アトラクション施設ですかね?
「終わった後は,ちゃんと拭いてからよ」
「……はい」
非情にも棺の扉が閉じられた。
オシッコは座ってするよか,小便器にしたい派なんだよ。ただ,まあ,この身体だから狙いがはずれるだけだ。それとあとを拭くなんて作業が解らん。ちょっと勢い付けて振ったら終わりだろ。
便座に登りにくいし、輪っかの中に落ちてしまいそうで不安だし。
それと脚から抜いて下半身をすっぽんぽんに脱ぎきらないと,またげないし。
こゆーとき、低年齢なお子様用のキグルミは一人では排泄しにくいんだよな。
しばらく脱力して開放感に身を任せた。
ふうっ。やっぱり残尿感があるんだよね。
今まで履いていたオムツを汚物入れにポイと投げ入れて新しいのに履き替える。
きゅっと引き上げて、中に手を入れて定位置の右へ振ってと・・・息子はいなかった。
親離れしたってことだ。遠い日々を思い出し、パックのミルクを飲むわし。じゅるじゅるとストローが鳴る。
キグルミはやめて火竜の革素材でつくった赤い素敵なリ○レウス装備風に着替えた。
ふふふふふ,赤は3倍速いのだよ。(当社比)
手を洗って出てくると,外へ続く通路から10人あまりの傭兵らしい集団が入って来て『適度』の扉へ進んでいく。フルプレートとかじゃないが,兜状のヘルムに頬当てとか人相が分からない得体の知れない連中だ。
チラ見する気配を感じたわしは後ろから『TUTORIAL』の扉前で待つ仲間へと急いだ。
ミィは薄い桃色のリ○レイア風の装備だ。くそっレア種かよ。
「お待たせしました」
ぺこりと身体を折る。
事務さんによるとこの『TUTORIAL』は,モンスターの出てこない2階構造で,壁に幻影魔法が掛けられていて進むと,階下へと降り,一本道の通路を進むと重厚な扉があり,その奥には仮想ボスの部屋になっている。転送陣があって魔力を流すと広間の中央に出てくるそうだ。
因みに攻略者の話から次の『簡単』は4階耕造,『適度』では8階耕造で『困難』は9階層までは確認されているそうだ。『困難』がまだ攻略されていないので『特別』は誰も入ったことがない。
扉を開くために魔力を流すのは,パーティの一人でイイ。傭兵の団体が整列したまま扉をくぐっていくのを見ながら、わしが代表して,扉へ手を当てると,何かが吸い取られる感じがしてわしらと扉をすっぽり覆う結界が張られた。
ゆっくり扉が開き始めたので、首を振り返し声をかける。
「んじゃ,行きますか」
「「「応」」」
内部に4人が入ると後ろで扉が閉じた気配がした。今度は振り返らず、薄暗い通路を進むと、少し先の壁が光っている。進行方向に合わせて左右に同じような具合の模様が描かれているようだ。
近づいて光る壁の目的が、わかった。
幻影魔法だというから、どんなのだろうかと期待していたのだが、わしには見慣れたものでしかない。
そして模様ではなく、ところどころ彩色している線画と日本語で書かれた説明文だ。
「バックライトの透過光な地下鉄でよく見るパネルだね」
なんのことはない、ダンジョンご利用の注意とか適用されるルール、マナーなどを説明したトリセツだった。通路は一本道だが,直線でなく,曲がったりしている。
『ご利用は計画的に』と書かれたパネルが最後で,階下に降りていくスロープと階段があった。
ご丁寧に,スロープへと切り替わる直前の床に,あの車いすを連想させる青いマークのプレートが床に埋め込まれている。
「なんなのこれ」
「日本人向けのアミューズメント?」
「「「・・・」」」
まさかねと全員が思ったことだろう。
頭に疑問符を浮かべながら,階段を下りていくと明るい通路に出た。
上の階とは比較にならない短さで,大きな扉の前にたどり着いた。
少し手前の左右の壁には,見慣れたものがある。
「また説明プレートがあるよ」
黄色い三角マークに,『i』がある。
『この奥が,ステージボスの部屋になっています。この通路は,セーフティエリアになっているので,体力及び状態異常の回復,装備に不備はないかなど休息をとる場所として使用してください。何らかの理由でリタイアを望む場合は,横のインターフォンでスタッフをお呼び下さい』
スタッフって……なによそれ。
苦笑いを浮かべて,わしらはボス部屋に繋がる扉に用意された『ご用の方は押してください』を押して,自動で開いていく光景を眺めていた。
中央には,10センチ角で50センチ長の角材が十字に組まれて,台座となり,3~4センチ角の棒が立てられて,一メートル辺り伸び,幅30,縦40のベニヤ板(?)が取り付けられて,板には黒く太幅な同心円が3本と中心に真っ赤な円がある。
