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29話:前世の恋(2)

 雄輝は優しかった。


 「優奈の好きにしたらええよ。自分、優奈が笑ってる顔見れれば満足だし」

 

 といい優奈の行きたいところへ付き合ってくれた。


 数年ぶりに出来た彼氏。

 とても優しく面白い最高の彼氏だった。


 ただ引っかかるところもあった。

 月に何日か「用事があるから」と地元の大阪へ帰るのだが、東京に戻って来た後、どこと無く遠いところにいってしまったような冷めた目をするのだ。


 心ここにあらず、大事なものを別のところにおいてきたような。


 お互いの部屋に泊まるようになっても、それは変わらなかった。

 行為の時。二人で食事をしている時。

 優奈を目の前にしても瞳の奥では優奈を見ていなかった。


 気持ち萎えた?……ううん、誰か他にいる?


 小さな疑問は次第に大きくなり、優奈の心を占めるようになった。

 疑心暗鬼とはよく言ったもので。

 一度心に芽生えた疑念は次第に大きくなり心の中の大部分を占めるようになっていた。


 確信に変わったのは春先のことだった。


 「ごめん、ちょっと寝てもいい? 疲れてるんだ」


 アパートに来るなり倒れこむようにベッドに横になると雄輝はそのまま寝息を立て始めた。

 同じ営業部だ。雄輝の関わっている案件が最近うまく行っていないのを聞いていた。


 疲れてるよね。しょっちゅう出張いってるもんね。


 「ねぇスーツくらい脱ごうよ」


 優奈は雄輝のスーツの上着に手をかけた。

 内ポケットに入れていたらしいスマホが着信音とともにベッドの上に転がりおちる。


 「雄輝、メールきてるよ?」


 拾い上げて優奈は固まった。液晶にSNSのポップアップメッセージが表示されている。


 『井上美咲:式の打ち合わせの前にうちの親が食事したいって』


 は???誰???


 イノウエミサキ。

 優奈は震える手を必死に押さえながら雄輝のスマホを枕元におくと、自分のタブレットで検索をかけた。


 写真や動画を共有できるリア充御用達アプリからあっさり判明した。

 

 井上美咲。関西の旧帝大出身。雄輝の4歳年上。外資系証券会社の大阪支社に勤務。

 30代とは思えない若さとプロポーションの美人。

 アプリによれば7年付き合った年下の彼氏と最近婚約したらしい。コース料理のデザート皿を背景にハイジュエリーメーカーの婚約指輪はめた左薬指の写真があげられていた。

 日づけは1週間前だった。


 井上美咲の彼氏はこのベッドで寝てるこの男よね……。


 優奈はこぶしを握り締めた。


 あぁ、私、今回も本命になれなかったか……。私、また浮気相手だったんだ。


 涙がこぼれた。嗚咽を出さないように静かに泣いた。


 「見たの?」


 いつの間にかおきていたらしい。


 「見た。勝手に見たのは謝るよ。でも雄輝に彼女が……婚約者いるのは聞いてない」


 「……ほんますまん思うとる」


 大学生の頃、サークルを介して出会った。一目ぼれだったらしい。何回も断られてやっと付き合ってもらえた。美人で頭も良く仕事もできる最高の女性。

 めっちゃ好きだ。好きなんだけども……


 「つらかったんや」


 横に居ると自分は彼女に対する引け目をひしひしと感じる。

 容姿・家柄・年収……すべてが自分よりも上だった。彼女に対するコンプレックスは大きくなり、耐えられなくなりそうな時に東京本社に異動になった。

 そこで出会ったのが優奈だった。


 「優奈と一緒にいると楽やった。無理せんでええし、優奈かわいかったしな」


 雄輝は一息置いた。


 「でもあかんかった。自分が一番大切にしたいのは優奈やない。美咲や」


 本当に申し訳ないと雄輝は頭を下げた。


 あぁ私は雄輝のコンプレックス八つ当たり要員だったわけだ。気持ちを保つための吐き出し口だったのか。最低だ。


 「悪いけど、帰ってもらえるかな?」


 優奈は自分に絶望しながら恋の終わりを告げた。


 



 エマはゆっくり目を開けた。


 「アイビン様。施術が終わりました」


 エステティシャンがにこやかに言う。


 「あ……ありがとうございます。すごく気持ちよかったです」


 「よくお休みになられてました。お疲れだったんですね」


 エステティシャンはエマが身を起こすのを助けながら、


 「お着替えになってくださいね。着付けの前にメイクとヘアセットを行うそうです」


 「はい……」


 前世が好きだった人の目、あの目。

 ウィンダム殿下の眼差しと同じだった。

 もちろん瞳の色も形も違う。違うが、奥底は冷たく“目の前にいる自分”には焦点は合わないあの眼差しは、寸々たがわず同じだ。


 ウィンダム殿下と初めて出合った時、心底気持ち悪いとさえ感じた。


 昨日から二度のエマへの接触。テオフィルスがエマに接する時とは違い、ウィンダムからは親愛など好意は一切感じなかった。

 エマへの興味というよりも何かしら別の魂胆があるようにしか思えない。


 前世と現世、決して交わることはないが互いに干渉しあっている記憶から警告をしてくれたのだろうか。

 この男には関わるなと。


 殿下は一体何に対してその眼差しを向けているのだろう。



いつも読んでいただきありがとうございます。

もっと語彙力!!と思いつつ小説の奥深さに打ちのめされますw


ブックマーク、本当に嬉しいです!

次回はあさってに更新できたらなぁと思います。

よろしければまたいらしてくださいませ。

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