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A-to-Zombie!  作者: 時流話説
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A-to-Zombie 1


「黒い―――血液!」


僕は阿部博士の白い肌の内面に存在するそれを見て、事態が全く変わったことを察した。

混乱の中で、どうしてこんなことになっているのかは説明がつかないが。

何時(いつ)からだ―――今まで彼女の肌にそんなものが浮かんだことはなかった。

だが感染していたのか、という事は噛まれたのか。

僕と出会う前に。


入ってきた男は。

もともとは研究所の職員だったのだろう、恰幅のよい男性は壁に背を預け、吐血したまま、動かなくなった。

開いた口元から血が流れている―――それのみが、まだ動き続けている。


僕は―――博士に言う、問いかける。


「感染―――したのか、なんで―――」


いや。

今さっき、注射を自分に打っていた―――という事は、それが原因なのだろう。


「―――あなたが、やったんですね?」


「そうよ」


彼女は、人を一人、殺した後には絶対に出ない表情を浮かべ―――つまり笑顔を浮かべていた。

心の底から沸いてきたかのような笑顔だが、どこから―――どんな………。


「ど、どうして―――こんなことが?どうしてこんなことを―――」


「こんなウイルスになる予定では、無かったのよ」


彼女は、靴音を鳴らし、一歩前に―――僕の方に歩んでくる。

な、何だって?


「こんな予定---?」


そうだ、彼女はこんなことはしたくないはずなのだ。

こんなことをするような人間には、見えなかった―――長い付き合いではもちろんないが、それでもこんなことをしてはいけない、するはずがないとわかる。


「人間の血液に作用するわ。私は常人とは違う力を手に入れた」


予定とは違ったけれど、成功したのよ---。

そういう彼女を、指差して、僕は叫ぶ。


「し―――死んでいるんだぞ、外を!外だ!見てみろ!死んで―――死んでいる人がいるんだぞ!」


こいつ………、こいつ!


「駄目だ………!とにかく駄目だっ、ついていけない!」


「予定とは違ったけれど―――実験は成功したのよ!」


鉄パイプまではそう遠くなかった。

それを駆け寄り、つかむ。

そして狂気の悪魔に飛びかかった。



鉄パイプを全力で振り回せば、今の僕なら常人とはけた違いの威力を出せる―――それを。

彼女は素早くかわす。

躱された、だって―――?


そして打撃を喰らう。

よく見えなかったが、おそらく蹴りだ。

それを喰らって、僕は再び吹き飛ばされる。

破砕音と共に転がったのは、また机上である。

研究機材の付近だ。


「くそっ………!」


「どうしたんだ!」


と、飛び込んできたのは僕の声ではなかった。

雀荘からの合流組、逢野と檜垣であった。

先程、職員の男性が入って来た入り口だった。


二人は大きな物音を聞いて入ってきたようだが、博士の外見の変化を見て、驚愕の表情を浮かべていた。

僕は、阿部博士と逢野さん、檜垣さんを視界にとらえる。

さらなる悪展開の予感に、素早く姿勢を直し、博士に飛びかかる姿勢に入る。

だが阿部博士は―――その後、身を翻し、走って研究室を横切る―――窓を開ける。

外は曇り空だった――そこから、機敏な動きで逃げ去っていった。


この研究室から出ていった。



二人は僕に駆け寄る。


「博士だったんだ―――あれが、あの人が犯人だ」


この事件の犯人、すべての元凶。


「何があったんだ、あの人も感染したのか?」


きょろきょろと、室内を見回す二人。

信じたくないようだし、周りにほかの『感染者』がいたのか、と考える方が、確かにあり得るだろう。

でも。


「そうじゃなかったんだ、自分で打っていた―――ウイルスを注射で」


「じゃ、じゃあウイルスを調べてワクチンを作るという話は………!」


「あれは嘘だ!最初からこのつもりで―――」


二人は職員の男性の死体を目の当たりにする。

まだ信じられなかったようだが、それを見て、どうやら事態を受け入れるしかないと考えたようだ。

この研究室も、ワクチンを作る目的ではなく、どうやらここで作っていたらしい―――元凶を。

ここに、彼女が注射するウイルスを置いていたのだ―――。

ウイルスを。

つまりここに、ウイルスを取りに来たのだろうか。

彼女は多く語らなかったが、大体はその目的だろう。

どちらにせよ、あの犯人から、もっと聞きださなくてはならない。

感染者の、凶暴な人間を殺したのではない、普通の人を殺した。


「人を殺したんだ、あの人は―――!」


「どうするんだ、でも博士、出ていったぞ」


「ああ、でもなんでだ?外には感染者がたくさんいて、別に出ていく意味は―――」


僕も身体能力が変化し、向上している。

興奮時に黒い血液が浮かび上がる体質は、これに関しては気味が悪いと今は思っているが―――。

僕と阿部博士は、同じ症状だ、死ぬのでも、死んでからふらふらと彷徨うのでもない。

正常な意識は残っているものの、ある種の、危険な体になった。

同じ体質でこの研究室で争っても、不利、長引くだけだと判断したのか―――?


「と、とにかくここは駄目なんだろ、戻ろうぜ―――帯金たちのところに」


「そうするしかないか―――病院に戻って―――いや、待てよ。病院だ!」


病院に急ぐ、急いで戻る。

それは僕たちだけではない。

もしもあの阿部博士が、今病院に向かっているとするならば―――!

そんなこと、何か―――大変なことになる。




――――――――――――――――――――――――





三人で走り出したが、海老沢くんの走力、それは人間離れしていて、とても追いつけるものではなかった。

ましてや大通りだ、走るスペースは十分―――だが、あの国立病院も大通りに面していた。

でかい建物だからその立地は不自然なことではない。

だから、だけど危険なのはここを走って、まっすぐ行けば病院に付けるということ。

一本道だという事実。

狂気に走ったという博士が先にここを走って行ったのだとすれば、まずい。


海老沢くんはぐんぐん前に出ていく。

鉄パイプを持って走っているにもかかわらず―――である。

黒い血管が浮き出いているのがわかる―――どうやら運動時に、特に激しい運動時に色濃く浮かび上がるようだ。

しかし追いつくのがつらい。

いや、無理である。

俺と檜垣もまだ二十代だし、もしかすればという気持ちもあったのだが、走る速さも異なるらしい。


病院へ戻る道のり、その道中で、彼は博士を見つけた。

彼女は走ってはいなかった。

走らずに、彷徨っていた腐った感染者を、二、三匹を、蹴散らしているところだった。

当然のことながら、彼女に苦戦している様子はない。

なんてことだ。


「博士!」


海老沢くんが叫んで博士にとびかかった。

つかみ掛かって、二人とも倒れる。


海老沢君に急かされて、俺たちは先に、病院へ急いだ。

何があったかを伝える――それから、それからどうすればいい。

とにかく病院の人と話をしなければならない。


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