おまえはオカンかっ えっ母親ゆずりですと
ポイントカードを各々に渡し説明をする。
「会員カードも兼ねてて銭湯とかの施設が使えるようになるんだって。ポイントたまると粗品に交換できるし対応してる他のダンジョンもあるみたい」
他ってドコなのと素朴な疑問をぶつけられた。
「ここが1号店で,近辺にはないって」
ずっこけてくれる3人。
ブザーが鳴り,ポン○に応援を頼みカウンターに行で,呼び出し端末を点滅するランプの下のスロットに入れるとシャッターが開いて注文した物がトレイにのって出てきたので,わしとポン○が手分けしてテーブルに運ぶ。
ポン○はコーヒーにイチゴショート,ナナ○はミルクティーにパンケーキ,ミィは特大のチョコバフェでわしはミックスサンドだ。
アイテムボックスから取り出した柑橘ジュースで喉を潤してまだパフェに挑むミィを確認してわしはトイレに走った。
ズデッ。
いつの間に仕掛けられていたのだろう,わしの足首には縄が括られポンの椅子に絡まり端はミィが握っている。
「ちゃー,どっちに入るかわかっとぉーな」
「イエス,マダム」
わしはゆっくりと縄を外し,しずしずと赤い●と▲のマークのあるほうへ向かった。
「どっちでもええやん」
ふてくされていない。ただミィが固執するのはナゼかと疑問するだけ。便座上にフル○ンで,ふんばりンコ座りをしながら考える。ミィがヘンなとこに固執するのは母親譲りだなと。
とくに現世(リアルワールドの省略形だよ)の自分とスマホを介して連絡を取るやり方を教えてから,風当たりが特にひどくなった。また現世のわしが現世のバストのことで弄ったことをチクってきたのだろうか。
後ろ向きになって,カバーを掴んで放心しながらハァーと息を吐くと水面から風情のある水音が聞こえてくる。音がしなくなってから,半身をそらしてロール紙に手を伸ばしたが届かないので「んしょ」と降りて脱いだままの蛇腹状になっている下半身のアーマーを付けると,背伸びして内側ロックを開けた。
ドアを開けるとミィの顔があった。まずいと感じたわしは即ドアを閉めようとしたが,足を挟んで中に侵入してきて首でつり上げられてしまった。床から足が浮いてます。それよか息ができましぇーん。
「ちゃー,拭いてない。紙が三角折りのまんまやもん」
床に降ろされたわしは直立不動で,履いたばかりのアーマーを剥ぎ取られ大股開きに下半身を晒されて,カラカラと音を立てて巻かれたトイレットペーパーで股間を辱められてしまった。この感触が嫌なんだ。
「流しとれへんし,次に来た人に迷惑掛けるでしょ」
「ちゃんと流したし」
「嘘ぉー言われん。この色は何なん?」
「それ洗浄液の色がたまたま・・・とちゃうかなぁー,あはは」
「ふーん」
細い目をしてわしの足を蹴り始めた。これはまずい。身に覚えのないことまで不本意だが謝るわし。ヒールは自分で掛けた。
着崩れたわしのアーマーをチェックするミィに,最近へんに世話を焼かれる。昼の光に弱いから遮光性の高いフード付きマントを羽織るからどおでもいい普段着までもチェックをするし,小言が増えるし,妹かペット,または着せ替え人形ぐらいに地位が低下してないか。すこしは敬えよ。まさか百合指向か。アブノーマルな世界は反対するぞ。阻止するぞ。かといって異性と付き合うなんて許さないんだからねっ。
4人の準備も整ったので,順路に従ってさらに薄暗さを増した階下に降りると,初っぱなからオークと遭遇した。
木の棍棒と鍋ぶたみたいな木の盾。防具は腰蓑ぐらいで,裾から汚いのがぶらぶらしているのが見える。デケえな。少しだけ敗北感を味わった。
「一人でやらせて。ムリそうなら援護ヨロ」