これは説明いらねーな。わしは駆け出した。
「もーらいっ!」
高さを稼ぐためにジャンプして,背中に担いだ,ショートソードの柄に手を掛けてそのまま抜いて振りかぶろうとしたところへ,斜め背後に回っていたミィが放った魔弓の矢が的を射貫いていった。
空振りに終わったわしは,着地してミィを見ると親指を突き出してドヤ顔をしていやがります。泣いてなんかいないぞっ。
元世界からの情報で,ミィの兄が進学して和弓のサークルに入ったとかで,弓に興味を持ったミィはナナから手ほどきを受けて,実戦でも使うようになっていた。
わしも飛び道具が欲しいぞ。あっガンダガー持ってたの忘れてた。
仮想ボスだった的は台座ごと光りの粒子に変わり,消えていったあとに透明の小袋に入った飴玉が4個出てきた。
ドロップ品の飴玉袋を各々が持つと,人一人がくぐれる大きさのアーチが出てきた。
あー空港で搭乗チェックするときのゲートぽいの。
「くぐれって事なんだろうな」
「ググれ?」
「ちゃう,あんなかを通り抜けるってこと」
「ふーん」
わしの台詞にボケを返してくるミィさん。
出来る娘なのか出来ない娘なのか,心配だよ。
実演のために,一番近い位置のわしがくぐり,引き返そうとすると見えない壁で戻れなくなっているが,不安感はなくてミィを手招きした。気づけなかったがサーチとかされたんだろな。
トコトコとやってきて,さっと避けて脇を足からスライディング……ゲートが広がって,すんなり吸い込まれた。
ミィは膝を着き,ガクリのポーズになって床を叩き始め,広くなったゲートを次々と潜り抜けてきてポン○がたたせるまで続いた。
「思うとおり出来なかったからって,物に当たるもんしゃないっす」
「うん。そうだぞミィ」
「足が痛くなるから,もう止めるでござるよ」
あっいゃ,床を足でゲシゲシやっている姿はスルーしてやんないと。飛び火して八つ当たりされるのがこわいんじゃないですよ。あとで修理代とか,言われないかな。
床に少し亀裂が出来たと同時に光る転送陣が床に浮かびわしらは『簡単』の扉の前に転送された。
あれ?広間の中央に転送されるんしゃなかったっけ。事務さんにあとで言っとかなくちゃ。
目の高さよか少し上にある,カウンターの横に増えた項目と数字の変動を見て,こんなもんなんだろーなと納得。
「ネクストステージ おーけー?」
「「「応」」」
扉に手を触れると便乗できないようにか周囲に結界が張られて徐々に開きだした。
これは『TUTORIAL』でも同じだったな。
各自自分の装備を確認して中に入る。ゲームと違って,武器は幾つも持てるから,わしは両腰にガンソードを短くしたガンダガー,背にガンソード(比率で言えばわしが持つと大剣になる),あとパチンコ(スリング)だな。アイテムボックス持ちだから,他にも出せばあるけどとりあえずはこんだけだ。
ミィは左手首に魔弓を折りたたんでいるのと,やっぱパチンコ。ナナ○は背に長弓と,腰に細剣。ポン○は,斧槍と光る棍棒を両腰。以前ポンは,細めの棍棒をヒモで繋げて『アチョー』とか『ヒャアーアー』とか低くつぶやきながら振り回していたこともあったけど,どうも納得のいく姿にはほど遠かったようだ。わしが『よっ!デブゴン』と言ったからではないと思う。
『簡単』内部は明るい照明があり一層目はスライムやコウモリなどで,確かに楽だ。まぁ平均町人のLv.2~3ぐらいあれば十分かな。軽く棒でつつく程度で倒すことが出来る。入ってすぐはガンソードを振り回していたが,的が小さくて動くコウモリとの相性が悪く,リーチが短くてすぐに疲れたのだ。
二層目では,同じモンスターが少し強くなったのと,ゴブリンと数体出くわしたぐらいだ。ここは光る棍棒でキレッキレなヲタ芸の振りをするポン○の独壇場だったというか,わしとミィは近寄らなかった。ただナナ○は,モンスターを落とすたび『ポン○師ぱねぇー』を連呼していた。日頃身体を動かす平均村人か,かけだしの冒険者である,Lv.5もあれば十分だろう。
三層ではゴブリンのレベルも上がりオオカミにまたがって出てくることもあった。各々相手に合わせて得意な武器に持ち替えたりとする中わしは動きも速いし,つい短気じゃないけど胸に『しぇりふ』と書いたバッジを付けて気分は荒野のガンマン気取りでガンダガーを撃って沈めていった。この層ではLv.8ぐらいかな。
最下層の通路で,休息。
壁には黄色い三角マークに,『i』があるブートと横に『スタッフルーム』と書かれたドア。
