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21話:その笑顔は魅了する。

 通学ラッシュの時間にさしかかり人の波は絶えることなく学年棟へ向け流れていた。

 未だエマは石畳の縁石に座り込んだままだ。各寮から出てきた生徒がちらちらと横目で見て通り過ぎていく。

 紳士淑女がモットーの階級出身者の多い学園だ。平素ならば彼らは社会的義務ノブレスオブリージュの精神で困っている者には手を差し出すのであるが、


 今日は一大イベント文化祭当日。


 誰もエマの様子を気にかける風はない。浮き足立った雰囲気の中でそこまで気が回らなかったのだろう。

 結果的にエマにとっては都合がよかった。

 たぶん誰に話しかけられてもまともな表情ができる自信がなかったのだ。

 

 今自分はどんな顔してるのだろう。笑ってるのか、困ってるのか、嬉しいのか。こういう時はどんな顔をするのが正解なんだろう? 次テオフィルスと会ったときは?


 経験値低いと難しいなぁ。


 自分の至らなさを恨み、エマは膝を抱えて1人悶えた。


 「ねぇ君。体調わるいの? 医療室行く?」


 低いがちょっと猥りがましい声が突然エマの上から降ってきた。

 艶があり張りもある一度聞いたらまた無条件で聞きたくなるような声質である。

 

 んん?? すごい良い声!前世ではこういうの言う言葉あったよね……なんだったっけ、そうイケボだ!


 「あ、大丈夫で……す」


 エマは表情筋を何とか戻しながら、顔を上げると同時に声の主を目視し凍りついた。


 そこには人好きのする顔立ちの赤毛の青年が、身をかがめエマに手を差し出していた。

 惚れ惚れするような立ち姿である。

 青年の胸元に結ばれた深く渋い赤の複雑なレジメンタル入りのネクタイは最上級生の証だ。ここまで隙無く制服を着こなせる生徒はそうもいまい。

 

 青年をエマは知っていた。

 もちろん面と向ったことは無い。が、幼い頃からメディアでその姿は見ている。


 それなのに目が釘付けになる。

 見入ってしまう点では超越した美貌のイビスと同じだ。だがこの青年は性質が違う。メディアを通してでは分からない美醜ではない強い魅力カリスマを感じる。

 

 この人は……この方はこの国の王族。


 グレアム4世の第二王子ウィンダム・マカダム。


 12月だというのにエマの額に汗が浮かぶ。


 「ウ……ウィンダム殿下」


 エマは慌てて立ち上がった。両手でスカートの端をつまみ上げると、膝を軽く曲げ、深々と上半身を倒す。最上級のカーテシーである。

 モーベン男爵家は最下級とはいえ貴族ではある。エマも一通りの儀礼マナーとして教育は受けていた。辺境貧乏男爵家末子のエマの立場では成人しても社交界にデビューする予定も無かったので、厳密に言えば必要はなかったのかもしれない。「知識としてはもっておいてね」という母の強い意向で身につけたものだった。


 こんなところで出会うなんて……!

 

 学園に第二王子が在籍していること、イビス兄と同学年であることは知っていた。けれどここがエマの「考えなし」といわれるところで、学年も違い出会うこともないだろうと本気で思っていたのだ。差し当たっては使うことの無いスキルではある、と。

 大きな身分差のある存在を前に、まかりなりにも貴族階級のエマはピクリとも動けなくなっていた。


 「おや、俺のこと知ってくれてるんだね。光栄だ。あぁ顔を上げて。……ここは学園だからね、堅苦しい挨拶はいらないよ」


 ウィンダムは鷹揚に言った。最上位の王族だけが持つ独特の笑顔を浮かべる。

 誰も真似できないそれは血筋が導くものなのか、引き継がれる富による余裕が作るものなのか。とても惹きつけられる笑顔だった。


 「君はエマ・アイビンだね」


 「え???」


 淡く緑かかった薄茶ヘーゼルの瞳はまっすぐにエマを見ていた。

 その視線はどことなくエマに居心地の悪さを与えた。

 エマを食い入るように見ているが焦点フォーカスしているところは別にある……熱のない冷めた眸だったのである。

 

 「左様でございます。質問をお許しください。殿下は私をご存知なのですか?お目にかかったことは無かったように思いますが……」


 「ん? 君はイビス・アイビンの妹だろ? イビスとはね、友人でね。色々世話になっているんだ。君の事も聞いててね、一度会ってみたいと思ってたんだよ」


 ウィンダムはエマの手をとると甲に口をつけた。

 貴族の儀礼マナーだ。挨拶だけども……


 ……何か気持ち悪い。

 

 先ほどまでの幸せで暖かい気持ちは一気にしぼみこんだ。

 前にカレンの兄にも同じ挨拶を受けた。そのときは何も感じなかった。

 テオフィルスが手首に口付けをしてくれたときは嬉しくてドキドキしたのに。


 なぜか嫌悪感しか生まれない。


 この人とは関わってはだめだ。

 心の底でアラームが鳴っていた。前世の記憶からも何か引っかかりを感じる。


 離れなきゃ。すぐに……


 エマはできるだけ失礼にならないように頭の中で言葉を慎重に選び、


 「あの、お声掛けいただき感謝申し上げます。少し気分が悪かったのですが、すでに快復いたしました。ご心配いただくほどではございませんので……これ以上は殿下のお時間を無駄にしてしまいます。私、失礼させていただきたく思います」


 「そう」


 ウィンダムはあっさり許した。

 エマは深く一礼をすると、半ば駆けるように5年棟への人波に紛れていった。

 一刻でも早くここから離れたい。カレンに、テオフィルスに会いたい。


 5年棟のエントランスへ消えるまでエマを眺め、ウィンダムは「じゃあまた後でね、エマ」と独りごちり上機嫌で踵を返した。


 あれがソーンが思いを寄せる子か。思ってた以上にかわいいじゃないの。文化祭、楽しみだね? ソーン。


 赤い髪が不埒に揺らいだ。

ウィンダム王子の外見は完璧紳士なんですね。

完璧だけど内面ダメって個人的にはかなり萌えますが、皆さんいかがでしょう?


読んでいただきありがとうございます!

ここ数日、読みにきてくださる方&ブックマークを入れてくれる方が増えPCの前で震えていますΣ⊙▃⊙川

本当に嬉しいです!!感謝!!!(❁´ω`❁) 


次回更新は明日のこの時間を予定しています。よろしくお願いいたします!

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