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28話:前世の恋(1)

 即席に作られたらしいわずか三畳ほどの空間には、エステ用のベッドとワゴンが置かれてあるだけであった。

 片隅でアロマが焚かれている。リラックス効果を狙った微かなウッド系の香りは森の中にいるような心地よい香りだ。


 「こちらへ」


 エステティシャンに導かれるままエマはベッドに横になった。

 

 一流のエステティシャンの施術は"神の手"というのは、前世でも現世でも変わらないらしい。


 あっという間に丁寧な手業で肌の角質が落とされ、つややかな肌ができあがった。

 エステをする前から、アラサーの前世からすれば羨ましい限りの肌質ではあったが、今はさらに輝かんばかりになっていると自負できるほどだ。

 エステティシャンもその仕上がりに満足そうである。


 「アイビン様、本日のドレスは背中が大きく開いたものと聞いております。続きましてお背中のお手入れも含め全身の施術をいたしますので、全てお脱ぎになってこちらの下着とガウンにお着替えくださいね」


 エマは施術の腕に完全にとりこになってしまっていた。抵抗もなく全裸になり、素直に用意された下着とガウンに着替えた。

 言われるままベッドにうつぶせになると、施術が始まった。

 微かにレモンやベルガモットの香りがするマッサージクリームがたっぷり塗られ、ちょうど良い強さ加減のマッサージに背中が温かくなるのを感じる。


 わぁ気持ちいい。


 魔術というのがあるのなら、エステティシャンの施術も一種かもしれない……と思っているうちに瞼が重くなってきた。


 ハーブの香りとエステティシャンの神業マッサージの心地よさで意識が深く沈んでいった。





 ……しばらくするとエマは闇の中にいた。


 かすかに人の声がする。それは次第にはっきりしてきた。


 『お客様にお知らせいたします。……駅による人身事故のため上り列車の運行が停止しております。復旧予定時刻は……』


 スピーカーを通した駅員の声が響いた。

 急に明るくなり、見知らぬ駅のホームが目に飛び込んできた。

 全く見覚えの無い光景に戸惑う。


 ここはどこ??


 聞いた事の無い言葉のざわめきの中で、黒い髪と似たようなスーツの男性たちがホームに“ひしめいて”いる。誰と話すでもなくスマホに見入る人たち。

 ホームから見えるビルの上には鮮やかな看板が設置されている。色合いの無いビルに看板の華やかさは独特の猥雑さがあった。街並みの統一感を重視するデイアラの文化とは違っている。

 

 エマは看板を凝視した。デイアラの言葉ではないが何が書いてあるかは分かる。『スーツ ノ ヤマダヤ』男性用スーツを売る店の広告だろう。


 ……エマは悟った。


 あぁ、これは私の記憶じゃない。前世の、優奈の記憶だ……。


 『人身事故のため上り列車の運行が停止しております。復旧予定時刻は……』


 スピーカーを通し駅員のアナウンスが繰り返されていた。

 何度目かのアナウンスの後、優奈は混雑した人波に身をゆだね、流れに沿って駅の出口に向った。

 時刻は18時。

 年末に近いこの時期、外はすでに暗かった。

 

 久しぶりに残業も無く定時に上がれたのに、最寄り駅は使えないなんて。


 思わずため息が漏れた。


 私鉄に乗り換えなくちゃ。ちょっと歩くよね。……あぁ運が無いなぁ。


 優奈は夜空を見上げた。汚れた都会の空には星はほとんど見えなかった。小学生の頃、家族でキャンプで行った先で見た夜空と同じものとは思えなかった。


 「斉藤さん」


 名前を呼ばれ振り返った。

 大阪支店から先月異動して来た男性の同寮がそこに立っていた。


 「あ、田中さん。お疲れ様です」


 優奈は会釈をする。


 「お疲れ様です!」


 人懐っこい笑顔で田中雄輝は返事を返した。

 雄輝は明るい性格と関西風のイントネーションで、標準語が多い東京本社の中では目立った存在だ。先天的な陽キャの見本のようだなというのが優奈の第一印象だった。


 雄輝は笑顔のまま優奈の隣に並び、


 「今日は定時ですか?」


 「ええ、やっとプロジェクトがひと段落着いたんです。たまには早く帰ろうとしたら、これですよ……」


 優奈は小さくため息をついた。


 疲れた。遅延とか、ほんと萎えるなぁ。


 「ため息つくと幸せが逃げるとかいいますけど、斉藤さん、どう思います?」


 「どうでしょう? 迷信ですよね。あまり信じてないです」


 「へぇ。自分、信じてるんですよ。言霊とかあるやないですか? 良いこと言うと良くなって、悪いこと言うと悪くなるっていう」


 「何かすっごいスピリチアルですね。田中さんから非科学的発言がでるなんて、意外です」


 優奈はクスリと笑った。

 陽キャな雄輝からそんな話がでるなんて思ってもみなかった。

 

 「そうですか? 結構あたると思ってるんですよ。だから、ため息もつく度に何かが逃げていくんじゃないかって考えてるんですけどね。斉藤さん、だいぶ幸運逃しちゃってるかもしれないですよ」


 せっかくですから厄払いしません?と雄輝は居酒屋を指差しながら言った。

 電車も当分動かないし、このまま家に帰るのも気が進まなかったところだ。優奈は二つ返事で了承した。


 この日から優奈は雄輝と会社で会えば話をするようになっていた。

 

 課は違うが同じ営業部ということもあり、顔を合わす機会も多い。

 話題も多い雄輝と話すことはとても楽しかった。営業をするために生まれてきたのかと思うくらいに話し上手でさらに聞き上手でもあった。

 自然と仕事帰りに飲みに行き、休みの日も会うようになった。


 優奈が雄輝を好きになったのも自然な流れだったのかもしれない。


優奈さんの恋のお話、もう少し続きます。

舞台は東京を想定してますが、地方住みなのでイメージで書いてますw

実際のところはどうでしょう??


いつも読んでいただきありがとうございます!


ブックマークも嬉しいです。ものすごく励みになります!!

次回更新は明日を考えています。

よろしければまた読みにきてくださいませ。


追伸:昨日上げたお話ですがびっくりするくらい酷くて……。

時間があるときに直して行こうと思います。

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