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A-to-Zombie!  作者: 時流話説
8/50

海老沢譲司 5

「このドアのままでは、駄目だよね」


海老沢は、周防に話しかける。

沈黙に耐えられなくなったのもあるが、黙っていては、外から聞こえるものが多すぎたというのも、精神に来た。

外から聞こえる、悲鳴、怒鳴り声、喧騒、何かが衝突する音、聞いたことのない音。

そのすべては人間が起こしているのか、あいつらが起こしているのか。

わからないからこその不安があるが、見に行くのは危険すぎる


「ねえ、周防さん―――何か、重いもの、無いかな」


彼女に問う。

部屋の向こう側………下座と上座よりは、距離を感じる。


「重いもの………?」


「そう、重い棚とか。何かでドアをふさぐ」


「―――えっと」


少し迷っている様子の彼女。


「何か、本棚とか?本がたくさん入っていれば」


彼女が言うが、サッカー部部室に本棚はないだろう、つい、笑いかけてしまった。

気分を害し、彼女は睨んでくる。


「ごめん、笑ったわ―――本棚はないな、どう考えても」


「そう―――ね、そうね………」


彼女が虚空を見つめたまま、呟く。


「みんな………」


「え?」


「教室のみんな、は、どうしてるの、平気かな」


その考えを聞いて、僕はとっさに、この非常時に他人の心配かよ、と思ってしまった。

だが彼女が思いのほか、沈黙していた。


………僕も、自分が正解かどうかわからなくなってきた。


「そんなの………そんなこと言っている場合じゃない、早くここをふさぐんだ、こんな鍵だけじゃあ」


「そんなことって―――」


黙って、にらみ合った。

暗い室内で。


「僕はここをふさごうって、それが最初だって言っているんだ、」


出入り口をふさぐこと、出来る限り厳重に。

それが安全贅を高める、ほぼ唯一の方法だった。

何もないようなこの部屋において。


「海老沢くん友達のこと大切じゃないの?そんなの、なの?そんなことが、ねえそんなことって」


「大切かって、心配だよ………でも、だからこれ以上悪くならないように」


「もういい」


「もういいって………そんな」


沈黙。


自分の思考がおかしいのか。

思考がぞんざいになっていることを感じる。

ぞんざいなのはこの状況だけれど。

現状が最悪だし、その―――今の状況になった理由も、教えてくれない、教えてくれる人は―――もう、

………とにかく、今の僕は冷静ではない。


「ふふ、ふ」


突然周防さんが変な声を上げだして

笑っているようにも見えた。

何故。


彼女は壁に手をついて、立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付く。

ふ、ふ、と変な声を漏らし―――



僕の隣に座る彼女。


「うそうそ、大丈夫よ………もう」


ドアに背を預け、目を閉じる彼女。

その意図はわからなかったが。


「ああ、起こってないならいいけど―………でもなぁ、周防。こんなことしている場合じゃないぞ」


「ううん―――いいの」


彼女は、僕の隣に、座って、そして身震いしたかと思うと、僕に肩をぶつけてきた。

僕は驚きを隠せない。


「ドア、塞ぐんでしょう?」


彼女が呟く。

意図は――――一応は、わかった。

僕と彼女は、二人、並んでドアを背にしていた。




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