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基本は逃げてください。

・基本は逃げてください。


・地下2階で最も注意する点は、周囲の環境をよく観察しそれに合わせた耐性エンチャントや装備変更を素早く行うことです。


・急に辺りが真っ暗になったりホワイトアウトするなど視界が奪われた際は要注意です。闇や光の属性を持ったドラゴンはそこにいるだけで人間の視界を奪います。不利な状態で遭遇することは避けたいです。検知を怠ると死にます。


・病や毒に関するドラゴンも生息しています。こちらに関しては治癒薬を全員が所持している状態が望ましいです。ブレスを受けなくとも近づいただけで状態異常を起こすので注意です。


・ドラゴンは常に1体で出現するとは限りません。


「と、このような所ですが何か質問はありますか?」


「役に立ちそうなアイテムはこのフロアで入手可能かい?」


「先ほど手に入ったバルログソードのような地上では滅多にお目にかかれないレアアイテムはドラゴンからのドロップで入手できます。この先のフロアで役に立つかどうかは言えませんが、ブレス攻撃を無効化する白竜の鱗飾りはこのフロアの難易度をいくつか下げることが可能です。もし入手できたならナナさんが持つべきだと思います。」


「蘇生役が一人生き残っていれば何回死んでもやり直しがきくものね。」


「ただしボクは死ぬと町に引き戻されてしまうので、その点は臨機応変にご対応ください。いざとなれば見捨てていただいて構いません。」


 そういった立ち話をしている途中で、うっすらと周りが肌寒くなっていくのを感じた。大方、氷龍が近づいたのだろう。アルテ一行は寒さの源とは逆方向に向かった。


 途中、避けられない場合のみドラゴンとの戦闘をして着実に歩を進めていった。常に周囲の環境に注意し長時間歩き続けることは精神を緩やかに削っていった。休憩は短時間しかとることが許されず、疲労は溜まっていく一方であった。


 地上では数日経過しただろうか、次フロアの階段が未だ見つからないことにパーティが苛立ちを感じていた。


 次に続く階段は本当にこのフロアにあるのだろうか。そう思えるような途方も無い探索は永遠と続くかのようであった。イルからは、見つかればすぐ気付くような階段であるとは聞いているが、それでもこの疲労感の中では見落としてしまっているのではないだろうか。


 次第に注意力も落ちてくる。イルを含め、妙に辺りが薄暗くなっていることに気が付かない。ナナの照明魔法が弱っているのではなく闇が強くなっているのだ。


「どうやら、闇龍のテリトリーに入ってしまったみたいだ。」

アルテが初めに気が付いた。


 暗闇はアルテ達お互いの顔しか確認できないほど辺りを包んでいた。ナナが照明魔法を強めたがさしたる変化はなかった。闇と静けさに身動きを取れずにいたかのように見えたが、たじろがず気配を読む者がいた。


 ハオは利き手を剣の柄に置き、空気の流れを感じていた。闇の中で蠢く何か、身体が暗闇の恐怖に蝕まれ初める。先手は闇の者であった。


 鋭く伸びるそれは、成人の脚ほどある太さだろうか。ハオが感じ取った気配の先から触手が飛び出てきた。一閃、ハオがその触手を切り落とした。目では捉えることの出来ないその光景が、一同の動作を促した。


 デルミーが触手の根元と思わしき方向へ火球魔法を放った。しばらく進んだその先で触手の主にぶつかり弾けて一瞬照らした。 深淵より産まれたかのごとく姿と言えよう。無数の触手がおびただしく絡まりあい、かろうじて竜の姿を模していた。


 「ドラゴフォルターです!近づくだけで命を吸い取られます!」


 ナナの術式が構築され、皆の体を光の膜が覆った。足元に蠢いていた先ほど切り落とした触手が、その光に照らされ動きを止めた。


 ドラゴフォルター。

寄生型ワームと共生したドラゴン。宿り着いた体を貪る寄生型ワームとドラゴンの類稀なる生命力からなる無尽蔵の身体修復機能が均衡している状態の魔物。ドラゴンの特性である身体修復は周囲の成分を使用して行使されるため、外環境に影響を及ぼす。生物が持つ生命力は効率よく竜体の身体に変換されるため狙われやすい。周囲にある光さえも吸収するため、闇を纏っているように見える。


 視界が這い寄る触手で埋め尽くされていく。触れた肌がナナの敷いた光膜越しに爛れる。


 「みんな!何かに掴まって!」


 デルミーが指示すると同時に風が巻き荒れた。暴風魔法テンペストの威力がにじり来る触手を跳ね上げる。ほぼ暗闇で掴まるものもわからずアルテとハオは手持ちの剣で壁に杭を打ち持ちこたえる。退却のサインをアルテが出すと一同は風とは逆方向に走り出した。この必死で稼いだ猶予の内に打開策を考える。


 ナナが不意に転倒した。本人は何が起こったかわかっていないようだった。


 足元に千切れた触手が絡みついていた。


 寄生型ワームは宿主と共生するため宿主を殺さない。そのため鋭利な歯も持たないし、体に侵入する際に痛みも生じさせない。静かに目標の体内に潜り込むために体から消化液と麻酔液を同時に分泌し、音も痛みも振動さえも発生させずに侵入してくる。


 そう、それは普通のサイズの寄生型ワームの話。ドラゴンを普段宿主としているワームは通常では発育しないであろう大きさまで成長する。消化液は竜体を溶かすために過剰に酸性が強くなり、生身の人間であれば角砂糖を珈琲に溶かしたように溶解する。そしてその穴から侵入したワームは普段と同じように人間を喰らおうとする。


 ナナの足を溶かしたその千切れたワームは本能に従い、足から体内に侵入を試みる。地獄のような光景が自らの足元で繰り広げられる苦痛はありながらも、ナナは足の付け根を手で押さえて辛うじて内蔵部への侵入を免れていた。


 そして小さく神に祈りを捧げ、自爆魔法を唱えて散った。


 暗闇が光に一瞬だけ塗り替えられた。



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