オーバーキルになるかどうか,試してみたくて駆け出した。少しリーチが欲しくて,いつものダガーじゃなく背中のショートソードを抜きながら接近する。
棍棒が床すれすれで風音ともに迫ってきた。躱して左へ跳びその勢いで側壁を蹴り高さを稼ぐ。勢いのある棍棒はすぐには引き戻せないはずだ。身体を捻りながら棍棒を持つ腕に勢いを付けて剣を振り下ろす。
堅い。負わせた傷が浅い。わしの力不足だ。まだ陽が高いのだろう。
着地し,頭上から迫る棍棒を見て剣に魔力を這わせがら空きとなった足の間を剣を両手で振り上げたまま跳ぶ。離れているが正面に口がU字に歪み,内股でぎゅっと股間を押さえているポンの姿があった。
ナナとミィは目を合わせてくれない。まっ斬力上昇の確認ができただけいいか。
振り向き,魔力量を増やして長さを伸ばして,床に赤黒いシミをつくる股間に迫るが,盾をあてがってカバーに入り棍棒を斜めに振り下ろして・・・うまく誘いに掛かってくれた。風魔法で直進する自分をオークの棍棒と腕に沿う形で上へとはじき飛ばし,攻撃をされにくい位置捕りで首を狙う。
時間がスローに感じられる。首に吸い込まれたかに見えた左に持つ剣は噛み砕かんばかりにオークの顎に挟まれていた。
再接近して通過する。オークはニヤリとしてわしを睨む。
ダガーに魔力で作った剣身だから噛み砕くことなど出来るはずもなく,魔力抵抗の低いオークの上顎を切り裂いていく。それに右手に持つショートソードはしっかりと心臓を貫いていた。
視線を交わした後,背後に降りたわしは振り返らずにさらに奥に出てきた2体のオークへ走った。
手応えから先のオークのレベルは10~13ぐらいで,わしは24。昼間で後衛職なスペックのわしは,膂力不足で剣士としては討ち負けるが,魔法を併用すれば充分対応できることを知っている。
剣と魔法の『魔法剣士』の職種になりたいんだ。ステータスチェックを怠ると称号が『月光の巫女』で職種が『巫女』になっていたりする。わしは渋さを備えた,ちょい悪親父が目標なんだ。
左右に横並ぶ2体のオークの武器は棍棒に棘が付いたのと,金属の戦斧になって,盾は木だが金属の縁で補強されている。身体に防具は付けず腰蓑だけでアレをぷらぷらさせてやがる。これ見よがしになんて奴らなんだ。
あと,3,2・・・お互いの射程内だ。
「突」
西遊記の如意棒をイメージして,両手の剣をバンザイのように前へと伸ばす。
のど笛を貫き,断末魔とともにドロップ品に化ける。
まずっ。
背後からの殺気に無いタマタマが縮み上がった。あとオムツの中がほんわか暖かくなっただけだ。早めに取り替えないと動きにくい。
「ちゃー,一匹だけにしといてよ」
「独り占めは良くないっす」
「同意」
「スミマセン 手応え無くて,止まれませんでした」
わしは素直に謝り,奥を指し示した。
「あいつらはお任せします」
補正で暗所が少し見えるわしは,通常視力では見えにくい蠕くモノを捉えていた。
「えっナニ?」
「ん,ヘビ。そりゃもう沢山のだよん」
ギャーと叫んで背後に回る女子達。ミィさんや背中に食い込む爪が痛いです。でもアーマーの隙間から手を入れてくるなんて器用ですね。おじさんはその技術を現世の満員電車の中で使ってみたいなどとこれっぽっちも思っちゃないですからね。ええ,本当に。だってこれまで立体には辛い思いしかしてないから,二次元がいいんだ。(T^T)
それでも冒険者かよとツッコミ入れたい気持ちでいっぱいのポン○とわしは道を開きに行った。
毒ヘビかもしれないとポン○に伝える。
