白熱のごとく燃える
アルテとハオが左右に別れて下段上段を攻める。宙に舞ったハオに炎帝のブレスが襲いかかる。
「チッ、こっちか!」
ハオは身を丸め刀身を前に、防御体制にはいった。刀身は光を発し、シールド状のバリアを展開した。ハオの武器特性のオートシールドである。
「なんつー威力だ!」
マグマさえ溶かす高出力ブレスにハオは白熱のごとく燃える。
その一方でアルテの氷属性斬撃が炎帝を抉る。好きなだけ抉ったその刃は炎帝にふかく刺さったところでそのままにする。
ハオが焼け果てた瞬間にナナの治癒魔法が完成した。幻影妖精がハオの体に触れた瞬間水分を失ったハオの体に生命が流れ込む。ハオはそうなることを知っていたと言わんばかりに体制を立て直した。
炎帝は一瞬の戦いの中で敵対する者たちが強者と読んだ。片足は傷は深いなれど巨体にこそ何ら響かない損傷であった。ブレスを受けきってなお持ちこたえたかに見えた剣士は後方支援の賜物であると言えよう。そうなれば滅さんとするは、奥に控える神官が最優先と判断する。
大きく真空を起こすほどに息を吸い込んだ炎の化身は眼前をすべて焼き尽くす吐息をぶちまけるべく、大きく前躯をのけぞる姿勢を見せた。途端、その下部から無骨に鋭利な氷柱が三本現れる。
「そこが弱点なのは知っている。」
デルミーが発現を保留していた氷結魔法を露わにした。のけぞった龍体の喉元で弾ける様に上へと延びる氷柱はあふれ出るマグマも物ともせずに龍肉を突き破った。灼熱の地にてこれほど見事な氷柱はかつて見たことはないだろう炎帝は何が起こったかを瞬時に把握することは不可能だった。
喉をつんざいた氷柱を確認したアルテは突き刺したままにした剣の効力を発動した。アルテが持っていたのは空間を切るという由縁のある魔剣であった。空間操作の類であるがそれはただ周囲の物体を無慈悲に吸収してどこかへ捨てる効果がある。たちまち炎帝の片足から胸部半分程が異空間へと吸い込まれていった。空間操作系の魔術は防御力や熱さ冷たさ何ら一切関係なくすべての理を一律に捉えて行使された。
炎帝の体内に滞留したエネルギーは流れ出る所からして流出した。空間転移されて嘘のように無くなった半身から塞き止める物もなく飛び散った。
「皆さんこちらへ!」
ナナが耐熱シールドを完成させる寸前に皆を召集し、デルミーが収容を確認して厚氷の壁を作った。
炎帝が輝きと熱を放って爆ぜた。無作為に流出したエネルギーが炎帝の核となる晶体と乱暴に反応し、一帯を溶かし焼くよりも早く焦がした。
氷魔法は蒸発さえすれど配給される魔力によって形を失いながらも形を保った。
数分後に放出が終わったとき、ヴルカノがドロップしたアイテムが現れ、終戦を告げることとなった。各々が安堵の様子で場が緩むとともに、炎の主が居なくなったため熱気も徐々に冷えていく。
「代わりの武器が運よく手に入ってよかったよ。」
アルテがヴルカノのドロップアイテムである剣を拾って刀身を確認する。ファルシオン型の剣先に行くほど幅があり片手で扱える重量である。鍔には武器を両手に持った悪魔が装飾されていた。
「おめでとうございます!それはバルログソードですね。地下2階でのレアアイテムです。火属性攻撃力が跳ね上がるだけではなく、火炎無効耐性までついてくる優れ物ですよ!」
アルテは苦笑しながら、
「魔王が火炎属性のモンスターであることを祈るよ。」
「皆さんは本当に素晴らしいです!ヴルカノを易々対処できるパーティはなかなかお目にかかれません。」
「それにしても、のっけからこんな大それたドラゴンが現れるとなるとこの階層は考え物だな。」
ハオが煤に染まった自身の武器を拭きながら言う。
「確かに今回はたまたま旅の途中で討伐したのと同じドラゴンでよかったけど、あれクラスがこの先わらわら出てきたんじゃやってられないよね。」
「たまたま今回はハオさんがこんがり焼けただけでしたけども、二人三人と同時に即死級の攻撃を受けられると回復が追いつかないかもしれません。」
「僕のお気に入りの剣も消耗品扱いで使い捨てちゃったしな。けど、僕らには心強い味方がいるじゃないか。」
視線がイルに集まる。
「イル、他にはどんなドラゴンが出てくるのか教えてくれないか?」
コホン、と咳払いをいしたイルは自分が知る限り地下2階層について説明を始めた。