次フロアに賭けることにする。
一同は命からがら逃げることに成功した。1人の犠牲を払って。階段はまだ見つからない。パーティの貴重な回復役が欠落したことは、今回の討伐を断念するには必要十分な材料であった。しかしラストダンジョンはそれを許さない。
悲痛な表情で一同は進行する。後には引けない。ナナがいなくなったということは、死傷を負うことが死へと直結するということ。中級程度の回復魔法をアルテが習得しているが、ドラゴンのような強烈な攻撃は耐性魔法もない身体を軽く消し飛ばすため意味をなさなかった。
一同は酷く疲弊していた。長時間神経をすり減らし、仲間を失い、圧倒的な害悪を見せつけられ、未だに見つからない階段。
「本当に階段なんてあるのか?」
ハオがポツリと呟く。皆は聞こえているはずであるがその言葉に反応しない。
「このまま竜の巣で延々迷っての垂れ死ぬ。違うか?」
「いっその事、ドラゴンに一瞬で殺された方が苦しまないだけいいんじゃないか?」
「次のフロアに行けたとしても回復無しでどこまでやれるんだ?」
独り言が増える。鬱屈を吐いたところでそれは晴れないし、それを聞いた他人は更に気が滅入る。正に負の連鎖。本来であればリーダーであるアルテがそれを諌める役割であるが、そんな余裕はなかった。ハオを無視してこの状況の打開策を練る。
「イル、このフロアに回復手段はあるか?」
「はい、あることには有ります。癒竜のドロップアイテムで、再生の秘石というものです。一定時間ごとに光り、触れている者を完全治癒します。死亡には効きません。」
「癒竜・・・か・・・」
癒竜とは再生力に長けたドラゴンの総称である。抜群の生命力を誇る種族の更に上位の再生力。人間界での討伐報告はない。討伐隊の話では傷つけれども傷つけれども怯むことなく暴れまわり、竜の捨て身の攻撃は避けられず一方的な虐殺を受けたという。生き延びた者の話によると、『殺し方がわからない』と伝えられた。今の状況での討伐は絶望的と言わざる得ない。
「見て!」
デルミーが急に大きな声で皆を呼んだ。
そこには次フロアに続く階段があった。一同は次フロアに賭けることにする。