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30話:テオフィルスは溺愛する。

 エステスペースから出ると、カレンは侍女と美容師の三人でヘアメイクの打ち合わせをしていた。

 数あるドレスの中からベルベットとレースが華やかな赤いドレスに決めたようだ。

 カレンの濃茶色ブルネットの髪によく映える色だ。


 「きれいなドレスだね! カレンに似合ってる」


 「でしょ? スタイリストと話し合って決めたの」


 「めっちゃかわいいよ~。美人さんって素敵!」


 ドレスとカレンを見比べるだけで、晩餐会で周囲を圧倒する様子が目に浮かんだ。


 「何言ってるの。エマだって……」


 と言いかけて、カレンは違和感に気づいた。


 「何かあったの?」


 エマは目を泳がせ、観念したかのように、


 「……エステの最中に寝ちゃったんだけど、変な夢みちゃって」


 「ふぅん。悪夢だったの?」


 「悪夢というか……現実というか……」


 あれは前世の記憶……などということはいえない。

 デイアラには“生まれ変わり”の概念がないのだ。死ねば体は朽ち魂は神の御許に召される。魂は一つの生しか歩まないのである。

 エマは覚醒時にそのことを知らなかった。

 であるので“エマの精霊憑依案件”というような大事件となってしまったのである。


 「まぁ夢ってただの脳の記憶消化作用だし、無理して話すものでもないわ」


 カレンは気にする様子もなく、スマホを取り出すと液晶画面を確認した。侍女に休憩の準備をするように依頼し、


 「申し訳ないんだけど、キースがそろそろ着くみたいだから迎えに行って来るね」


 ソーン先輩とゆっくりしてて、と言い残し駐車場へ向った。


 


 「エマ、初エステどうだった?」


 テオフィルスは侍女に導かれて、エマの隣に腰掛けた。


 「うん、すごかったよ。気持ちよすぎて寝ちゃった」


 エマとテオフィルスがソファに納まったのを確認し、侍女が二人分のコーヒーをそそぐ。良質のコーヒー豆の香りが部屋に満ちた。


 「どうぞ」

 

 エマはカップをとりゆっくり飲んだ。


 「わぁ美味しい。ありがとう」


 最上級の味だ。コーヒー豆なんてどれも同じと思っていたが、豆によってこんなに味がちがうことを初めて知った。

 侍女はエマの言葉に満足気に軽く礼をして退出した。


 テオフィルスは侍女の姿が部屋から消えるのを待ち、


 「いつもよりずっときれいになってる」


 困るな……とテオフィルスはエマの頬に触れ目を細めた。


 この人は恥ずかしげも無く……!人がいなくなると甘くなるんだから。


 でも、今日は……この優しさに泣きそうになった。前世の受けた仕打ちを知り、気持ちを感じた。テオフィルスには嘘はない。


 「エマ、大丈夫?」


 テオフィルスは何かを察したのだろう。エマの頭を寄せ、優しくなでた。


 「ねぇテオ」


 エマは目を伏せ、


 「私、昨日の朝、ウィンダム殿下にお会いしたの」


 テオフィルスは手を一瞬止め、またすぐにエマの頭をゆるゆるとなで始める。


 「事務室にもいらしたでしょ? 自惚れてるつもりはないけど、殿下は私のこと気にしてるんじゃないかとおもう。でも殿下とお会いしたこと昨日までなかったんだよ? それが急にこうなるとか。なんだか気持ち悪くて」


 「もともと殿下は……」


 テオフィルスは息を継いだ。


 「こういう言い方は不敬になるだろうけど、かなり女癖が悪いんだ。学園に“姉妹”がどれだけ居ると思う?」


 一部の生徒しか知らない事実だ。

 上流階級は子供といえど自分達の階級のタブーに触れないように厳しく躾けられている。特に最上級の王族の私生活は見て見ぬふりをし公言しないのがこの貴族階級を生きていくための術だ。

 

 テオフィルスは最下級の爵位タイトルの家柄ではあるが、生徒会執行部員という立場と人脈でかなり詳細まで把握していた。


 「近侍であるイビスはエマの事を殿下から隠してたんだよね。エマはかわいいからね、殿下の目に留まると大変だから……」


 「もしかして、テオ。私に対してここまで距離近くなったのも、殿下のことがあってから??」


 それだとここ数日のテオフィルスの態度に合点がいく。

 テオフィルスが一気に距離を詰めてきたのは、ヴァーノン家で食事をした翌日からだ。あの日、テオフィルスとイビス兄に写真つきのメールを送ったのだ。イビスはウィンダムの近侍的立場にある。その場に王子がいてもおかしくはない。


 写真見られたんだ……。


 「ん。それもあるけども……」テオフィルスは珍しく口ごもった。かすかに頬が上気している。


 「前にも言ったけど、ずっと……モーベンに居るころから俺にとってエマだけが特別なんだよ」


 エマを誰にも渡したくない。


 エマの事を思う男子は少なからずいる。4年までは何とか凌いできたけれど、5年になると守りきれなくなる。

 だから放課後一緒にいる時間を無理やりでも作った。文化祭実行委員やら執行部からは顰蹙をかったが、それでも続けた。

 

 テオフィルス・ソーンの彼女ものであると周囲に牽制するために。


 あのテオフィルスの想う人に手を出したら、ただ事ではなくなる。もしかしたら退学まで巧妙にもっていかれるかもしれない。そこまで相手に思わすだけの実績と力はあった。

 後はエマが……それで少しでも自分のほうを意識してくれたらいい。ゆっくりでいい。時間がかかっても自分を好きになってくれたらいいと思っていた。


 でも、色好みの殿下に知られてしまった。

 

 それでは遅い。猶予は無かった。

 殿下ほどの立場になると、他の生徒のようにはいかないだろう。

 王家や国家に対して“情報”はつかんでいるけれども出来れば揉めたくはない。


 「余裕無かった。ごめんね? エマの気持ちも無視して。強引だったよね?」


 「あの、あのね、テオ? めっちゃ恥ずかしいこともあったけど、私……嫌じゃなかったから」


 エマはうつむき心の内で反芻した。

 前世を見て決めたんだ。優奈の体験の数々を無為にしてはいけない。

 あの黒髪の男の子との恋と後悔。その後の身を切るような最悪な恋。


 テオに言おう。伝えなきゃ。


甘い言葉のバリエーションが増えませんんんn。

難しいですねぇ。


いつも読んでいただきありがとうございます!

ブックマークとPVを糧に頑張れています。

嬉しいです!


次回は明日更新できたらなぁと思ってます。

ぜひいらしてくださいね!よろしくお願いします!

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