『この奥が,ステージボスの部屋になっています。この通路は,セーフティエリアになっているので,体力及び状態異常の回復,装備に不備はないかなど休息をとる場所として使用してください。何らかの理由でリタイアを望む場合は,横のインターフォンでスタッフをお呼び下さい』
「ボスはゴブリンの上位種だとおもうっす」
「同意」
「無印とゴブリンライダーが出てきたから,順当に行けばチーフかリーダーかな。まさかのジェネラルとかは無いと思う」
「ふらぐ? おなかすいた」
「下へ降りるほど,難度が高くなるけど体感的に,Lv.10前後かなと」
「いや,レベルと撃破数てらくる難易度で行けば,ボスは1体かもっす」
「質と量の比重とか,最後の試練的な意味合いもあるかもでござる」
「まっ行ってみよぉー」
扉が開き,正面には間仕切り(?)と『扉が閉まりますので参加ご希望の方全員が入って下さい』と張り紙がある。
4人が入ると扉は自動で閉まり,間仕切りが消失した。
そのさきには,品のない椅子に座る少し大きなゴブリン。装備からジャーマンで身体の大きさからチーフかとあたりを付ける。その左右に4組のゴブリンライダーとオオカミが2匹。
展開されるとやばいなととっさにわしは「ファイヤーボール」の魔法を撃つ。
「ごめーん,まだ調整が出来なくて・・・」
保有魔力の大半を使ってしまい倦怠感に重い足で,ドロップ品を回収して,3人に差し出し頭を下げるわし。落ち着いてすれば,ちゃんと普通サイズの「ファイヤーボール」が打てるのだが,慌てると出力調整が甘くなって「ファイヤーウォール」な範囲で「ファイヤーストーム」みたいになってしまうんだ。
わし一人で殲滅した形になってしまったのだ。自分の過ちを素直に認めて謝罪するわし。でもミィの場合はドヤ顔するんだよな。
床に転送陣か現れて,わしらは『適度』の扉の前に転送された。
しかしミィさん,転送前がずっとわしの臑を軽く蹴り続けるのは止めてくれないかい。君の連続攻撃は,前の攻撃力に加算される形になる特殊スキルなんだから,いいかげんに止めてくれないとわしの足が大変なことになる。
ミィをなだめながら,カウンターの変動に眉をひそめる。『TUTORIAL』では無かった項目『死亡』と『REPEATER』。その統一性を無視したネーミングにではなく『死亡』のカウンターが『TUTORIAL』に入る前に見たときよか上がっている。
MP回復のポーションを飲みながら広間を見回すと,あの傭兵団は見当たらない。この中か『困難』のほうだな。
朝9時頃から始めた『TUTORIAL』と『簡単』は,11時過ぎに終わった。あれから1時間少しだけど,彼らの実力と『適度』の情報不足で予想すら出来ない。
あっ外からの入口を眺めているジムさんがいた。「ちょっと待ってて」と言い残し「事務さぁーん」と手を振って近づき胸の前で両手で握り拳を作り,縦に小さく飛び跳ねながら「ねえねぇあのカックイー兵隊さん達は今ドコなの」とかわゆくてあざといわしは目をキラキラさせて小首を傾げながら見上げる。
「おぅウィちゃんか。まだ真ん中ぐれえかな」
「ん。ありがとー。じゃあねぇー」
パタパタと擬音が聞こえそうな感じで,仲間の所へ帰って行く。
「お昼ご飯は,どおする?」
「お昼には少し早いけど朝早かったから,食べちゃおうっか」
ダンジョンの中と屋台のほうを交互に指さし意見を求めると,ナナ○が椅子とテーブルがあるフードコートぽい一角を指し示した。
「「「応」」」
ナナ○が背負ったインベントリーバッグからまだ暖かいお弁当を取り出し,丸テーブルに座るわしらの真ん中に置いた。大中小の包みが2つずつ。
わしとミィが小さい包みを各々取り,ナナ○が中ぐらいのを1つ,ポン○が大きいのを1つ取り残ったのは,真ん中で広げてみんなで取り分けるのだ。
ナナ○が手作りで作ってくれたわしの弁当を見て,心の中でため息をつく。タコを模ったウインナーとウサキを連想させる果物のド定番なお子様向けキャラ弁だった。
こんな思いをするならノリ弁が良かったのにと,最後に残ったタコウインナーがミィの箸で水揚げられ,代わりにカリフラワーがすとんと着陸した瞬間に頭をよぎった。
「練りもん嫌い言よったけん,代えたげたんじょ。野菜しっかり食べよ」
MPの急激な低下による頭痛さえなければ即反応できていたかもしれない。
ウインナーは魚肉ソーセージとはちゃうわいと反論する声は,自らの嗚咽にかき消された。
ここまでお読みいただき,ありがとうございます。
ナナ○は元々無口ですがポン○とナナ○は,わしとミィがいるとほぼ黙って見守ってくれてます。
闘い方も二人は連携で当たることが多いですが,わしとミィはそのときのノリです。