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A-to-Zombie!  作者: 時流話説
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A-to-Zombie 4


学校の休み時間に血液型占いと称する戯れに興じている友人はいたし、混じったことはある。

僕が自分から話を、その話題を振ったこともあったとは―――思う。

だが僕の血液型を一発で言い当てられたことは、果たして今までにあっただろうか。

確率上は最もレアなタイプだと記憶している。

人数は少ない。


しかも昨日出会ったような人間に。

そもそも僕はあれを悪趣味なものだと思い、信用していない。

血液型で人の何がわかるのかと。

なにが気まぐれだ。

なにが天才肌だ。

いや天才肌になる人生も良いが、なんだか自分が少数派だとわかると一瞬得意げになり、レア度を誇りたくなる心境にもなったが、まあたいていは直ぐにどうでもよくなるもので。

記憶に強く印象付けられるものではなかった。



「なん―――で―――」


と、言っている間もなく、集まってくる感染者たち。

いや―――『A型』か、つまり。

A型の人間の、死体が―――動いている。


「ロロ『オオオオオオオオオオオォ』『ロロオ』『ロロッ』『オオオロロ』『ロ』『オオオロ』『オオ』」


死体のその声は、人間のような言語でもなく、動物の単調な鳴き声に似ていた。

しかしそれですらなく、ただ喉があって空気がそこに出入りしているから、肺も残っているから物音がでている、というような音声だった。


「この新型ウイルスにかかった血液がある限り、私は―――平気よ!」


彼女は思いがけない行動に出た。

僕から離れ、後ろ向きに歩いていく。

後退して、左右から感染者二人に、肩を噛まれる。


「なっ―――!」


「噛まれても死なないわ!」


そういうウイルス、そういう症状なのだ、彼女は。

甲高い笑い声とともに、白衣を脱ぎ捨てる。


歯が、感染者の歯が四つ、五つと―――数え方が、間違っているかもしれないが、彼女の肌に噛みついて彼女の身体を揺らすたびに、僕は戦慄する。

狂っている。

黒い血液をにじませながら高笑いする。

どういう感情で、それで笑えるのかわからないが止めるしかない、そして今、それができるのは僕だ。


噛まれても、もうそいつらに噛まれても平気。

そう、もはや怯えるのはばかばかしい、自分は無敵である、そう言いたいらしい。

ああ、そうかい………。


「バリケードを壊すわ………そして全員感染させる」


彼女が呟く。

僕は、大通りの脇、白いガードレールに飛び移った。

先日、走って追いかけて来た松江さんだった者を思いだす。

あれが、ぶつかって用水路に転落したものと、ほぼ同じものだった。

暴走した車が衝突したのか、それは既に壊れかけていた。

飛び移り、力を込める。

今の僕の腕力で―――固定していたボルトが弾けて転がる。


ガードレールを、引きちぎって、身体の前に立てた。


彼女が、僕のやろうとしていることを理解したらしい。

もはやこうするしかない、狂気の悪魔を。

元々はそういう意図で作られたものではない、白いガードレール。

それを持つ。

ガードレールは金属製で、厚さはそれほどない。

それでも武器を持った相手に、丸腰は無理だ。


「それで、そんな―――ので、防ごうっていうの―――?」


白いガードレールは一部変形、ひしゃげてはいたが、薄い金属板でもあった。

今の僕の腕力でなければ、この用途になり得なかったかもしれない。


彼女は感染者たちを振り切り、肩の歯型から黒い出血を弾けさせ、歩んでくる。

そして鉄パイプを振りかぶったその姿はもはや人間の面影はない。


僕は一度ガードレールにぶつけて、金属同士の音が響く。

息を吸い、そして吸いながら笑うといった、甲高い声を上げている彼女。


幅広い側面ではなく、上から見れば薄い板だ。

それを、当てる。

人間以上の腕力で振りぬいた。


狂気の笑顔を浮かべた阿部博士の表情の、わずか下、肩の上を、全力で振りぬく。

鈍い音とともに、笑い声が途切れた。

彼女は最後まで笑いを止めなかったので、物理的に止めた。


鈍い音とともに、阿部博士の『下』は動きを止めて、ひざを折る。

地面に座り込む。

切断面から、黒い血液が漏れ出した。

地面にたたたっ―――と液体が落ちる。


一秒もしないうちに、近くにあった車のボンネットの上に、切断された『上』が落ちて、ぼこん、という音を立てた。

跳ねて落ちた『上』を、僕は見ない、見れない―――目を(つむ)った。

(まぶた)を強く絞ったので、見ることは出来なかった。



僕はその場から去るのに必死だった。

病院へ戻る、戻らなければ―――。

この数の相手は困難だし、もしかしたら病院の敷地内から来たのかもしれない、と今更ながら気づくが―――とにかく数が多かった。


黒い血液の力で、跳躍すれば、わずかに振り向くだけの余裕は生まれた。

空中で風切り音を聞きながら、後ろを振り向く。


最後の光景も、座り込んだままだった。

感染者たちが、大量の人間だった者が濁流のように揺らぐ。

蠢いて。


首から漆黒の血液を溢れさせる彼女に集まり、群がり、覆い―――。

それきり、見えなくなった。

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