プロローグ
やはり凝りすぎたか…。
仮想空間(VR)の世界で呟く自分がいた。
「よしっ!ベータ版の完成っと」
「納期には何とか間に合いそうかな。後はテストプレイとデバッグ作業か。これが一番大変なんだけどな。」
オレンジジュースの空き缶を片付けながら今出来たばかりのゲームのタイトルが表示されたパソコンにため息をついた。
彼の名前は「赤坂 龍生」。高校のおたくクラブのゲームプログラムを担当している。
オタクと聞けば「アニメおたく」が真っ先に浮かぶ人が多いと思うけど、僕達は「ゲームおたく」でしかも自作ゲームを作って販売する、いわゆる同人ゲーム制作を中心に活動しているクラブである。
実はこのクラブは結構有名で昨年行われた同人ゲームの全国大会で高校生グループ初の準優勝の成績を残してる。
手前味噌になるがプログラムの腕には自信があり、特にVR関連の技術で勝ち取った準優勝であった。
今回の新作は前回の成績を評価したゲームメーカーから商用向けに開発して欲しいとの依頼があった事から制作したもので、恋愛要素を盛り込んだシミュレーションRPGに仕上がっている。まあ、平たく言えばギャルゲーだ。いつの時代も鉄板ネタだが、特に力を入れたのがヒロインエディット機能で「名前、年齢、顔、髪型、身長、3サイズ」に到って詳細にエディット出来る。さらに、人工知能AIを採用して単純なパラメータ主導のゲームとは差別化出来る仕様にしてある。
もちろん、面倒くさがりの人にはランダムでエディットしてくれる機能もある。
それだけでも充分な気もしたがそこは凝り性オタクの性で更なるアイデアを追加してみた。
それは「チート能力付与機能」。そして、「世界観の選択」である。
チート能力付与とはその名前のごとくゲーム開始時に自分特有のチート能力を付与するものでゲームをサクサク進める為につけるインチキ能力である。
例えばファンタジーもので不死身の身体や触れるだけで敵を倒せる能力なんてのはチート過ぎるけどゲームを進めるには便利な能力だからいろいろな漫画やゲームから思い付く限りのチート能力を選択出来るようにして「ボス強すぎ無理ゲーやんか」とならないように調整してみた。
世界観の選択とはゲームの基本的世界観を決めるもので、「現代日本」「未来都市」「ファンタジー世界」から選択出来るようになっている。オンラインで繋げば追加の世界も選択出来るように下準備もしてある。
神様みたいな能力を持つも良し。自分の力を信じてあえてチート能力を封印しても良し。と、どう考えても恋愛シミュレーションにはオーバースペックな機能なのだが、幼なじみで悪友のシナリオ兼サブプログラム担当の青柳 巧と熱いゲーム論議を繰り返した結果入れることになった。
このゲームのクリア条件は選ぶ世界観によって多少異なるが基本的には自分でエディットしたヒロインに想いを伝えてヒロインがそれに応えてくれればクリアと言うものなので設定次第では街の外に出ずともクリア出来る設定も可能なのである。全てのプレイヤーがスタイルに合わせて難易度も調整出来るマルチプレイヤーオンリースタイル・通称MPOSを強く意識して開発してある。
シナリオやパラメータの詳細は巧に丸投げしてたから不安要素は多々ありそうだけど「テストプレイをしてから調整していけばいいかな」とぼやきながらVRギアを装着してテストプレイに挑むことにした。