ポンは○ヲタ芸で奮戦しているが,さすがに量が多すぎるようで苦戦している。フォローに行こうにもミィの爪ががっちり食い込むから,ヨタヨタとしか歩けない。いつから心まで女子化したのよ。
一直線なら,炎を走らせて一網打尽を狙うが,途中で脇道があったり曲がり角になったりして全貌が分からない。その前に距離が離れすぎていて魔法が届かない。緩やかに登り気味に傾斜していて,時間が掛かると足に来るかもしれない。
爪圧がすこし緩まったので文字通り身を切って抜け出した。痛ぇー,このままだと跡が残るな。
ずきずき痛む背中はこの際後回しで,ポンの横に立ち声を掛ける。
「待たせたなあ」
「それほどでもないっす」
床一面のヘビをゆっくりとだが丁寧にポンラインを進めて行ってるが,中には動きの速いヘビがポン○ラインを突破しかけると足で踏むなり対応していて,速度が落ちている。
「冷気をぶつけて動きを鈍らせようか」
「お願いするっす」
「おしっ『クールカーペット』!」
冷えた空気をまず放ってみた。この程度じゃ即効性は低いか。ならばと近場だけでもと『フリーズフィールド』を連発してみる。低温で活動を鈍らせるというよか凍り付かせたわけだが,こっちはモロだものな。
氷を溶かさないようにポンは踏んだり棍棒で叩いたりと潰していく。わしは炎系以外で『ウインドカッター』とか柄の長い槌を振り下ろし無双し,前線=凍結域を進めていく。
直線が途切れ,交差点に差し掛かる。ブラインドからの伏兵は定番だからと一気に交差域を凍らせた。
「わし左,ポンは右でいい」
「桶っす」
わしが覗くと部屋になっていてオオカミとゴブリン種だらけだった。身体の大きいのが多数混じっていてリーダー格よりも大きいのが混じっている。ジェネラル格か準じているか……いち早く気づいたライダーが向かってくるので迷わずファイヤーストームを放つ。黒こげだろう。持続させて,右へ左へとまんべんなく振って炙ると身体の小さな個体はそのまま逝ってくれるが,身体の大きなのは致命傷にならずに火の付いたまま飛び出してくるのでアイテムボックスから,可燃性のムシ油を取り出しては投げつけた。
ゴブリンもアーマーでなく腰蓑派が多いのか飛び出してくる奴らは,むき出してわしに飛びかかろうとしている。オークと違ってゴブリン種との体格差的にわしもターゲットゾーンに・・・目がこわいよ。まだ始まってないんだぞ,なんて聞く耳なっしんぐだろうな。
我が身のデンジャラスさをセンスして,導き出したシンキングは,殲滅決定じゃーっ!
「ちょっち休憩だ。そのまえに・・・」
焦げた臭いに咽せ肩で息をする。『クリーン』を一帯に掛けて,ドロップ品が出てくるのを待った。
パーティで挑んでいるときにだけ利用できる,専用枠のアイテムボックスに回収しているとやっと息が落ち着いてきた。
魔力の使いすぎで身体がだるい。
部屋を出てナナ○とミィを見る。どうしているというと携帯椅子に腰掛けて女子ト~クの真っ最中だね。そんな場合か?
いや,見なかったことにしよう。関わらない方が,危険が少ない。
ポンが居るのも部屋で,コボルドやらムシの死骸の山が出来ているがまだ戦闘は続いている。見るからにキレが悪い。ここは一つ,奇跡のブーストを起こさせるか。
「ポンお兄ちゃーん カッコイーヨー」
棒読みの詠唱だ。がしかし「うぉっしゃーっ!」の雄叫びとともに闘気を漲らせて,「お兄ちゃんを見ててねー」をスイッチにラッシュモードにチェンジアップした。
反面,わしは全ての誇りを身体から失った気がして床に手をついた。止めどなく目から汗が溢れてくる。
「あっこの床ベタベタする。『クリーン』!」
不潔なのは,おっさんでも×だ。
ここまでお読みいただき,ありがとうございます。