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22話:夢のような世界。

 教室に着くと、カレンはまだ登校していなかった。


 エマはつい数分前に出合った王子の件をどうするべきか悩んでいた。

 「何かあったらすぐ連絡して?」とテオフィルスに言われていたのを思い出したのだ。


 これは伝えるべきこと? んー、ただウィンダム殿下と話しただけだよね?


 スマホを持ってロックされたままの液晶画面を睨む。


 嫌な感じのする人だった。

 あんなに冷たい害心をもつ人を今まで見たことが無かった。モーベンでもここ学園でも出会ったことはない。


 「まぁいいか。何かされたでもないし」


 呟きながら、スマホをカバンに収めた。

 そのタイミングでカレンが教室に入ってくる。相変わらず絶好調にかわいい。


 「おはよう、エマ。何かされたの? 誰に?」


 「あ、カレン。おはよう。何にもないよ?」


 「ふぅん」とカレンは怪訝そうに見る。


 エマは苦笑いをすると、文化祭のプログラムを広げた。

 一年をかけて念入りに準備された文化祭だ。すべての演目がぱっと見でも「ハズレなし」である。

 午前は学園生徒の文化部の発表、午後からはプロのアーティストの公演が組まれているようだ。昼には首都グレンロセスで人気のパティスリーやレストランも、軽食を出す臨時屋台として出店する。


 これもう学生のやるレベルじゃない……。


 日本の学生生活を知っている前世ならありえないが、やってしまうところがこの学園ということか。

 エマは今日の演目リストを目で追った。演劇部のプログラムが面白そうだ。


 「カレン。私演劇部の公演見に行きたい!」


 「演劇部いいね、いこ。今年は演目も面白そうね。ヴァーノンの製作プロダクションが演劇部に協力してるらしいから、セットとかもすごいはずよ」


 「わぁそれは見るほか無いね!」


 「お昼はここがおすすめ。ローストビーフが絶品なの」


 首都育ちのカレンは深窓の令嬢と思いきや、意外と市井の情報に通じているらしい。カレンとあれこれ話しているうちに、文化祭開式のための生徒集合アナウンスがあり二人は講堂へ向った。


 前世の記憶による文化祭は全校生徒で作り上げる学校内の行事であった。

 生徒が知恵を出し合い製作し、運営する。

 たしかメイド喫茶や合唱などがあった。文化系部活の晴れの舞台でもあったはずだ。


 グレンロセス王立学園のそれは、一言で言えば財政自治体を巻き込んだ巨大フェスである。


 それもふんだんに金と人材をかけた、一般企業や自治体単体では出来ないレベルのものだ。

 デイアラのエリート達の八割近くを生み出している学園がもつ影響力はどれだけのものか、これを見るだけでも想像にかたい。


 エマは今年で5年目になるが、毎年この文化祭には圧倒された。

 至る所がプロの手により華やかにデコレートされる校庭や、普段は生徒しか歩かない石畳をデイアラ各地から訪れた人々が練り歩く様は、前世のテーマパークのような雰囲気すらある。


 田舎育ちのエマはにぎやかな屋台にテンションがあがり、あれやこれや目移りしながら歩きまわった。


 「カレン、あれ見て? 美味しそうだよ!」


 エマは嬉しそうに声を上げた。


 「ちょっとエマ。待って!」


 静止する声すら届かないエマに、カレンはため息をついた。


 もう体力バカはこれだから。


 首都育ちではあるが超富裕層の令嬢であるカレンはただでさえ街歩きには慣れていない。その上にこの人出である。

 開式から一時間もたたないうちに、一般人も多い通路で何度もはぐれそうになるしで散々であった。


 ちょっともう体力的に限界だわ……。


 何度目かのエマの暴走に疲れ果てたカレンは、揚げたてのバラのジャム入りドーナツをほくほくした顔で頬張る親友の世話を放棄すると決めた。


 無言でスマホを取り出し、通話ボタンを押した。


 「ヴァーノンさん」


 息を切らせてテオフィルスが現れたのは、わずか10分後のことだった。

 カレンはあからさまにほっとした表情をし、


 「ソーン先輩、申し訳ありませんが、あとはよろしくお願いします。演劇部の公演の始まる前に落ちあいましょう」


 ちょっとカフェテリアで休憩してきます、とカレンは言い残し二人から離れていった。


 エマは多忙なテオフィルスが側に来たことに素直に驚いた。


 「テオ、委員会の仕事どうしたの??」


 「……切り上げてきた。ここまできたら俺がいなくてもどうにでもなるし。ていうか、エマ。ヴァーノンさんを無理させちゃだめだよ。モーベン育ちのエマとは体力が違うんだから」


 「あ、夢中になってた……。カレンに悪いことしちゃった」


 テオフィルスは困ったように微笑み、


 「走ってきて疲れた。ドーナツ分けて?」


 というと、ドーナツを持っているエマの右手首をつかんで自分の口元まで運ぶと齧り付いた。

 ドーナツにたっぷりはいっているバラのジャムがあふれ、テオフィルスの唇の端に付く。


 「テオ、ジャムついてるよ」


 エマはあふれたジャムを紙ナプキンで拭い取った。

 ふと視線を上げると、驚いた表情のテオフィルスの顔が眼前にあった。触れ合いそうな……テオフィルスの香りを感じるくらい近い。

 急にエマの胸が高鳴った。


 もう心臓の音がうるさい……。


 エマは何も言えず、ただそのままテオフィルスの黒い瞳を見つめた。


テオフィルスが出てくると安心します(*/∀\*)


いつも読んでいただきありがとうございます!

ブクマも、めちゃくちゃ励みになります。

うれしくてたまりません(*>∀<*)


次回更新は明日の予定です!

是非またいらしてくださいませ。

よろしくお願いいたします!

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