ドラゴンの巣
地下2階に降りると、そこは灼熱の風景が広がっていた。
「マグマだなんて聞いてないわよ。」
「言ってしまうと呪いのルール違反でもっと酷いことになりますから・・・」
イルが申し訳なさそうに愛想笑いをした。
「さてさて、2階に到着お疲れ様です。ここはドラゴンの巣という名前が適切かと思います。遭遇するモンスターは炎龍に氷龍、その他闇龍に光龍とドラゴン系のオンパレードです。」
「この熱い環境で氷龍がいるのですか?」
「はい、ドラゴンとはその強大な存在故に長く場に留まると周囲の環境さえ変化を与えます。つまりマグマが見えるということは炎帝龍ヴルカノやイフリートドラゴンとの遭遇が考えられます。ここを離れるとまた環境が変わって別の属性龍と遭遇することでしょう。」
「ラスボス前となると中ボスクラスでもとんでもない奴が出てくるんだな。」
「いえ、雑魚敵並みにわらわら沸いてくるので基本的に複数同時に遭遇すると思ってください。」
一同は軽くフリーズする。
「とりあえず、今は皆さんに炎耐性エンチャントをかけておきます。」
そう言ってナナは女神が彫刻された杖をかざして詠唱にはいる。
「この後も環境が変わるタイミングでエンチャントはかけ直すことを忘れないでください。高レベルドラゴンのブレスをまともに受けると消し飛びますよ。」
ドラゴンと言えば、地上では一度出現すれば必ずと言ってよいほどの甚大な被害をもたらし、討伐隊が組まれ、懸賞金が山ほどかけられ、地方によっては崇拝の対象となる神災のような存在だ。そんな奴らばかりがこのフロアに集っていると聞いては、常人であれば頭の整理が追いつかない。
ふと、どこからかこの世の者とも思えぬ雄叫びが聞こえる。
「もう見つかってしまいましたね。」
デルミーは周囲に浮遊する氷塊を呼び起こした。後ろに隠れば少しばかりはブレスの威力を低減できるだろう。アルテとハオは武器に氷属性のオーラを纏わせている。龍属と言えども真反対の属性攻撃は有効である。
アルテ達はイルの見立てではごく一般の勇者パーティである。しかし、特筆すべきはメンバー各自が目を見張る高レベル者達であるということ。
過去には希なスキル持ちで構成された勇者パーティもあり善戦はしたものの、儚く散って行った。慢心による気の緩みか、破壊的な魔物との連戦による磨耗か。戦闘経験はこのダンジョンにおいて重要な攻略要素でもある。ごく一般的なスキルを限界まで鍛えあげたアルテ達は、国が討伐に乗り出すほどのドラゴンを正攻法で倒せる自信があった。
炎帝が姿を現したのはしばらく進んだ先であった。よりいっそう放熱量が増加し、ナナのエンチャントがなければ肌は焼けただれているであろう。軽装のイルでも汗一つかいていない。
炎帝が炎帝龍たる所以は、火を統べ炎を従え灼を使役するその規格外攻撃力にある。龍体からは常に火が吹き出してはまた取り込まれ、口からはマグマが絶えず滴っている。翼は現在地下であるため空を飛ぶことは出来ないが、ひと度飛来したあとの森は大火災に見舞われ焼失した。翼が仰いだ風は直接受ければ燃えるより先に熔解が始まるという。
炎帝龍ヴルカノの咆哮が轟き灼熱の戦闘が開始された。