閑話:エミリー・トマス。傍観者だが推しは尊い。
本編離れまして、閑話です。
エマやテオフィルスと同じ寮生のエミリー・トマスの目線のお話しです。
「学生寮のさ、あぁグレンロセスにはね学生寮もたくさんあるんだよ。生徒の七割が首都圏外の出身だからね。そこのさ、『泉』っていう寮にすごい美形の生徒がいるんだ。もうさ、世の中の美男美女が色あせて見えるくらいなレベルなんだよ。俳優なんか比べ物にならない。神に愛されているんじゃないかって噂が出るほど次元がちがうんだ」
従兄は一気にまくし立てた。
エミリー・トマスこと私は普段は無口な三歳年上の従兄の様子に若干引きながら静かに聴いていた。
「エミリー、それだけじゃあないんだよ。その寮にはね、もう1人有名人がいるんだ。貴族階級では認められない特待生で、あぁ優秀すぎてね……別の学校に引き抜かれるのを恐れて特待にしたって噂もあるんだよ。しかも国からの奨学金も受けている超絶天才!」
従兄のおしゃべりは止まらなかった。
伯母の夫は事業が当たり一代で資産を築いた人で、たった一人の息子を国内最高の学校へ入れていた。私も秋からそこへ進学することが決まり、入学手続きのついでに学園生活を聞きに行ったのだ。
「モーベンの奇跡って言われてるんだよ。あのクソ田舎なのに逸材が二人も生まれてるから」
「モーベンってそんなに田舎なの?」
「地理でやっただろ? 畑と放牧地しかない辺鄙な土地さ。エミリーの家のあるファイフと比べようが無いくらい貧しい地方だよ」
私の家族はデイアラ南部のリゾート地ファイフでホテルを経営している。
家業を起こして三代目という新興の資産家であるトマス家は、次世代の経営者を育成するためにより良い教育環境と人脈を求めて首都の寄宿学校へ娘を進学させることにしたのだ。
だから私は色々な人と親交を深めないとならないらしい。
「私、『泉』寮らしいの。」
「へぇぇ、まじか!! それは幸運だね!」
ほんとラッキーだ!美しい人と天才とも交流しなくちゃ!楽しみだわ!
期待いっぱいで入寮した初日、私は従兄の言っていたキレイな人を見かけた。
てっきり女の人かと思い込んでいたら、男の人……しかも従兄の言葉以上に信じられないほど美しい人でびっくりした。プラチナの髪も深い海のような瞳も神々しい。
もう1人の天才もそのキレイな人と一緒にいた。
黒髪・黒瞳の少年だ。ちょっと冷たい印象だったけど、寮生に対する態度は悪くない。というか親切だ。美しい人と少年は同郷というだけあって、他の寮生よりは親しそうだった。
やばい……。
私は趣味心がうずくのを感じた。
ブロマンスいけるんじゃない? いやいや、もうBなL??
齢11にしてすでにオタクの趣味に進んでいた私。
まだ薄い本を出すには至らなかったが、すでに即売会には参加していたのだ(これも一年後には売り手側になってたけど。5年になった今では界隈では有名な作家に成長したわ! 才能に感謝。)
「もう、イビス兄さま。手伝ってくれてもいいじゃん。荷物たくさんあるのに」
さらさらのキレイな髪をした少女が美しい人……イビスというのか……に文句を言う。
新入生なのだろう。
イビスさんの妹なのかな? 系統が違うけどめっちゃかわいい。すらっとしているし、良く変わる表情も訛ってる所も悪くない、というか好き。
ちょっと見ただけで、性格も悪くないんだろうなって分かるところもポイント高い。
「必要なものだけもってこいって言ったよね? 何でこんなに荷物多いんだよ?? バカなの?」
大きなダンボールの箱10個分を前にして、イビスさんは呆れ顔だ。うん、確かに多いと思う。さっき自分の部屋を整理したけど、寮の部屋は備え付けのベットと机・クローゼットと本だなでいっぱいいっぱいだった。
「イビス、それは言いすぎだよ。女の子は色々必要なんだよ」
「そうそう!! テオは分かってくれると思ってた!」
「テオ、エマを甘やかすな。だからこいつはいつまでも“考えなし”なんだよ! 自己責任だ。自分でなんとかしろ!」
ふむふむ。黒髪はテオくんと妹ちゃんはエマちゃんね。
私は心のメモ帳に書き込んだ。
あぁ推せる、私、全力でこの三人を推すわ。
それから5年。
私はこの三人の観察という趣味も手に入れ日々充実している。
イビス・アイビンはその外見からして他者が放っておくはずもなく、老若男女問わず広く“お付き合い”しているようだった。週末ほとんど外泊しており(寮は申請したら外泊も自由なのだ)時々アルコールの臭いをさせていることもあった。その割りに成績も悪くないらしい。神って不公平よね……と思う。でも許す。
妹のエマちゃんも最初の印象どおりの子だった。
明るく真っ直ぐで、ウソのつけない性格だった。よく色々な人に片思いしていたようだが、信じられない事にことごとく振られていた。告白できる行動力があるのはすごいよね。私にはできないよ。
寮にも何人かエマちゃんに恋してる男子達がいるけど、誰も一歩踏み出せていないようだった。
理由は第三者の私でも分かる。
テオことテオフィルス・ソーンがエマちゃんの事を想っていたから。
誰にでも親切で温和な優等生だが、エマちゃんにだけは優しさの質が違っていた。何年も寮で生活していると自然と目に付くよね。
エマちゃんが5年になり、ようやくソーン先輩が本気出し始めたら寮生たちはいっせいに安堵したよ。
やっときたあああと私ですら心の中で絶叫したわ。
そうなったらそうなったで、ソーン先輩はエマちゃんを独占して離そうとしなくなったんだけど。エマちゃん面白い子なんだから他の男子と話すくらいいいとおもうのよ?
ほんとにいい寮に入れてよかった。
創作勢としてはありがたい。新刊のネタありがとう。
これからも推す!
9月12日から投稿を始めて、今日で丸っと一か月です。
途中ぜんぜん筆も進まず、小説を書くのって大変だと実感しつつここまでこれました。
読んでくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます!
甘いお話にしたくて甘いのが続いていますが、そろそろすっきりさせたいなぁとか考えています。
上手く着地できるように持っていきたいです!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
いつも読んでいただきありがとうございます!
ブクマも本当に嬉しいです。
次回更新は明後日にできたらなと考えてます!よろしくお願いいたします。




