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ヲタ村ダンジョン  作者: KOJHIRO
EPISODE 2 After
8/24

トカゲ男の巻

 視界に入るリザードマンはあと数体しかいない。人間より体躯は大きく,がに股で槍を武器とするためかお互いの距離を取り密集することはない。それに幅が広いとはいえ通路だ。順当に手前から倒していけばいい。ただ最後尾に弱体化していない奴が下がって居る。他よかすこし大きいかな。

 手の痺れが改善したので再チャレンジだ。


「ウィ行きまーす」


 身体を低くして薄いランドセルのベルトをぎゅっと握る。上部の左右には各々一本づつのグリップが突き出している。下部から伸びる排気管に火が点く。

 後ろに回した脚で地面を蹴る。脚にはローラーブレードを履いてるのだ。トカゲ男には初見の動きだろう。既にシッポを斬って弱体化させているトカゲ達を左右に躱してアイツに迫る。


 トカゲの表情なんてわかんないが近づくわしを見てにやっとした感じがした。

 移動速度と見慣れぬ動作に面食らっていたようだが,性懲りもなく真正面から突っ込むわしに落胆したようだ。前回と同じ位置に来ると横に振るってくる槍。


 学習してないと思われてるな。でも一騎打ちだから正面突破だ。身体を縮めて前屈を強める。

 歯を食いしばりランドセルの上部から伸びるグリップを握り指に当たる出っ張りをクリックした。


「壱式ロケット号フルスロットルっ!」


 ランドセルの下部,底面に後方を向くようにノズルが出ていて,ここからジェット噴射が始まった。

 暴風マスクをしていない口腔に空気が入り人目にさらしたくない顔になった。ぷんぷんだぜ。

 ほんの僅かな距離。僅かな刹那,加速したわしは奴の股ぐらを顔面に見据え,グリップを捻るとその頂部から口径こそ小さいが連続した銃弾がトカゲめがけて射出を始め弾はトカゲの中に吸い込まれていく。


 20センチ幅の銃痕を残して,股ぐらの先にあるシッポ底面まで続く銃撃も噴射もピタリと止まる。緊急用だから短時間で自動停止するのだ。

 それでもわしの勢いは活きたままだ。前面に迫る床まで垂れたシッポの下を頭上でクロスしたダガーで対応する。


 耳障りな音を立てて,鱗を弾いていくが推進力がなく先端に到達しうにない。

 手に伝わる感覚で違和感を察知し床に仰向けになった。ごろりごろりと回転した。すぐそばを槍の穂先が空を切る。目の前に切り損ねたシッポの先端が通り過ぎていった。


「っ,ぶねー」


 身体を起こして奴を見ると気のせいだろうか「やってくれたな」な表情に見える。それとよほど興奮してるのか,股間から普段外気に晒さないモノが突き出している。われもかよ。


「こっちは終わったから,助太刀いたそうか」

「ありがとー大丈夫ぅ。一人でやりたいんだ」


 ポンには感謝だが,獲物は譲れない。こいつはシッポ斬りでとどめずにキッチリ殺りたい。

 ローラーブレードで走り出し,何度か回り込もうとするが背後は勿論サイドもとらせてはもらえない。右腕で根元を持ち,槍をぴたっとこっちへと向けている。


 わしは両肩に八の字とお腹の横一文字になった三カ所止めになっているランドセル外して頭上に掲げた。動きにくいが今度はグリップをしっかり持って,隙をうかがう。

 銃撃で股関節を痛めつけたはずなのに正面にむき直す。やはり口径が小さくて攻撃力としてはオマケ程度だったか。

 まだ距離はあるが槍はまっすぐわしの眉間を貫くように構えられている。ならばとなおさらと今回は回避でなく接近に,壱式ロケット丸で加速する。


 トカゲは『バカかこいつ』と構えを解かない。分かるぜ。わしもバカが相手なら速く済ませたいモノな。


「じゃ,こーゆーのドオ?」


 飛び道具は卑怯かもしれないけど,膂力で遙かに劣るわし。グリップを操作して顔面に向かって機銃掃射を始めた。トカゲにとっては想定外だったのか,槍を持っていない腕で顔面を庇う。腕の堅い鱗に阻まれて効果は低いが,一瞬の怯みを見せてくれた。

