表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A-to-Zombie!  作者: 時流話説
5/50

雀荘にて 2


雀荘。


今がどういった状況なのか、簡潔に説明できる者はこの中にいなかった。

だがつい先ほどから、外がにわかに騒がしくなり、何かの乱闘騒ぎらしいという声が聞こえてきて、卓待ちの連中が野次馬がてら、何人か外に様子を見に行った。


逢野、帯金、竹部、檜垣の四人もその騒ぎを、気になりはした。

だが思ったよりもその時打っていた一局に力が入り、これに熱中していた。


それがどうやら運がよかったと気づけたのは、しばらくたってからである。

明暗を分けた。

喜々として出かけた野次馬組が誰もこの雀荘に戻って来ない―――、それに対して外の乱闘騒ぎの音は大きくなる。

大きくなるというべきか、多くなるというか、とにかく徐々に規模が増すようでもあった。


―――流石に営業妨害だろう、どういうことなんだ、まったく―――。


と、息巻いて出ていった店主の親父は、扉を開けて出ていって一時間ほど経っただろうか、―――帰ってくる様子はない。

皆、荷物をここに置いたままどこかに消えてしまった。

ただ、消えて―――気のせいかもしれないが、『外のあいつらの人数が増えている』ような気がするという印象があった。


麻雀での勝負は、何度もついたが、人間のものとは思えない悲鳴が聞こえたときは、身がすくむ思いだった。

俺たちは麻雀を続けた。

それでも---。

理由は誰もおそらく、わかっていないだろう。

だがこの部屋で麻雀をし続けた。

何度も、何度も、狂ったように。


あれからどれくらい時間がたっただろうか―――今も。

甲高い、無機質な音が、どこか遠くで聞こえた。

金属をたたくような音だが、 この雀荘ではない。


時折り聞こえてくる、悲鳴。

多くの、足音のような何か。

平常時ではありえない音が。

平常時ではありえないような音声が、この雀荘にまで聞こえてくる。


この雀荘の壁を叩いているわけではないらしい。

だがそれは今現在そうであるという話で、外の生き地獄がいつこの建物にまで侵食してくるかは、わからない。

次の瞬間にそうなっている恐れもある。


「麻雀をすることが出来る」


帯金が言う。


「店主さんはどこかに行ったし―――時間は気にならない」


じゃらり、と牌がぶつかる。


「麻雀をすること、しか―――できないんだよ」


逢野が、カーテンを指で弄ぶ。


「夢のような世界だな」


逢野だけが、窓の外を見ている。

狭い窓から、『あいつら』が見えない状況が続く。

とりあえずこの、大して構造が頑丈でもない雀荘の建物に、体当たりをするということは無いった。


部屋のあとの三人は、牌をかき混ぜる作業に興じている。


「まぁ、ここに逃げ込んだのはいくらか正解だったな、いくらでも時間をつぶせる」


彼らは全員、麻雀が好きだった。

好きという段階ではなく、そのステージではなく、足の裏から首までどっぷりと浸かっていた。

全員、二十代の若者だが、職場がバラバラの、互いを深く知らない者同士だった。


だが、その彼らは今。

麻雀が楽しくない、と感じていた。

そんなはずがないのに。

腕だけが、動く―――惰性で動き続ける。


「このままずっとやるっていう手もあるのだよ。次は半荘でやろうぜ」


竹部(たけべ)が呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