プロローグ
世界には魔王と勇者がいた。魔王は世界を手中に収めるべく目論む者。勇者とは魔王を討つ者。これからするのはそんな世界の話。
魔王は魔族を統べるものであるが、勇者は人族から選出される。人族は身分を自ら設け、人と人とを区別した。低い身分を与えられた者は高い身分を欲し、高い身分を与えられた者はさらに高い身分を欲した。底を知らない欲求の結果、世界を魔族と人族で二分していた均衡さえも崩さんとする程にまで人族は傲り高ぶった。
人族は魔族の領地を我が物とせよ命じた侵略者に、勇者と名付けた。真の平和のため、安息の地の実現、永く続いた決戦の終止符。動機の言葉は時代が移り代わるごとに違えど、本質は殺して根絶やしにせよと言っていた。魔族の象徴である魔王を踏みにじる事でしか実現しないであろう絵に描いた桃源郷を、求めること自体が生きる価値の時代であった。
魔族は人族より長けた能力である魔力を駆使し、防衛戦に傾倒した。要塞を構え、中心に魔族の王を住まわせ、人族の侵略を拒んだ。
人族は魔族より長けた能力である繁殖力のあるがままに、圧倒的な配給力を元に要塞を攻めた。魔王が住まう難攻不落の要塞はやがて魔王城と呼ばれ、すべての戦いや旅の終着点という意味でまたの名をラストダンジョンと名付けられた。
ついに人族はラストダンジョン付近まで、小規模ながらに街を発展させた。その街では今日も死地に赴く人々と、それを見送る人々が生活をしている。
この話はそんな世界観の話。