ふっ オヤクソクはいらないぜ
疲れ果てて床で大の字に身体を広げるポン肩に手を置きねぎらう。
「よくがんばったね。お兄ちゃんの死は無駄にしないヲ」
「ああ。ボクの屍を越えてドコまでも天高く・・・ガクッ」
ヘドが出るよな寸劇を終えてドロップ品を回収してから通路に戻ると,凍らせた床が溶けかけて動き始めたヘビがチラホラ。軽くかけ直して,MPグミを口に入れる。
これ,飲み込むには少し大きいんだよね。冷やしたのは食感が増していいんだけど,喉をつまらせて息が出来なくなったら困る。少しずつ噛ったり噛んだりして小さくしながら飲み込んでいくと徐々にMPが回復してきた。
スタミナにも関係するMPを温存するため柄の長い槌で叩きながら進み,曲がり角に差し掛かる手前でわしとポンは手を止めた。
順路の反対側の壁の中央に角度の付いた出っ張りがあり何かが当たったようなへこみがあるのだ。
相手にどおぞとするが,あっちもいえいえそちらこそどうぞとジェスチャーする。
「「じゃあ ご一緒に……」」
横に並び,一歩一歩ぎりぎりの角まで進んで,首をくっと突き出すようにした。
丸い石が一つある。こころもち,ゆっくりと,確実にこちらへと加速しながら転がる。
「「お約束はいらない(っす)」」
わしらは走り出した。すこししてドスンと真後ろから衝撃音がした。振り返らなくても壁に当たったのだろう。確認しなくても角度を変えてこっちに転がるのは明白。
歩幅の違から,下僕ロールを解いたポンに後れをとりだした。風魔法で身体をはじいて前に追い越しにやっと笑ってみせる。
あ,このやろうつ! ピッチを上げてダツシュして来やがった。
わしが残り少ない魔力を絞ってつくった勝ち代を縮めて横に並ばれた。それ以上に,背後に迫る振動と威圧感に思わず一言が漏れる。
「タマが縮こまるぅ」
「えっ?」
ポンが返すので,誤魔化する。
「後ろの球との距離が縮まってるって言いたかったのっ。あの部屋へ飛び込もう!」
げっ。部屋は石の扉で閉じられ,わずかな窪みしかない。
「「逃げろ-」」
わしらは,ナナ○とウィに叫んでから,へこみに背を当て体育座りの姿勢でやり過ごすことにした。
そう,あのタマブクロがぎゅっとカラダにめり込む感じで,目の前を通り過ぎるのを待った。ひたすら待った。
膝に力が入らねえ。
転がり出たわしは同じように這いながら出てきたポンに捕まり,ナナとミィに向かった,石の球は二人の手前で粉々に砕けていた。
「音はしなかったよね」
「サイレントでもかけてたっすかね」
「で,あの塊をどうやって・・・」
解明しない疑問の存在も容認できなきゃ長生きはできない。
「わしはこの先を見てくるから,ポン○は二人を・・・」
魔力が枯渇したわけでないが,身体が重い。あっそうかとオムツを外すととたんに身が軽くなり,早く気づくべきだったと鼻歌交じりにスキップしながら後悔した。まるでナントカ養成ギブスを外したみたいじゃないか。
湿った感じから直接空気に触れて,なんか気持ちいいぞ。
件の角にやってきた。迫り来る石の塊を見て一目散に逃げ出して,その背後のモノを見ていなかったから,わくわくだぜい。
うそです。
内角ギリのところで覗く。そう「メイドはミタ」のアノ状態だ。
右足を一歩後ろへ引き,両手を口に持って行って叫んだ。
「まだ来るゾー」
わしは,外角の隅にへばりついた。床の中央は少しへこんじゃ居るが,わしの体格なら隅にさえいれば,やり過ごせると1個目で確信していたのだ。むしろこの位置だと,ナニがあるのか分かる。
結局,石の球は4個転がり,いずれもナナ○とミィの手前で消えていった。ポン○は2個目に潰されることもなく,ナナ○達のところで崩れていた。まぁアノ体格で全速力出したんだものな。
んだとぉ!? 転がる石の洗礼が終わると,ホブゴブリンが舌をダラーンと垂らしながら隊列を作って進んでくる。部屋ネタにしとけよっ。
ゴブリンの体長が平均して1メートルで,ホブゴブリンになると1.5メートルだ。オークは2メーター越えがざらとなる。
「なんなんだよぉー。その腰蓑から突き出してるソレはよぉー」
わしが無くしたモノをこいつらはこれ見よがしに見せつけてくる。その行為にわしのナニかがキレた気がした。なにより自分の背後には相方のミィと仲間であるナナ○がいる。ここはわしが踏ん張るトキだ。
最前列は,特徴のない数匹が武器を構えている。後方には石投げと魔法を使う連中がいる。少しランクが上なのか腰蓑でなく布を巻いていたりする。後衛のモーションを見極めながら,駆け出しリーチ不足と低い膂力を補うため両手のガンダガーに魔力を通す。
飛来する石と攻撃を左右に避け,持つ者へお仕置きしていく。壁を蹴り天井を駆け,わしは一時だけ『子離れ推進委員』となって蹂躙する。うん,ヒットガ○ルのようにね。
最後に残った人語を話す個体が呻くので,応えてやる。
「オノレー,殺ス」
「だが断る」
張り詰めていた感覚を両手をダラーンと垂らして力を抜くが,逃げ場のない殺気が背後から迫った。
「残しといてって言ぅーたよな」
「いゃーあのー,楽しく談笑中なのでね。ザコなんかでお手間盗らせちゃ「なぁー…」,はいっ」
「帰ったら,次の日は人形と抱き枕な」
「はいっ。上官殿」
言っておかなければなるまい。『人形』とは,ナナ○とミィの着せ替え人形になることで,進化すると『マヌカン』で,その格好で店番をすることになる。さて『抱き枕』は,ご想像のとおり,指定のコスで二人に挟まれ添い寝することだ。さてこれが進化すると『洗濯抱き枕』で,二人に風呂場で『えっそんなところも』な十としてらんないトコまで洗われてからの『抱き枕』なんだ。
えっ役得だって? 罰ゲームですよ。確かにナナ○さんは腐女子ってだけの美形ですし夜も嫋やかで天国ですがね,反対側がアレなんですってば。寝言で毒づき,爪でつねられ,ひっかかれ,突然のエルボーとケリ。噛みついてきたりと,夜型体質のわしは眠れなくて,朝には心身ともにボロボロですぜ。回復魔法が使えるからまだ,助かっちゃいますがね。
なんとか一歩手前で留まってくれたが,気分が重い。魔力も殆ど無くて,スタミナも切れている。ドロップ品を回収しながらとぼとぼと3人の所へ移動した。
心の中で「わしは,みんなを守ったんだぞ」と叫ぶ。
襟首を引っ張られて進むわし。頭の中てドナドナなリズムのBGMが鳴っている。
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