は傍にいるから。離れないでね?エマがしんどくなったらフォローする」


 テーブルの下でテオフィルスはエマの手をそっと繋いだ。


 『皆様おまたせいたしました。来賓のご入場です。生徒のみなさまはご起立の上、お迎えください』

 アナウンスが響いた。


 凡そ学園すべての生徒が一斉に立ち上がった。

 オーケストラによる軽やかな音楽が流れ出す。


 『デイアラ王国王太子アルフレッド殿下、ブリジット妃殿下』

 赤い色の髪と薄茶色ヘーゼルの瞳の王太子夫婦が颯爽と入場した。

 歓声が沸く。

 ウィンダム王子の兄だ。王家独特の容姿ではあるが、ウィンダムの様な惹き付けて止まない魅力カリスマは感じなかった。温和なそれでいて聡明な印象のみである。けれども賢明で驕らない人格は国民から絶大の人気があった。


 『王女グエンドリン殿下、第二王子にして第二代リーランド公爵ウィンダム閣下』

 姉をエスコートしながらウィンダムが姿を現した。

 王家の特徴をもつこのペアは王太子夫妻以上に注目を浴びる。盛装したことにより、さらに退廃的な雰囲気をかもし出す第二王子は……真のところただの女好きであるだけなのだが……女子生徒の嬌声をさそった。

 ウィンダムは手を振りつつ、貴賓席近くのエマとテオフィルスで視線を止めた。


 テオフィルスは軽く会釈し、繋いでいる手に力を入れた。

 エマは思わず隣を向く。


 「テオ?」

 今日はドレスに合わせた高めのヒールを履いている。この国の男性としては背の高い方ではないテオフィルスとほぼ変わらない身長になっていた。

 二人の顔の位置はほぼ一緒だった。

 テオフィルスは、


 「……エマ顔近すぎ」


 と小さく言うと珍しくはにかんだ。


 「そう?私これくらいがいい。テオの瞳も顔もしっかり見えるし。ほら、照れた顔とか?」 


 エマはそっとテオフィルスの頬を触った。


 「そばかすも」


 テオフィルスは空いている手で顔を覆った。耳まで赤くなっている。


 「あぁほんとエマは……」


 煽るよね。こっちの気もしらずに。


 「ソーン先輩」


 隣の席のカレンが片方の眉をあげ、


 「ちょっと空気読んでくださらない? 頭脳は優秀でも、恋に腑抜けになるとは笑止千万ですわね」


 ヒートアップしておさわりだけはやめなさいね?と目が語っている。


 「エマもよ?」


 「あ…はい。ごめんなさい」


 エマは謝ると前を向いた。


読んでいただきありがとうございます!


この小説のタイトルを少し変えました。

「~恥の多い……」の部分をカットし、「アイのある人生は異世界で。」としました。

なんとなくしっくりこなくて(汗)


次回更新は明後日を予定しています。

よろしければ見にきてくださいませ。


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