第6話 特訓の果てに得たものは…
『特訓モードの成功を確認しました』
さすがに2回目ともなると効率もよくなるようで無駄な体力消費を抑えてパラメータアップに成功した。
「よしよし、これで本番の1位はもらったな」
「1位になったら桜花との相性パラメータもアップするだろうから告白してエンディングだ」
「特訓モードが少しアレだったけど意外と簡単に進んだ気がするな」
僕はそう考えながら帰宅し、何か見落としがあるような気もしたがセーブしてたら大丈夫かとベッドに入った。
* * *
「おはよう!桜花」
「おはよう。龍ちゃん」
「今日の僕は凄く充実してるからきっと桜花の期待に添えると思うよ」
「本当!期待してるね♪」
僕はそう言うとクラスマッチ会場へ向かった。
「100m競争に出場される方はスタート地点に集まって下さい」
場内アナウンスが鳴り響いた後、参加メンバーが続々と集まって来た。
各クラスとも『野球部』『サッカー部』『陸上部』と足に自信のあるメンバーを送り込んで来ていた。
「なかなか骨のありそうなメンバーじゃないか」
「だけど勝つのは僕だけどね」
特訓モードをこなした僕は余裕の表情でスタート地点に集まった。
「位置について 用意」
パーン!
次々と走り終わった人達が記録を確認しに記録ボードの周りに集まってきた。
「今のところ一番いい記録は11秒5か、なかなか速いじゃないか」
「しかし、特訓モードをこなした僕の敵ではないな」
「位置について!」
僕は余裕の表情でスタートラインについた。
「龍ちゃん頑張れ!」
その時ゴールの方から桜花の応援する声が聞こえてきた。
僕は思わず片手を上げて声援に応えてしまった。
「パーン!」
同時にスタートのピストル音が鳴り響いた。
『やってしまった。』
一緒にスタートした他の選手から数秒程度遅れて走り出した僕は『しまった』と思いながらもスタートをきった。
いくらなんでも出遅れ過ぎだ。
今のところの最高が11秒5で数秒も出遅れたら勝てる訳がない。
そう思いながらも桜花の悲しむ顔が浮かんだ僕は特訓モード直伝の超本気加速モードでゴールを目指した。
いつもより景色が流れるのが速く感じていると先にスタートしたはずの他の選手達の背中がみるみるうちに近づき、まるで後ろ向きに走ってるかのような錯覚をするかのように華麗に抜き去って行った。
『ゴールイン!』
終わってみれば出遅れたはずの僕が1番最初にゴールに飛び込んでいた。
「まぢか…。」
「いやいや、たまたま同じ組の選手が遅かったに違いない。」
「今回はタイムでの順位だから11秒5を切っていないと優勝は無い。」
ふと桜花を見ると涙ぐんでいた。
きっと自分が声をかけたせいで出遅れたのだと自分を責めているのだろう。
「桜花」
僕は慰めの声をかける為に桜花にそっと近づいた。
「龍ちゃん!おめでとう!!」
桜花はそう言ったかと思うと僕に抱きついてきた。
「いきなりどうしたんだよ?」
どきどきしながら桜花に尋ねた。
『只今の一着の記録、10秒0!』
その時記録を告げるアナウンスがあり、僕は桜花が抱きついてきた意味を知った。
さすが特訓モード×2回のパラメータ上げは伊達ではなかったようだ。
現時点で10秒0は、ほぼ日本記録に匹敵する高記録なのだから…。
その時の僕は桜花に抱きつかれた事に気をとられて重要な事を失念していた。
そう、僕は『スタート時に数秒出遅れた。』と言うことを…。
* * *
当然僕は優勝した。
そして、次の日から周りの環境が一変した。
未公認とはいえ、学校の体育の授業で出した日本記録に匹敵する記録に校長が舞い上がり、陸上連やらテレビやら新聞やらに電話をかけまくったらしい。
連日、取材やスカウトの人波が途切れる事はなかった。
メディアは学校にも帰り道もそれどころか家にまで押し掛けてきた。
目まぐるしく過ぎて行く日常の中で、僕はふと桜花の事を思い出した。
「しまった。告白しなきゃいけないのを忘れていた。」
奇しくも明日は桜花の誕生日だった。
直ぐに桜花に明日会いたいとラインを送り、プレゼントを買いに走った。
プレゼントは『シュシュ』にした。指輪はサイズが分からない上、正直引かれる可能性もある(高校生だし、あまり高価なものは逆効果と判断した)、服はセンスを問われるので却下した。
ちょうどプレゼントを用意した時に桜花から『OK』の返信が入った。
いよいよ大詰め『告白イベント』である。
明日の日曜日は桜花とのデートであるが、ここで行き先の選択肢が出てきた。
行き先を選択してください。
◎遊園地
◎水族館
◎公園
◎学校
◎どこも行かない
「は?」
遊園地や水族館は鉄板だし、公園もまあお金のかからないデートスポットの定番でもある。でも学校って何?デートで学校って?それにどこも行かないとか、何でこんな選択肢があるんだよ?何か意味があるのか?
僕は頭の上に???を沢山浮かべながら考えた。
「何か嫌な予感がする」
考えた末、念のためにスキルのアンカーをここに着けておく事にし、『遊園地』を選択した。
この投稿で完結する予定でしたが、少し長くなってしまったのでもう一話追加して次で完結することにしました。よろしくお願いします。