 ランドセルから手を離して,わしを貫こうとする槍の上からそれに沿うように手放した。同時に左足を曲げながら姿勢を低くして進行方向を急激に変え槍から角度をとる。


 トカゲはわしという去る危機よか,迫るランドセルという危機を祓うべく槍で下から弾こうとしたがそれは悪手でしかない。ベルトに絡まれ,気づいたときには支える腕にダメージを増加させていく。

 咄嗟に武器を手放したが,攻撃が集中した指先はもう握ることは出来ないだろう。


 敵を見失っていることにやっと気づいたトカゲは怒りに咆哮する。直後,自分の負けを認識した。股間から両肩へと上がってくる『斬られた』と言う感覚。目の前で笑顔を見せる敵。


「トカゲの三枚おろし完了っ!」

 着地したわしはダガーに流していた魔力を切り,両腕を天高く上げた。

 トカゲは左右の肩から股関節に架けて切断され,真ん中には頭部からシッポが残りまるでヘビを連想させる。魔法を含め特殊なスキルを持たない限り,戦闘続行はムリに近い。濁って小さな呼吸音だけが聞こえる。


「おみごとっす。止めをささないっすか」

「んー,アノ状態で放置は悪趣味で残酷だけどねー,ちょっと気になって」

 少し考えて,終わったから二人を呼んでくるように頼んだ。


 わしは飛んでったランドセルを拾ってからトカゲのそばでしゃがんだ。

 虚ろになりかけているが,闘志は完全には消えていない目でわしを見た。


「喋れるんでしょ」

「(しゃーーっ)」口を大きく開けて,青黒い舌をチロチロさせてみせる。

「ごまかさないで」

「ドォシテソウオモッタ」

「さっき『ウガー』っする前に小さい声だったけど『ドコイッタ』って聞こえてたよ」

「フッ。キコエテタカ」

「引き出し少なくてごめんね」

「マサカイルトハオモワナクテナ」

「ところでさあ,名前なんて言うの」

「ナハ,ステタ」

「『ナワ・ステタ』さん?」

「チガウ,ソウジャナイ・・・」


「言いたくないのは分かったけどさ,ここのフロアリーダーでしょ」

「ナゼ,ソウオモウ」

「なんとなくチガウなーって」

「ソウカ・・・」


「他にもイロイロ聴きたいことがあるけど,最後に一つ」

「ナンダ」

「下へ降りる階段が閉じちゃってるけど」

「おれヲコロセバ,スグニジドウデアクゾ」

「ちっちっち。倒さなくても開けられるんでしょ」指を振りながら否定する。

「オミトオシカ」

「でもないよ。他のダンジョンの経験からそうかもって思っただけだよ」

「ミカケニヨラズ,サカシイトハカンジテイタガ・・・ソレホドトワナ」


 言われて,にまっと笑った。

「経験豊富なものですからぁ」

「ミトメヨウ」

 奥で動作音が聞こえた。

「コレデイイダロウ。サア,ハヤクラクニシテクレ」


「ちゃー,ムゴい」

「同意」

「いいから先行っててよ」

 しっしっと三人を階下へ行かせてからトカゲのナワ・ステタに向いた。ひつこい? よねぇー。(-。-)y-゜゜゜


「じゃ覚悟して」

「・・・」

 ランドセルから取り出した液体を一口飲んだ後,無言のリザードマンにジャバジャバと振りまいた。

「しみたらごめんねー」


「ナニ! ナンダコレワ?」

「特性の回復ポーションだよ。普通の癒す効果を高めて,軽い再生もするんだ。死なない限り元通り」

「ナゼソンナモノヲ?」

「したかったからかな。人以外に使ったのはハジメテだけどね」

「バカナコトヲ」


「モウイチド死アウカ」

 指も含め元通りの身体になったリザードマンは,槍を引き寄せわしに向けた。

「まさか。そんな気なんて無いでしょ」

 にまっと笑う。

「タシカニ」

「じゃねー」


 リザードマンは,去っていくこの変わった人間と古い友人とを重ね合わせていた。


 わしは階段を下りてきながら,持続効果が高すぎる試作品で,ウリである再生効果がしばらく続くことを伝えてないことを思い出した。

 身体が大きいから沢山振りかけたけど,適量なんてわかんないし。まっイイか。



 その後の数週間,6層目のゲートキーパーは不倒のリザードマンで,力を認めさせないと先へとは進めない。『適度』のラスボスよりも強いと流れた噂をウィは知らない。


 ここまでお読みいただき,ありがとうございます。


 ダンジョンマスターとなった男とゲートキーパーになったリザードマンの物語は,別な。(^_^)


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